十 違和感
二〇〇〇時過ぎ。
防衛省防衛局対潜入工作員捜査部の三台の装甲車両が現れた。
「防衛省防衛局対潜入工作員捜査部の東条信一一等陸尉(米軍の大尉や、警部に相当する階級)です。
小関久夫CDB局長と話したい」
バトルスーツにバトルアーマーの東条一等陸尉は、小関久夫CDB局長が現れている通信機のディスプレイを示した。
ディスプレイの小関局長が言う。
「東条君。到着しましたね。吉永君の尋問を聞いていたでしょうから、続きを頼みますよ」
「了解しました。遺伝子分析すれば鮫島本人か、確認できます」
「では、頼みましたよ」
「わかりました、小関局長」
東条一等陸尉はディスプレイの小関局長に敬礼し、部下に指示して鮫島を装甲車に乗せた。
「では、吉永特捜部長、これにて失礼します」
東条一等陸尉は、吉永指揮官(警視、特捜部長・特別捜査官)と前田班長(警部)、班員の山本(警部補)と倉科(警部補)に敬礼してその場を去った。
あまりに状況ができすぎている・・・。
十月九日、土曜、〇〇〇五時過ぎ。東海海軍が壊滅した。
十月十一日、月曜、一九〇〇時過ぎ。一週間の休暇を得た我々のこの山荘に、鮫島が現れた。
前田たちは、今日初めてこの奥多摩の山荘の存在を知った。
この山荘は小関久局長しか知らないはずだ。鮫島はどうやってこの山荘を知った?
もしかして、小関局長が鮫島に教えたのか・・・。
「吉永君。鮫島の対応、ご苦労さんでした。休暇を続けてください」
ディスプレイの小関局長はいつもと変らず笑顔だ。
「了解。では、また」
吉永は特殊通信機器の映像通話を切った。ただちに山本班員に目配せして、盗聴盗撮波を素粒子信号探査させた。
山本はすぐさま特殊通信機器を使って盗聴盗撮波を探査した。
「盗聴盗撮はされていません」
「わかった。休暇を続けよう。まあ飲め・・・」
吉永は班員たちのグラスにビールを注いで、冷えたBBQを耐熱容器に移して炉の下のオーブンに入れて暖めた。
「新しい肉と野菜を焼きながら、これから話す事をよく考えてくれ」
「わかりました」
班員たちは炉の網に肉と野菜を載せた。
吉永は説明した。
「一九〇〇時に鮫島が現れて、一時間後の二〇〇〇時に、まるで予定されていたかのように工作員捜査部が現れた。
前田が鮫島をCDBに問い合せた時、小関局長が工作員捜査部に連絡しても、工作員捜査部の装甲車両がここに来るまで、一時間半以上かかる」
この山荘から最も近い防衛省防衛局対潜入工作員捜査部は、防衛省入間基地内の防衛局対潜入工作員捜査部だ。
吉永の言葉に前田班長が答える。
「俺もそう思います。俺たちが知らなかったここを、鮫島はどうして知ったのでしょう?
特捜部(警察庁警察機構局特捜部)の俺たちとCDB(防衛省極秘武器開発局)を盗聴しても、ここの名は出ないはずでしょう?」
「鮫島が話したように、特捜部とCDB内に口の軽い者がいて、その者が、ここに鮫島が現れる、と工作員捜査部に連絡したのではないでしょうか」
山本と倉科が前田の考えを捕捉するかのようにそう言った。
「おそらくそうだろう。
我々は防衛省極秘武器開発局・CDBに出向しているが、あくまでも所属は警察庁警察機構局特捜部だ。
我々の上司は警察庁のトップ・本間宗太郎長官だ。
小関久夫CDB局長は出向先の上司だ。気を抜くな」
「やはり、」
そう言いかけた倉科を、吉永が制した。
「サイボーグ化した組織を正常に保ってもらうように、ヘマをするな」
吉永は班員たちに、周りの林を目配せした。
鮫島が潜んでいた時のような不自然な音は聞えないが、何処かにスパイが居るかも知れない・・・。
「了解しました・・・。
さあ、肉が暖まった!追加した肉も焼けた!さあ、食って飲め!」
前田は吉永の意を理解して、山本と倉科にビールを勧めている。
さて、小関久夫CDB局長をどうやって調査したらいいか・・・。
吉永はビールを飲みながら、山荘の周りの林に耳を傾けた。今のところ、サイボーグ化した吉永の耳に、異常音は聞えない。自然界の音だけだ。
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