第11話 推しと現状把握 2
「あの……フィナ様」
リリエールさんからお伺いをたてるようにそっと呼ばれたので、わたしはいつのまにか俯いていた顔を上げた。
「なんでしょうか」
「フィナ様は縁結びの達人とお聞きしました。失礼ながらそれがギフト<固有魔法>であることも聞き及んでおります。いったいどのように運命の相手同士だとわかるのか、差し支えがなければ教えていただけませんか?」
「リリ」と、咎めるような推しの声。
だけどわたしは微笑んでしまいそうになるのを、口の端を引き結んでこらえた。
「構いませんよ。では、よろしければリリエール様のお相手の所在を確認してみましょう。ご不快でなければのお話ですが」
「本当ですか!? もちろん、ぜひお願いします!」
「リリ」
推しの堅物具合が声に出ている。
だが、わたしはそっとバックミラー越しにこちらを見ているだろう推しへ向かって微笑んでみる。
「長い道中ですし、楽しい話題のひとつにしていただければ嬉しいです。あ、でもリリエール様は婚約者がいらっしゃるのかしら」
「いえ、我が家は欲しいものは自分で狩れ──ゴホン、好きな相手は自分で見つけなさいという家庭ですので。そのあたりはお気になさらないでください」
いま狩りの話しなかった?
「それと、3つほど留意点があります」
ひとつめ。必ずしも相手が異性であるとは限らないこと。
わたしがそう言えば、リリエールさんは驚いたようだった。
異性愛以外について、この世界じゃそこまで偏見はないし、ある程度の割合で同性を愛するは人はいる。
だけど、それは平民だけだ。貴族では同性愛はご法度というイメージである。
血筋を繋いでいくことに価値を見出すもんね、貴族って。
ここに関してはわたしは前世で得た知識によって懐疑的なのだけれど。
血筋がすべてじゃない、と外野がいくら言っても無意味なのは確かだ。
「そうなんですね……。でも、大丈夫です。いざとなったら家を捨てますので」
あまりにも愛に生きすぎている。
推せるわ、リリエールさん。
そしてふたつめ。
運命のお相手は亡くなっている可能性があること。
そしてみっつめ。
お相手が、運命のお相手でなくても十分幸せに暮らせること。
「必ずしも、一番縁がある相手と結婚できなくても、幸せになることは可能です」
「では運命の相手とは」
珍しく推しが口を挟んできた。わたしはバックミラーを見つめ、説明する。
「愛情が必ず芽生え惹かれあうこと、とわたしは定義しています。惹かれあわなくても、愛情がなくても、結婚して暮らしていくことはできますよね。その方の人生の意義と価値観によって、幸福は左右されますので」
つまりはゴール目標をどう設定しているか、なのだ。
裕福に暮らしたい、愛情はいらない、という人にとって、わたしのギフトにはなんら価値はない。
だが愛に満たされた人生を送りたいと言う人にとっては、わたしのギフトはある種の道標になるだろう。
「以上の三つを理解いただけたならば、ぜひ拝見しま──」
「お願いします」
食い気味のリリエールさんだ。
愛に一直線である。
「そ、そうですか。わかりました、それでは拝見いたします」
わたしは手荷物の中から、A4サイズほどの木枠を取り出す。
そこに魔力を通せば、木枠の中でスクリーン映像みたいにこの世界の地図が浮かび上がる。
まずは、ふうと深呼吸。
まるでレンズを切り替えるように、視界から薄膜を剥ぐように。
瞼を閉じて、ゆっくり開く。
リリエールさんの体から、十本の糸が出ている。
カラフルに染色されているそれは、みんな鮮やかな色だ。
わたしはその中の、糸というよりは紐といった方がいい、太く撚られている糸に目をつけた。
それは心臓のように真っ赤な色をしている。
そう、つまり、わたしのギフト固有魔法は「縁が可視化される」こと。
可視化される縁が、だれがそのように設定しているのかはわからない。
神かもしれないし、精霊かもしれない。
きっと考えても無意味だろう。
「おいで、リリエール様のお相手を教えてくださいな」
声をかければ、意志をもったように動く赤い糸。
糸の先端が、私の手にある木枠の中に吸い込まれていく。
吸い込まれた先、スクリーンの地図の中で糸の先端が示す場所は──。
「お相手はヒュドール王国にいらっしゃるようですね」
「いるんですか!?」
「はい。どこの都市や村にいるかならわかりますが、どうしましょうか?」
「ぜひお願いします!!」
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