28. 意のない男
全員の視線が注がれる中、ゆっくりとその声の主である長髪の男が立ち上がった。彼は毅然とした目をしていた。
「ジークは我々の家族だ。家族の犯した過ちは、我々が犯した過ちだ」
その言葉にウィロックは焦りを見せる。
「し、しかし、ルート猊下……」
「ウィロック、……いや、
そう呼ばれた途端、傍目にもわかるほど顔色を変えた
「そうか……そうだね。……そうなんだね、
その声を聞きながら、
「だから最初から、透には向かないと言ったんだ。それなのに……」
低い声でそう言い、彼はふとミイアと呼ばれていた女を振り向いた。
「
雁野
「前島と連絡を取っていたのは、君だっただろ」
「それだから、なんだというの?」
ふたりの間に険悪な空気が漂う。そんな隙をついて沿島は岡宮姉妹のもとに駆け寄り「帰ろう」と声をかけた。しかし彼女たちは何が起こっているかわからないといった面持ちで呆然と立ち尽くしているばかりだ。そこへ望月が近づく。沿島は思わず身をすくめたが、彼は存外穏やかな調子で「帰りなさい」と部屋の扉を指し示すのみだった。
三人が部屋を出ると、すでに白澤が廊下の先に立っていた。
「沿島、駅前でタクシーでも拾ってそいつらを帰せ」
「はい、そのつもりです」
沿島は麗美と瑛美を連れてエレベーターに乗り込んだが、白澤はそれに続こうとしない。なぜかその場に留まり、早く行けとでも言いたげな顔で追い払うように手を振る。そのまま扉が閉まった。
外へ出てから沿島は一度なんとなくビルのほうを振り返ってみた。それは周囲の建物に溶け込み、まるで目立たない。しかし、どこか違和感があるような気がした。
中泉如駅に着くまで、誰も言葉を発することはなかった。タクシー乗り場に停まった一台へ麗美たちを預けたときも、わずかに一言か二言を交わした程度で終わった。夜景に消えていくタクシーを見送る。そのとき、背後から「沿島くん」と呼びかけられた。見るとひかるがそこにいた。なんだか久しぶりに会ったように思えた。
「よかった、無事だったんだね」
安心したというように微笑む彼に、沿島は深く頭を下げる。
「すみませんでした。先生にも、久保さんにも本当にご迷惑をおかけして……」
「大丈夫だよ。気にしないで」
そうやってひかると会話をするうちに、沿島は先ほど覚えた違和感の正体に気づいた。階数が合わないのだ。外観からしてビルには四階があるはずなのだが、エレベーターには三階までのボタンしかなかった。それを考えて押し黙った沿島の顔を、ひかるが不思議そうに覗き込む。
空には月がまだ輝きをたたえて存在していた。
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