第9話 推しとわたしと賢者と賢妃と最低保証ガチャ
一人目のひとが知識チートであったこと、二人目のひとが乙女ゲーの悪役令嬢であったことへの確信はある。
しかも一人目、多分処刑で死んでない。偽装死だ。
なぜわかるって? だって同時期に発生した新興国、王様が歴史上初の後宮制度つくっているし。
自分を陥れた国を捨て、賢者は新しい国を作り王になったのだろう。
しかも、おそらくヒュドールの元となった国からごそっと有能な人材引き抜かれてる感じだ。
新興国が前例のない治水政策と下水道設備の設置を行っているし、なんなら歴史家が肖像画から賢者と王が同一人物だと認定している。
いや、非業の死を遂げなくてよかったけどね……。
そして二人目。
王妃の手記にライバルでヒロインっぽい子が出てくるので確実だと思う。
たいそう愛らしい金髪の美少女は、平民として暮らしていた。
しかし、ある日彼女が伯爵家の一人娘だと判明する。
そうして彼女は王立学院に入学したのだが、その気さくで分け隔てない性格は貴族にはないものであった。
同時期に入学していたのが、のちの王妃である公爵令嬢のマーガレットと、マーガレットの婚約者であるあ王太子アルバートだ。そうしてアルバートはマーガレットと、貴族らしからぬ明るさを持つ伯爵家の令嬢との間で心が揺れ動くことになる。
しかし、貴族同士のパワーバランスや、アルバートの伯爵家の令嬢が惹かれあっていることを鑑みて、これ幸いとばかりにその伯爵家の令嬢に王太子を押しつけて──ではなく、涙を堪えながら身を引くことを決意したマーガレット。
だが、マーガレットの真実の愛に雷のごとく身を撃たれた王太子アルバートは、マーガレットに永遠の愛を誓うのだった──。
……マーガレットはおそらく周囲から勘違いされる人生を運命づけらていたのだろう。そうでないとあまりにも不憫である。社交界という、ギスギスしていて些細なミスを揚げ足とられてチクチクやられるような場所に身を置きたくなかったのだろう。芸術家って繊細って言うし、前世から絵画を嗜んでいたマーガレットとしては、静かなアトリエで一生を終えたかったのかもしれない。
彼女の手記の最後には、「望み通りではなかったけれど、幸福な人生でした」と書かれている。
それだけが救いである。
しかし、彼女の手記が出版されたことはわたしには僥倖と言える。
彼女によって、前世持ちという人間といえば賢者だった人々の記憶は良いものに塗り替えられた。
アルバート王の安定した治世もあっただろうが、彼を支え続け、大陸の文化を一新した立役者であるマーガレットは後世では賢妃と称えられている。オペラでも演劇でも賢妃マーガレットを主題としたものが何度もリバイバルされている状態だ。
つまりは、前世持ちであることで即座に異端審問をかけられる事態にはならないということだ。
だが、悪い面もある。
次代の前世持ちの人間が生まれることを、人々が心待ちにしていることだ。
プレッシャーが半端ない。
歴史を塗り替えた賢者と、文化を一新した賢妃。
ガチャでいえばSSRとSSRだ。
ダブルスーパーレアが二回出たあと、わたしのような凡人が来たら。
課金を返せって感じだ。
そもそも賢者が国という体制を盤石にし、食文化も発展させたあと、残るのは芸術文化ぐらいだった。
マーガレットはタイミングがよかった。
二人により文化的な衣食住がきっちりそろい、この世界の文明は成熟してしまった。
そこにノコノコと来たのが、前世ではおそらく平々凡々に暮らしていたわたしだ。
ガチャでいえばノーマル。
ギフト持ちと多めに見てもレア。
いまだ王制だがとくに腐敗もしていない国、上下水道があり、蒸気機関車や郵便局までもがある世界になにをもたらせと言うのだ。
貴族制度の廃止を叫べばいいのか?
貧富の差をなくせ、格差社会反対! と小娘が叫んだところで、堅実な税収を行なっている貴族たちにサクッと小バエのように消されるのがオチである。
なので前世持ちのことは墓まで持っていく所存だ。
そのほうが双方丸く収まる。
この世から不幸がひとつ減るのである。
もしかしたら、過去にわたしのようにハズレガチャのような人間がいたのかもしれない。
味噌も醤油もラーメンもあるじゃんこの世界! と愕然とし、口をつぐんで一生を終えたのかもしれない。
わたしも堅実に生きていこう。
まあ、自白剤でも使われない限り前世持ちだなんて喋らないけどね。
そういえば原作主人公ルシアちゃんの婚約者である王太子レオナルド、原作で世界初の自白剤を導入してったっけ……。
しかも検体として、推定有罪どころか確定有罪の人間にブスッと注射を打ってた気が……。
──まずは前世持ちとして指紋の有用性をわたしが広めるべきかもしれない……。
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