マトリョーシカ

小者

ある人は

 気も遠くなるほど昔、ニホンという国が栄えていた。

 特に食文化については、他の国とは比べ物にならないほど盛んだった。


 ニホンの皇帝、マイウ・ウマイは料理人を1人だけ雇っていた。

 その料理人は、料理が美味いわけでもなく、不器用な男だった。

「何故マイウ様はあのような男を」

 そう周りが言っても皇帝はただ一言。


「彼の作る料理には愛が込められている」




 数百年が経ち、ニホン以外の国でいくつか食文化が栄えた国があった。

 ニホンは昔からの伝統を受け継いだ料理。人々は愛などという曖昧なものよりも、珍しい料理に興味を示していった。


 当代の皇帝、ウンマ・ウマイも、外国のタワードオデンを好んでいた。

 その状況に危機感を抱いたある農家は、料理を勉強した。

 研究に研究を重ねたその料理は、皇帝の心を無事に掴んだ。

 その農家はこう言った。


「愛?なんだそれ」




 時は流れ、世界の一体化が進み出した。今の時代は、食よりも仕事。塩さえあればいいというような人も少なくない。


 ある芸術家は知る。料理に必要なのは愛でも味でもない、芸術だ、と。

 見る者を魅了する料理を作った芸術家は、黄金比と呼ばれる美を発見した。

 その芸術家はよくこう言った。


「人は美に関心し、感心する」




 人は歴史から学び、切り捨て、新しい方向へ向かう。

 ある人はパクリだと言う。

 ある人は改悪だと言う。


 人間は、なぜ群れるのか。人から学び、成長させなければ群れる意味などない。

 1人で完結する完璧な人間などいない。

 積み重ねたものを受け継いで、受け継いで、繰り返すことでより洗練される。


 料理に必要なのは何だろうか。

 愛?味?それとも美?

 答えはない。あるのは無数の試行とその結果だ。それを不幸と思うか幸運と思うかは人による。


 だが、どんなものでも極めようとした人間には共通するものがある。

 だ。

 コツコツコツコツと、積み重なり天を突き抜けるような巨大な塔だ。


 その土台には無数の失敗があり、その中に輝かしい成功が埋まっている。

 あまりにも塔が高すぎて、影でその実態を見えていない人は諦めたように言う。

「天才だから…」

 見えないから、それだけで特別だと思うのは非常に残酷で、土台を壊しかねない。




 聞けば、巷にはマトリョシカという人形があるらしい。胴体の部分で上下に分割でき、その中には一回り小さい人形が入っている。これが何回か繰り返され、人形の中から人形が出てくる構造になっている。


 だんだん小さくなっていくその姿は、あるものを思い浮かばせる。

 段々小さくなっていくというのなら、逆に段々大きくなっていく人形もあってもいいだろう。

 もしかしたら、その人形とは人間自身のことかもしれない。



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マトリョーシカ 小者 @zyouki

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