パーフェクトプラン・コントロールヒューマン
はちやゆう
第1話
人類の英知は
これには地球上のありとあらゆる知性が仕事をし、コンピューターが熱を発し、また考える力のないものはおにぎりを握った。おにぎりはもちろん比喩である。ともかく、人類すべてが一つの目標に向かって邁進し、その準備を完全なものに整えた。
人類の代表は全会一致が望ましかったが、それぞれの国、思想、信仰の利害が絡み、なかなか決まらなかった。そのために、陰謀策謀が跋扈し、湯水のようにお金が投入され、時に戦争をし、たくさんの命が失われることもあった。それでもわれわれは紆余曲折の末、ひとりの代表を選出することに成功した。それは誰にとっても妥協の産物ではあったが、みんなで決めるとはそういうものだと誰も彼もが納得をした。
彼の名はミスターノーンスペシャル。決まった時間、決まった場所で、スイッチを押すだけの仕事のために選ばれたもの、それが彼であった。
彼の人生は生まれてこのかた特筆することがない平凡なものであった。その凡庸な彼の墓碑銘には以下のように非凡な内容が記されることは疑いようがなかった。
その日はやってきた。その時間もせまっていた。しかし、その場所に彼はいなかった。ミスターノーンスペシャルは寝坊をしていたのだ。人類にとって、いま地球に生きる生物すべてにとっても、もっとも重要な瞬間に彼は寝坊をしたのだ。
国々の代表、狡猾な資産家、信心深いマフィアまで、ありとあらゆる人間がうろたえた。計画は完全であったのにまさかこんなことになるとは、誰も彼もが想定をしていなかったのだ。彼を選ぶために、膨大な時間をつかった、天文学的な金額をつかった、そしてなによりたくさんの血が流れた。彼は普通の人間であったが、彼、ミスターノーンスペシャルの代わりなどすぐに用意できるものではなかった。
スイッチを押すことになっている時間ギリギリにミスターノーンスペシャルはスイッチのあるスタジアムに到着した。寝癖ではねた髪、ジーンズに、よれたシャツのかっこうで彼はスイッチのあるステージにむかって走った。スタジアムは喚声でわきたった。そのさまは衛星を介し全世界に中継され、それを見ていたみながスタジアム内にいる人間と同じ気持ちでながめていたといっても過言ではなかった。
カウントダウンの数字がゼロに近づく。ミスターノーンスペシャルもスイッチの台座に近づく。顔中を汗まみれにし、口をあんぐり開け、おぼえたてのクロール泳法で泳ぐようなフォームで地上を走った。カウントダウンがゼロになる瞬間、スイッチの台座に向かって彼は飛んだ。飛んだようにみえたが足がもつれ転けたようにもみえた。
彼の手は、まるく赤いキノコのようなスイッチには届かなかった。彼、ミスターノーンスペシャルは記念すべきその瞬間にスイッチを押すことはできなかった。彼はまに合わなかった。
スタジアムは異様な沈黙につつまれていた。この瞬間をみていたすべてのひとが言葉を失っていた。通夜のような静寂のなか彼はスイッチを押した。その瞬間、
計画は完全だった。だが、それを行うものが不完全であった。故に
パーフェクトプラン・コントロールヒューマン はちやゆう @hachiyau
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