えんきりくん えんゆいさん 壱
縁、という言葉を人は好んで使う。
良縁、悪縁、奇縁、縁故、縁者、縁談――
個別に挙げていけば枚挙に暇がないが、縁、というものは結局のところ、『因果応報』に収束するのだろうというのが俺の意見だ。確かお釈迦様だってそんな風に言っていたはずだから、的外れというわけでもあるまい。
善因善果・悪因悪果。善行も、悪行も、相応の報いを受ける。六次の隔たりという言葉もあるように、人と人との繋がりからはどう足掻いても逃れることができない。
で、あるからして――
「いらっしゃいませ! 一名様ですか?」
県内を中心に広がるチェーンファミレス店のチャイム音を鳴らして入店した俺を出迎えてくれたのが、グラビアアイドルかと見間違うほどの美貌と豊満な肉体を備えもったウェイトレスだったことは、俺の日頃の善行の結果に因る縁に相違ない。
輝くような笑顔で出迎えてくれた十代後半と思しき女性店員の明るく元気な声に、苦しいこじつけだな、と自省しつつ、首を横に振る。
「いや、待ち合わせで……」
豊満な胸の谷間が見えそうなほど襟ぐりの深いブラウスに、胸を下から押し上げて強調するかのようなコルセット様の胴衣と膝丈のスカート。
阿呆な男子大学生どもに『前立腺がヤバい』という迷言を吐かせた、主に男性客に大人気のファミレスの制服を一瞥して心に刻み付け、改めて店内を見回すと、幸いというか、なんというか、待ち合わせ相手はすぐに見つかった。
「
ファミレスの入り口からはドリンクバーを挟んで対角線上にある窓際の四人掛けの席で、学校指定の制服であるブレザーを身にまとったツインテールの少女が両手を掲げ、ぶんぶんと元気いっぱいに振っているのだから、目立つことこの上ない。
「あれ、待ち合わせ相手なんで」
苦笑いしながら店員に会釈する振りをして胸の谷間をのぞき込もうと画策したものの、
「はぁい、わかりました! すぐにお水をお持ちしますね!」
相手もこんなことは日常茶飯事なのだろう、手に持っていたトレイで視線を遮るように胸元を隠し、身を翻した。
む、無念……
ともあれ、老いも若きも、男性率が異常に高いファミレスの中、注目を浴びていることに気づいているのかいないのか、まだこちらへ手を振っている少女の元へと速足で歩いていく。
「もう! 遅いよ、要にい!」
責めと甘えをないまぜにしたような、耳に心地よい声。
同じ市内に住んでいるこの従妹に『キンキュー事態だよ! 要にい、すぐ来てね!』と何とも曖昧な緊急コールで呼び出されるのは今に始まったことではない。
「樹、呼び出されてすぐ馳せ参じられるほど俺は暇じゃないんだよ」
住んでいる家は違うとはいえ、年の近い一人っ子同士――実を言えば俺は樹に対して激甘であるがそれを悟られるわけにはいかない。
なるべく嫌味っぽく聞こえるように素っ気なく言い放ち、向かいのソファに腰かけた。
「可愛い従妹のためなら、全てをなげうってでも駆けつけるべきじゃない?! いざ従妹、だよ!」
幕府か。従妹幕府なのか。征夷大将軍・樹か。いや、役不足だな。ともあれ。
「きちんと日本史を勉強してるんだな。偉い、偉い」
「なにそれ! 馬鹿にしてるの?! 私はいつだってマジメに授業を聞いてるんだよ!」
不満げに頬を朱に染めて、ぱたぱたと両手でテーブルを交互に叩く樹。
「成績落ちたら叔父さんにお小遣い減らされるものな」
微笑しつつ言った俺の言葉に、一転してぱっと花咲くような笑顔を浮かべる。
「……ふふふ、要にい、聞いて驚くんだよ! チョット成績上がって、チョットお小遣いも増えたんだよ!」
初耳だ。まずいな。樹の自由になるお金が増えると、従兄である俺を金銭的に頼ろうとする機会が減るかもしれない。
「ほほう。それで……如何ほどか……?」
「ふふふ……二学期の中間テストで、順位が二つ上がったから、お父さんが五百円も増やしてくれたんだよ! 今年度限定なんだけど!」
さすが叔父さん。樹を喜ばせつつ、遊びまわらせない、絶妙な采配だ。
「おお、偉い、偉い」
「でしょう?!」
選ばれし者にしか許されない髪型、ツインテールの毛先が樹の極上に笑顔とともに肩口で跳ねる。
KAWAIIという言葉の体現者である樹とずっとじゃれていたいが、いつまでも本題を無視しているわけにもいかない。
樹が急に俺を呼び出す案件など、限られているのだから。
「まあ、雑談はここまでだ。で、何の用だ? 俺にも大学の用事やバイト諸々がある。困っているみたいだから、今日だけは樹のために無理して時間を作ったんだ。簡潔にな」
恩着せがましく、ついでに面倒くさそうな演技で言うと、樹はまたしても、ぷうっと頬を膨らませた。
「もっとたくさん褒めてくれてもいいんだよ! 要にいの、せっかち、いじわる、馬鹿!」
上目遣いにこちらを見つめ『要にいの馬鹿、馬鹿』ときゃんきゃん吠える小型犬のように繰り返すその姿。
紺と白を基調とした仕立てのいいブレザーは、県内でも屈指の進学校、県立三真坂西高校のものだ。都市部から県内の大学にやってきた人間たちによると、公立校の方が偏差値が高いというのは地方によく見られる特徴らしい。まあ地方でもお金持ちは設備の充実した、小学校から大学までエスカレーター式の私立に行くのだが。
