第7話 探索


 それから七日後、私はジェシーと共に更新後から数えれば四日目となる迷宮へとやって来ていた。


 あれからデイビットが消えたという噂が初心者の中で広がりを見せており、それと同時に私の名も広まっていた。

 水面下では、ゲースが所属していたクラン『永影』も動き始めており、私たちのさらなる戦いが始まろうとしていた。


 とはいえまだ本格的に動くような時期ではなく、永影も情報収集に徹している段階だろうというジェシーの見解により、今日の目的は純粋に迷宮を探索することだった。


「今回の迷宮は巨大な廃墟のある街です」


 無人の街を進みながら、ジェシーがそう言った。

 しかし街とはいっても迷宮都市のようなものではなく、見慣れない造形の建物ばかりだ。


「……神秘的ですね」

「そうなんですよ!こういう迷宮の時は、護衛を連れた一般人が来ることもあるんです。一般人って言っても絵画を描く人とかが主ですけど」


 芸術家にとって、この不思議な造形物はなにかのインスピレーションを引き立てるようなものなのだろう。


「まあ、そういう人は最後に来るんで会うことは無いと思いますけどね」


 そんな人がいるなら少し見てみたいかもと思った矢先、ジェシーがそれを否定した。

 しかし、考えてもみれば当然だ。宝が目的でないなら、危険の少ない日に来るに決まっている。


「でも、こういう形状だとお宝を探すのも大変なんじゃないですか?」


 そう言いながら適当な建物を覗いてみる。

 中はほとんど空洞になっていて、たまに扉や階段があるだけだった。


「そうですねえ……これはすごく基本的な話なんですけど、宝っていうのはありそうな場所にあるんですよ」

「ありそうな場所?」

「はい。例えば道端に突然宝が落ちてるとかは考えづらいじゃないですか。そんな感じで、今回で言うとその廃墟の最奥とか、隠し部屋とか……街の中だと行き止まりになってる通路の奥とか、そういう如何にもな場所にあるんです」

「それはそうでしょうね」


 当然だと私が頷くと、ジェシーもこくりと頷いてから話を続けた。


「だから、基本はそういう場所を探すって感じです。あとは過去に似た構造の時にどこにあったかとかで見分けたり、探索者それぞれのオリジナルな見分け方とかもありますね。もちろん私もありますけど……」

「……けど?」


 言い淀んだジェシーの方を振り返りと、にっこりと笑顔を返された。


「秘密です♪」

「……」


 どうやらジェシーご自慢の稼ぎ方は、簡単には教えてくれないようだ。


「教えませんけど……私を見て技術を盗むのはありですよ?──ほらっ!」


 ジェシーが挑発的にそう言うと、ふと何の変哲もない建物の中を指差した。


「あ……宝箱」


 その先には如何にもな赤い箱があり、あれが探索者たちの言う宝箱というものだということは明らかだった。

 しかし何度確認しても、その建物と他の建物の違いが私にはわからなかった。私の目的は迷宮でスゴいお宝を見つけることではないのだが、それでもお宝に胸がときめかない訳がない。


「……絶対盗んでみせます」

「その意気です!」


 私が躍起になってそう言うと、ジェシーも楽しそうに笑った。

 なんだか照れくさくなって視線を逸らすと、その先でふと中で何かが動いた。


「……ジェシーさん」

「はい。敵のお出ましですね」


 ジェシーは既にその者の存在には気づいているようで、この前見せてくれたあのナイフを手に取っていた。


「だいたいの場合は、お宝あれば敵もあり、です。事前に気配がなくてもお宝をとったら突然現れたりもしますから、これは常に気をつけておいて損はないです。……ロザリーさん、準備はいいですか?」


 魔法弓を構えながらこくりと頷いた私を確認したジェシーが宝箱を開けると、それを合図とするように奥の部屋から飛び出してきたのは大きな体躯を持ち、四足でその体躯を支えながらも大きな翼を生やした獣だった。

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迷宮都市物語 @YA07

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