第3話

「お帰りなさいませ。リリム様」


「あぁ、ただいま」


 リリムが屋敷に戻ると、メイド服を着た複数の女性達が出迎えた。彼女達は今まで生贄にされた女性達だった。


「もしかしてみなさん、今までの生贄の方々ですか?」


「そう。催眠術で従わせてる」


「えっ!ずるい!私にも掛けてください!」


「いや、要らんだろお前には」


「ぶー!」


「お前の部屋はこっちだ。ついて来い」


「……はぁい」


 不満そうに唇を尖らせながらリリムについていくと、何も無い部屋に案内された。床には魔法陣が描かれており、緑色の光を放って部屋全体を照らしている。


「これは?」


「ワープ用魔法陣。この魔法陣の先がお前達生贄の家だ」


「乗れば移動するんですか?」


「いや、スイッチがあるんだ。先に起動してからじゃないと意味がない」


 そう言ってリリムは壁のスイッチを押した。魔法陣から放たれる光が緑から赤に変わった。


「赤色の時が起動してる状態な。一回使うと自動で切れるから。さ、アリス。手を」


「はい」


 アリスはリリムの手を取り、一緒に魔法陣の上に乗る。すると、景色が一瞬にしてログハウスの一室に変わり、魔法陣は緑色に戻る。


「壁にさっきと同じスイッチがあるだろ?あれを押したら魔法陣が起動して、さっきの部屋に戻れる」


「ほえぇ……凄いですね」


「で、この扉を抜けた先がお前の部屋な」


 扉の先には、カーテン付きの窓がついたシンプルな個室。家具はベッド一つだけ。


「こっちの扉はどこにつながってるんですか?」


「外」


「外?」


 アリスが来た場所とは別の扉を開けると、その先には花畑が広がっていた。


「うわぁ……凄い……綺麗……」


 月明かりに照らされる満開の花畑に、アリスは思わず見惚れる。


「……アリスは、村が恋しくなったりしないのか?」


「……無いです。私の居場所はあの村には無いですから」


「……そうか。なら、せいぜい二十歳の誕生日まで健康で居てくれよ。健康な方が美味いからな」


「分かりました。リリム様のために美味しい血をお作りします!」


「……あぁ。頼んだよ。食事は彼女達が用意してくれるから。朝起きたら日の光を浴びて、適度に運動して健康な身体を保ってくれ」


「他の皆さんはどちらに?」


「あの屋敷に住んでる」


「えー。私だけ仲間外れですか?」


「逆だよ。特別なんだよお前は。あんな陽の当たらない暗いところでずっと生活してたら不健康になるだろ」


「特別……!」


 その言葉の響きに酔うアリスに、リリムは少し呆れる。


「言っておくが、恋愛的な意味はないぞ」


「私は貴女のそばに置いていただけるだけで満足ですよ」


「……それで満足なら好きにしろ」


「はい!リリム様のお役に立てるよう、精一杯頑張りますね」


「変わった人間だな。お前は」


 この時アリスはまだ知らなかった。リリムがアリスを特別だと言った理由を。

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