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 私はまだ名前も知らないこの人にとても興味を持ってしまいました。いったいどういった理由で世界中を旅しているのだろう。どうしてフランスにいたのだろう。しかし、なんとなくその疑問を言葉にするのは気恥ずかしく、黙ってしまいました。

 「セーヌ川に近いサン・ミシェル大通りのカフェのテラスは思い出深いですね、リキュールが入ったコーヒーが、安い値だというのにすごく美味しいので、旅ばかりしている僕にはとても助かりましたよ」

 フランスに憧れを抱いていたことが、何かの表情や仕草、目線でわかられてしまったのでしょうか。彼がフランスについて少しだけ話してくれましたが、私は新鮮で聞き慣れない言葉に圧倒されていたのでした。

 駅はそう遠くないので、私たち二人はすぐについてしまい、彼とはそこで別れました。

 帰る道の途中、なんとなくこの体験は誰にも話してはいけないような気がしました。同時に、このことを、千恵子さんや時子さんが知ったらどう思うだろうと思いました。羨望せんぼうされてしまうのかもしれない。千恵子さんも時子さんも同じような体験をしたことがあるのかもしれない。けれども、二人とも自分だけの秘密にしているのかもしれない。そう思うと、なんだか恐ろしくなり、ウィジャ盤に、時子さんは秘密を抱えていますか。千恵子さんは秘密を抱えていますか。と質問したくなりました。しかし、その質問の後に、私自身も何か秘密を抱えているのではないか。と二人から問い詰められることは容易に想像がつき、私はどこか自分がとても孤独なのではないかという不安にとりつかれました。

 その夜、本屋で出会った彼のことや、フランスのこと、それから千恵子さんや時子さんのことを思い、うまく眠ることができませんでした。ウィジャ盤に何を質問しようかということも考えましたが、その考えもまとまらず、ただただ朝がくるために夜を過ごしていました。

 次の日、学校で二人に会いました。二人はウィジャ盤について話していたのですが、私はずっと虚空こくうを見つめていました。その様子に二人は気づいたのか、私のことを気にかけてくれましたが、私は何と答えればいいのかわからず、息を止めたような気持ちで、少し体調が優れないのかもしれないけれども、心配しなくていいと伝えました。時子さんは察しがよいから、それ以上何も話しかけてきませんでしたが、千恵子さんはその後も数回私のことを心配してくれました。

 その週はウィジャ盤を行わないことになりました。私の体調不良がきっかけです。私はどこか落ち着いたような気持ちになりました。そしてだんだんと、怪奇趣味を通じて、他人の噂話をしていたことが馬鹿らしく思えてくるようになりました。

 それからまた、本屋へ行くと、また彼と出会いました。本屋へ行く途中、ウィジャ盤のことを考えていたせいか、偶然が続くということにどこか気味悪さを覚えていました。しかし、彼は私に微笑みかけてくれました。

 「先週はありがとうございました。ところで何か心配事でもあるのですか」

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