十一 隕石群
二二〇〇時過ぎ。
「ウィルス兵器はどこにある?」
防衛省入間基地、防衛局対潜入工作員捜査部の尋問室で、鮫島京香は東条陸尉の尋問を受けた。
「コンメイ郊外だ。ヘロイン合成と同じ施設にウィルス研究所がある。
中国はヘロインにウィルスを混入させて密輸する気だ。壊滅を急いだ方がいい」
「最善の攻撃は何だと思う?」
「やはり、神の杖だろう」
「了解した。ご苦労だった」
鮫島京香は尋問から解放された。
「焼き肉を食いそびれたのは残念だった・・・」
「ここの食堂で特製のステーキを食えるように手配した。ゆっくり休め。それともCDBの班員と合流して、BBQをするか?」
「ああ、ここでステーキにする。焼き肉はまたこの次だ・・・」
「三日以内に、BBQも食えるさ」
東条陸尉は鮫島とともに審問室を出た。
ただちに防衛省入間基地防衛局対潜入工作員捜査部は、鮫島がもたらしたウィルス攻撃の情報を環太平洋環インド洋連合国軍本部に通達した。
通達を受けた連合国は、密かに国際宇宙ステーションに運んでおいた五十トンのチタン合金製の四メートルの「神の杖」をコンメイ郊外の施設に投下するよう、宇宙ステーションを移動させた。国際宇宙ステーションは二時間あまりで地球を一周する。
連合国がすでに「神の杖」を開発していたのを中国は知る由もなかった。
三十分後。
連合国宇宙ステーションの標的となったコンメイ郊外の地表は、施設を中心には半径七キロに及び全地域が焦土と化して壊滅し、施設があった地点を中心に半径五百メートルの半球状にクレーターが出現した。
神の杖の攻撃と同時に、静止軌道上の連合国軍事衛星から、これまで牽引ビームで捕捉していた多数の微小天体(隕石)が中国の宇宙ステーションに放たれ、宇宙ステーションは破壊して残骸が中国全土に降り注いだ。
この現象について、国際宇宙科学学会は、
「隕石群が地球を襲った。中国の宇宙ステーションと中国の地域が被害を受けた」
と発表した。
中国人民は誰もが、隕石群が中国の宇宙ステーションとコンメイに降り注いだと信じた。
中国科学学会は国際宇宙科学学会の報告に疑心暗鬼だった。
国際科学学会の報告を認めれば、中国科学学会は中国人民政府当局から、宇宙天体観測の不備を追求され、中国科学学会の幹部全員が処刑される。
逆に、国際科学学会の報告は偽りで、隕石群が地球を襲ったのではない、と報告すれば、中国人民政府当局は中国科学学会に、真実を報告しろ、と命ずる。
だが、人民軍のステルススパイ衛星は国際法の下に全てが連合国軍によって破壊され、もはや、隕石群が地球を襲ったか否か、真実を知る手立てはない。その結果、中国科学学会は命令不履行を問われ、幹部全員が処刑される。
いずれにしても中国人民政府当局は誰かしらに責任を押しつけて幕引きする・・・。
中国科学学会書記長は中国人民政府当局の政策を推測して、何とかせねばならないと考えていた。
多数の微小天体(隕石)はコンメイと同緯度の北緯二十五度帯付近の全地球上に降り注いでいた。
中国からの追求を避けるため、静止軌道上の連合国軍事衛星は、都市や町などの居住地を除く、コンメイと同緯度の北緯二十五度帯付近の全地球上に、多数の微小天体(隕石)を放っていたが、その実態を知る者は入間基地の防衛省防衛局対潜入工作員捜査部の東条陸尉と鮫島京香、小関久夫CDB局長と本間宗太郎警察庁長官、そして、環太平洋環インド洋連合国軍総司令官と担当者だけだった。
その後も、微小天体(隕石)は中国の宇宙開発施設や軍事施設がある同緯度帯に降り注いだが、中国を除く他の国々の人的被害は少なかった。
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