ソロ活動その1お貴族様の愛の逃避行

 結局どこのパーティーに入っても失敗しちまう俺。ならばいっその事ソロ活動をする事にした。薬草取りや素材集めと単価が安い割には地道に稼げそうだ。


 とりあえず手堅そうな依頼を探していると妙なクエストを発見する。

 冒険者2人の旅の護衛をして欲しい依頼か。パーティーでのいざこざはなさそうだし料金も悪くなさそうだから引き受けてみるか。


「よろしくお願いします。僕たちだけじゃ不安で不安で…」

「どうか安全な場所まで私たちを…お願いしますね?」


 2人の冒険者は男が伯爵家の御曹司様で女は同伯爵家のメイド。当然身分の差があり周囲に認められるハズもない結婚だ。どうしても結ばれたい2人は駆け落ちして家を飛び出したようだ。

 しかし伯爵家では跡取りが彼しかいないようなので追手が差し向けてられている。何度も追跡を潜り抜けた今となってはその追っ手も伯爵家の使用人にとどまらず冒険者を雇って差し向けてくる始末。そこで彼らも護衛を雇うことにしたらしい。

 とりあえず北の方角に向かい国境を超えるまでが俺の任務。準備を整えて出発する。


 北の街道をそれて歩きにくい林の中を進んでいると身なりの整った初老の男と出くわした。驚いている隙に周囲を7人ほどの冒険者に囲まれている。全く油断も隙もあったモンじゃない。


「坊っちゃま、おイタが過ぎますぞ。そろそろお戻りにならないと…」

「くっ…いやだ!僕はあの家には絶対戻らない!例え死んだとしても」

「ぅ…わ、私も坊っちゃまと同じです!もう誰にも邪魔はさせない!!」


 初老の男と御曹司様の会話を見る限りあれが伯爵家の使用人らしい。人殺しはしたくもないのでここは一つ弱体化スキルで乗り切るか。


 何気なく手を上げて合図をおくると気が付いた御曹司カップルは逃げ出す。俺のスキルの巻き添えにしないよう兼ねてから取り決めていた作戦だ。ここにいる全員に弱体化を放つ。


 しかし追手達は一目散にこの場から離れ御曹司カップルの後を追う。しまった!これだと俺だけが弱体化にかかっちまう!

 咄嗟に鬼力きりょくの出力を抑えたので問題はなかった。早くあの2人を助けてやらねば!


 追手達の後を追いかけると信じられない程凄まじい速さで追いつけた。加えて感覚まで ―自分以外の動作が全て遅く見えるほどの― が研ぎ澄まされているっていうか。


 後方を護衛していた追手5人に追いついた俺は、一点集中と同じ要領で弱体化を発動させながら追手を一人ずつ殴り飛ばしていく。


 最後の3人となった使用人と追手達は完全に拘束されていた2人を人質にして無抵抗を要求してくる。

 相手が動いた後でも十分対応できる程のスピードで動ける俺は問答無用にと追手達を弱体化させる。

 上手くいき過ぎてなにこれ気持ちいい。



「ねぇキミ、さっきの動きスゴかったよね?上位パーティー並みの動作じゃないか!」

「坊っちゃま、あれは身体能力をアップさせる強化スキルでは??」


 危機的状況を脱した俺達は更に離れた所で野宿をする事に。

 それにしても先ほど自分自身に弱体化をかけちまった時は焦ったが、逆に身体機能がパワーアップしていたな。いわゆるの電属性の加護スキルみたいものか?


 そう思っているところへ2人は強化スキルを掛けるよう頼んできた。依頼者からの指示には逆らえないし俺も身につけた強化スキルを試してみたかったから渡りに船というところか。先ほどの感覚を思い出しながら2人にスキルを使用。


「おぉ!身体が軽い!どんな相手でも勝てそうだ!!」

「坊ちゃま!私もスゴイです!!これなら大陸もひとっ飛びできそう!」


 強化スキル成功だ。要するに弱体化よりも弱い鬼力きりょくで掛けると身体能力が上がるようだ。弱体化よりも少ない鬼力きりょくなのでコストパフォーマンスに優れている。俺のスキルもずいぶん幅が広がってきたな。


 そうこうするウチに夜も更けてきたので寝る時間だ。野宿の上に護衛なので寝ずの番をしようとするが2人とも俺に先に寝るように勧めてくれる。妙に疲れていたのでお言葉に甘えてオヤスミナサイ。



 目が覚めると俺の身体は後ろ手に縛られているようだ。伯爵家の使用人と冒険者達に囲まれている。寝込みを襲われるとは大失態だがどうやらあの2人は捕まっていないようだ。使用人が尋ねる。


「坊ちゃま達はどこだ?」


 それはこっちが聞きたい、という顔をすると一斉に襲い掛かってくる。

 気づかれないように指先に電撃を集中し後ろ手の縄を焼き切った俺は足先の縄も同じことをする。

 全身の自由を取り戻した俺は強化スキルを使い一人残らず叩き伏せた。


 辺りを探してみるものの御曹司カップルは見つからない。俺の寝ている間に逃げた事を考えると依頼料金を支払うつもりはなかったようだ。まんまとダマされてクエスト失敗か。

 俺は元の町に帰る。



 後日ギルドから呼び出しを受けたので行くと、多額の報奨金-元の依頼料の2倍-が俺に支払われた。相手はあの御曹司の伯爵家らしい。どういうことかと受付嬢に訪ねると伯爵からの手紙を受け取る。


 ―冒険者バル・ナーズ殿へ

 貴君のお陰で我が愚息は素行の悪いメイドと共に屋敷に戻ってきた。

 森の中を走ってきたようであちこちケガはしているが命に別状はない。愚息が貴君の名をうわごとのように繰り返すので調べてみたところ貴君との繋がりを確認した。

 貴君とのトラブルにて当方の使用人にケガがあったものの結果的には愚息が戻ってきた事には変わりない。

 よって僅かばかりの御礼をさせて頂く。―


 伯爵の情報から推測すると、強化された身体能力を使うあまり間違えて自分ん家まで戻って力尽きてしまったってことか。クエストは失敗だったが金はもらえたし結果オーライってか。

 後から何度か自分自身にて検証してみたがこの強化スキル、一時的にはパワーアップするもののその後は異常に体力を消耗するようだ。使う時はご注意を。



 ~戦果報告~

[強化]

 使用者及び対象に弱体化スキル以下の鬼力きりょくを付加すると、電属性の効果で神経伝達速度が上昇し身体能力が向上する。しかし無理に神経と筋肉に干渉する事から身体に大きな負担を与える。


 使用可能スキル:弱体化・範囲攻撃・一点集中・強化new!!



◇◇◇

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