十二 情報分析

 中国の海洋進出と宇宙進出を阻止するために、実際に作戦行動したのは、警察庁警察機構局特捜部と防衛省極秘武器開発局、通称サイボーグ開発局・CDBと、環太平洋環インド洋連合国軍総司令官と、担当者だった。


 だが、中国より先に露国が隣国へ侵攻した。名目は隣国がナチズムを掲げて国内の露系民族を迫害しているとの主張だ。露国は隣国内に居る、隣国民である露系民族に、勝手に露国国籍を与えて、隣国がナチズムを掲げているとか、自国民を守るとの大義名分を掲げて進行している。全て、隣国へ侵略する口実なのが見え見えだ。


 露国自体がナチズムを実行している。

 隣国に有りもしない生物兵器を隣国が使用しようとしていると偽情報を流して、生物兵器まで使い始めている。露国が隣国の黒海へ陸路と海路を掌握するために進行している現在、露国の目的は海洋進出にあるのが明白だ。



 二〇三二年、十月十八日、月曜、〇九〇〇時過ぎ。

 霞が関の警察庁警察機構局特捜部指揮官室に吉永たちサイボーグ捜査官が集った。

 ディスプレイから、本間宗太郎警察庁長官と小関久夫CDB(防衛省極秘武器開発局、通称サイボーグ開発局)局長が、警察庁警察機構局特捜部部長、兼、特別捜査官で指揮官の吉永悟郎警視と、三人の捜査官、特捜班長・前田銀次特捜部捜査官(警部)、特捜班員・山本浩一特捜部捜査官(警部補)、特捜班員・倉科肇特捜部捜査官(警部補)を見ている。


「防衛省防衛局諜報部が未確認だが、驚くべき情報を得た・・・」

 本間宗太郎警察庁長官の言葉に、メガネをかけた小太り小柄の、いつもノンビリした田舎教師のように見える小関久夫CDB局長が緊張している。いったい、どんな情報を得たのだろう?




 本間長官が説明を続ける。

「情報は二つだ。

 中国が台湾を囲んで、軍事演習を行う。あれだけ東海海軍を壊滅したのに、また艦船をかき集めた。時期は不明だ。また、密かに打ち上げた月ロケットが月の裏側に着陸したと発表予定だ。いずれも未確認情報だ。

 もう一つは、露国が国際宇宙開発から脱退した。そして、隣国進攻で、核ミサイル使用の予定だ。これも未確認情報だ」


「情報は隣国進攻を企てる中国と露国の二つですか?」

 吉永は、また神の杖と隕石を使えば事はすむ、と思った。ただし、中国の月ロケットが月面の裏に着陸したとなると、中国の宇宙ステーションを隕石で壊滅したと言っても、中国の月面からの連合国宇宙ステーション攻撃は有り得る。安穏とはしていられない。


「表向きはそういう事だ。

 君たちは中国と露国の政治体制をどう考える?国家の主義を訊いてるんじゃない。

 単純に考えて答えてくれ」

 本間長官は特別捜査官の吉永指揮官と三人の捜査官を見ている。


 特捜班長前田捜査官が言う。

「独裁国家、ですか?」

「連中は、政党の政策などと大義名分を掲げているが、単純に考えればそう言うことだ。

 つまり、国家元首が決断すれば、国家を意のままに操れる。

 情報の一つ目が、隣国進出と海洋進出を図っている中国と露国の現状だ」


「では、二つ目は何ですか?」

「世界の表舞台に現れない者たちの存在だ。中国も露国も、その者たちの指示で動いているらしい」


「経済を牛耳る多国籍企業ですか?それとも、財力を持つカルト集団ですか?」

 前田特捜班長が過去の大戦の原因となった思想を思った。現在、海洋進出を企てる国家元首が、単純な海洋進出だけの考えで、他国や他国の領海に進攻しているとは思えない。その証が中国の月進出と露国の国際宇宙開発からの脱退だ。今後は、中国と露国は独自で宇宙進出を試みるだろう。


「露国も中国も、考えは同じだ。両国元首の考えがたまたま一致したなどあり得ない。

『露国と中国に何らかを指示した存在は、国家元首に憑依できる存在だ』

 妙な話だが、情報筋はそう見ている

 資金が必要な時は、経済を牛耳る多国籍企業主に指示して資金提供させ、国家を海洋進出させるように元首に指示している。またある時は、宗教団体に指示して、集団思想を偏向させている」


「では、姿を持たぬ者が、中国と露国の指導者に憑依してるんですか?

 それとも、憑依しているのは霊体ですか?」

 そんな存在はあり得ないと山本特捜班員は自分の記憶を再確認した。倉科特捜班員も同感らしく頷いている。


「今、得ている情報では、指示しているのは精神生命体らしいとだけしかわかっていない」

「ニオブですか?」

 指揮官の吉永は、二〇二五年に国際的に民主化を推進するために米国に集った、GPM(グランド・ピースメーカー・ニオブのクラリック階級ディーコン位、旧GHQ)を思った。GPMは、ニオブのクラリック階級ディーコン位が精神共棲した人間で実行部隊だ。精神生命体ではない。



「君たちも知っていると思うが・・・」

 本間長官が説明を続けた。


 現代になってニオブの存在が明らかなるのは二〇二三年六月からであるが、ニオブの存在は公表されなかった。ニオブの出現は太古の時代に溯る。

 太古の時代から、ニオブのアーマー階級とクラリック階級の最下位ディーコン位、そして一般市民のポーン階級は、地球を平和裏に人類に管理させるため、地球と人類を支配しようとするニオブのクラリック階級の上位のアーク位とビショップ位とプリースト位(レクスター系列を除く)と対立してきた。


 二〇二五年。

 ニオブのアーマー階級とクラリック階級の最下位ディーコン位と一般市民のポーン階級は、ニオブのクラリック階級の上位のアーク位とビショップ位とプリースト位を人類の歴史の表舞台から完全に排除した。


 その後、ニオブのアーマー階級とクラリック階級の最下位ディーコン位、そして一般市民のポーン階級は、人類に精神共棲し、子孫はニューロイド(精神生命体あるいはそれに準ずる存在が、意識内進入あるいは精神共棲した人類の、その子孫)となった。その結果、精神生命体としてのニオブは地球上から消えた。


 ニオブのクラリック階級の上位のアーク位とビショップ位とプリースト位に対する、ニオブのアーマー階級とクラリック階級の最下位ディーコン位と一般市民のポーン階級の戦いは、民主主義が、独裁主義を壊滅した戦いだったと言える。


 しかし、未確認の情報とは言え、地球と人類を支配しようとする新たなニオブのクラリック階級か、それに相当する存在が現れて、独裁国家の元首に憑依したのは否めない。しかも、その憑依された元首は多国はおろか、貴重なニオブの遺産が埋もれている、あの月をも支配しようとしている・・・。いずれ、太陽系の他惑星へも侵略するだろう。

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