第2話

 あれから八年経った。今日は十年に一度の生贄を選ぶ日。

 アリスは村長に、自ら生贄になることを志願した。両親は「馬鹿なことを言うな」と泣きながら反対したが、両親の反対を押し切って生贄になった。村長や村人達の前では泣いていた二人だが、内心は清々していた。アリスもそれを理解していた。

 

 夜になるとアリスは、手足を縛られて森の奥にある祭壇の台の上に運ばれて置き去りされた。アリスを運んだ村人達がいなくなりしばらくすると、バサバサと羽ばたく音が聞こえてきた。その音は館の方からだんだんと近づいてきた。アリスが音の方に顔を向けると、月明かりに照らされる銀色の長い髪が見えた。

 銀色の髪の持ち主はアリスの前に降り立ち、しゃがんで目線を合わせて「久しぶりだな」と笑う。その姿は、アリスが初めて会った時と全く変わっていなかった。


「会いたかったよ。ずっとこの日を待っていた」


 リリムのその言葉を聞いて、アリスは胸を躍らせた。


「私も会いたかったです!」


「お、おう……生贄とは思えないほどキラキラしてんな……」


 目を輝かせるアリスを見て、リリムは苦笑いする。自分を見てこんな顔をした生贄は初めてだった。


「だって、私もずっと貴女に会いたかったんですもの!今日という日をどれほど待ち侘びたか!さぁ、私の血を存分に啜ってください!」


「いや、逆に吸いづらいわ。ところでお前、いくつになったんだ?」


「十四歳です!」


「……十四かぁ……若すぎるな。もうちょっと熟成するまで寝かせとくわ」


「えっ……吸わないのですか?」


「二十歳になるまでは吸わん」


「そんなぁ……ようやくあの時の恩返しができると思ったのに……六年もお預けだなんて……」


 落胆するアリス。リリムは苦笑いしながら彼女の手足を縛るロープを切り、抱き上げた。


「ロープ、切っても良いのですか?逃げてしまうかもしれませんよ」


「逃げないだろ。お前は。自分から生贄に志願するくらいなんだから」


「ふふ」


「……しっかり捕まってろよ」


「はい」


 リリムは翼を羽ばたかせ、アリスを抱えたまま屋敷へと向かった。

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