賽の河原
加藤ともか
賽の河原
いつになれば終わるのだ? この果てしない徒労は。
僕は今日も石を積む。何の為に積んでいるのか、てんで検討がつかぬ。鬼は言う、「父母に先立った詫びだ」と。これが何の詫びだと言うのだ? こんな事をして、僕の両親が喜ぶとでも思うのか? これに意味があるとは思えぬ。しかし続けねばならぬ。意味は無くとも、それが使命なのだから。
「よし、やっと出来た!」
束の間の糠喜び。地獄に落ちてからと言うものの、この時くらいしか『楽しい』とか『嬉しい』とか感じられる瞬間が無い。だからその瞬間を何よりも大切にしている。すぐに梯子を外される、それは分かっているのだけど。
積み上がった石を、目の前の鬼がすぐさま崩していく。そんなのだから、いつになっても終わらない。終わる訳が無い。
「さあ、また石を積み上げて貰おうか」
鬼は言う。ああ、何て理不尽なんだ。どうして親より早く死んだというだけでこんな目に遭わなければならないんだ。確かに、両親に先立ったのは事実だ。だけど、特別早く死んだ訳じゃない。弟は生まれてすぐ死んだ。妹は生まれて半年で死んだ。多くの子供が生まれて間もなく死ぬ。だけど十歳まで生きられた。それだけで十分じゃないの? それなのに、どうして……どうして…………
「鬼さん、どうして石を積まなければならないのですか? 教えてください」
「
「これのどこが償いになるのですか? というか、僕が犯した罪って何ですか?」
「それは、お前が父母に先立った事だ」
「そのどこが罪なんですか? 僕は病に倒れて命を落とした。それが罪とでも言うのですか?」
「罪だ! 子に先立たれるのが、父母にとってどれ程の悲しみか分からぬか!」
「罪? 間引きとか言って、生まれたばかりの子を殺す親がいますよね? その時の親は悲しんでいるのですか? 親に殺された子は罪を背負っているのですか? ねえ、答えてくださいよ!」
「…………」
「答えられないじゃないですか、鬼さん! じゃあ早く終わらせてください! こんな無意味な石積みなんて!」
「…………お前の言いたい事はよく分かった」
「本当ですか? 鬼さん。じゃあ……」
「ダメだ」
「どうして!」
「良いか? 世と言うのは常に理不尽なものだ。それは
「じゃ、じゃあ、どうして……」
「
「その仕組みは……いつ……誰が……」
「俺だって分からぬ。昔から、そう決まっている。そうとしか言えぬ。俺にも、お前にも、それを変える力など無いのだ。さあ、石を積め。それがお前に許された、唯一の道だ」
「は……はい……」
僕は石を積み上げる。無駄だと分かっていても、ずっとずっと。それしかできない、許されない。それが運命なんだ。だから、諦めて……諦めて…………。
賽の河原 加藤ともか @tomokato
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