俺の母校でもあるそのブレザーに包まれた、同年代の女子高生よりもやや慎ましやかな体の上に乗った小さな頭。
むうう~、と唸って頬を膨らませる樹の、なんと愛らしいことか。にんまりとほころびそうになる口元を引き締める。
「樹、大きな声を出すと周りに迷惑になるぞ。そのくらい、もうわかる歳だろう」
「わかってるよ! わかってるけど、悪いのは要にいだよ……! 要にいが、私を迷惑のゴンゲにしているんだよ……!」
周囲をうかがうように潜められた幼げな声、長いまつ毛に彩られたアーモンド形の目の奥、やや青みがかった瞳でこちらを責めるように上目遣いに見つめる樹。
掛け値なしに言おう。可愛い。もしこの愛おしい従妹に悪い虫でも付こうものなら、俺は全身フル装備で殺虫剤散布に赴くだろう。世界を殺虫剤の霧で覆ってしまうこともやぶさかでない。
だが、繰り返しになるが、実は従妹を溺愛していることを悟られるわけにはいかない。
『本家』と『分家』――前時代的であるとは思うが、今でもうちの一族は『本家』を最重要視している。
父の妹の娘ではあるのだが、血筋的には樹が『本家』――『本家』には長女しか家督を継げないという特殊な事情がある――ゆえに、跡取り娘である樹に激甘な男衆は俺だけではないが、それを樹に知られぬように皆が細心の注意を払っている。
だって、こんな可愛い樹に本気で甘えられたら、際限がなくなっちゃうだろ。
「で、どういう用件だ?」
ことさらに冷たく聞こえるように言う。これで樹が傷ついた姿を一瞬でも垣間見せようものなら、しばらく御飯ものどを通らないほどの精神的ダメージを受けるだろうが、幸いにも樹は気にした様子もなく、元気に叫んだ。
「あのね、要にいには、ゆかりちゃんの相談に乗ってほしいの!」
ゆかりちゃん?
横を向いた樹の視線を追って、俺ははじめて樹の隣に1人の女の子が座っていることに気づいた。
第一印象は、幸薄そうな女の子。
肩口で切り揃えられた髪に、やや切れ長の瞳。目鼻立ちは整っているし、スタイルも悪くはない。一見、普通の子なのだが、なんというか――生気が感じられないというか、影が薄い。背を丸め、まるで周囲から身を隠すようにしているせいもあるのだろう。
砕けて言えば――そう、隠密スキルが高い子だ。
「……君が、ゆかりちゃん?」
声をかけると、びくりと肩を震わせてから上目遣いにこちらを見た。
「あ、はい……」
言って、視線を不自然に左右に散らす。
ああ、この、男慣れしていないというか、小動物的な怯えた感じ、嫌いじゃないけれど、樹の前なので自重することにする。
「事情を教えてもらえるかな」
本来なら年の功、年長者として相手の緊張をほぐすべく軽妙なトークから始めるべきなのだろう。
だが、余所の女にあまりに優しくしすぎて樹に悪印象を与えるわけにはいかない。素っ気ないほど単刀直入に、率直に。そして、デキる男だと樹から見えるように。
このあたりの匙加減は非常に難しい。
まあ、どうやら樹は連れてきた相談相手を俺がどう処遇するかよりも、運ばれてきたイチゴパフェの方に夢中らしいので杞憂というか、無意味だったようだが。
「あの……信じてもらえるかどうかわからないんですけど……」
そう前置きしたうえで、さらに何度か躊躇するそぶりを見せたゆかりちゃんは、樹がげっ歯類よろしくイチゴで頬を膨らませ至福の声を上げたあたりで、やっとその赤味の薄い唇を開いた。
ゆかりちゃんが語ったのは、最近、県立三真坂西高校に広がっているという、あるおまじないのことだった。
えんきりくん えんきりくん
おねがいです
どうか ふたりのえんをたちきってください
えんゆいさん えんゆいさん
おねがいです
どうか ふたりのえんをむすんでください
縁を切りたい二人の名前は赤い紙に。
縁を結びたい二人の名前は青い紙に。
呪文を唱えながら書き込んだ後、折りたたんだものを名前の書かれた人間と近しい場所に埋める。
そうすると、えんきりくんとえんゆいさんが、縁を切り、結んでくれる。
そこまで聞いて、俺は大きく嘆息する。
ゆかりちゃんはびくりと肩を震わせ所在無さげに俯いたが、樹の方は意に介した様子もない。
「見て見て、要にい! ウェハースがピンク色だよ! 綺麗でおいしそうだね!」
早くもイチゴを攻略されたというのに、未だピンクたっぷりなパフェを前に喜色満面。こちらの頬も思わずほころぶ。
「そうだな。新鮮なうちに頂いとけよ」
ウェハースに鮮度という概念があるのだろうか。あるか。まあ、樹の前では萎びる暇もないだろうが。
「うん! 任せて!」
何が任せてなのか。深く考えてはいけない。
お互いに、ノリだけの浅薄な会話だ。
それにしても、食べる量が多いのに特定の部分が一向に成長しないのはなぜだろう。樹の母は割とグラマラスな方なので、食生活ではなく父方からの遺伝の問題か。
「ん~! 美味しーい!」
俺が不埒なことを考えていることなど想像もしていないだろう。見ているこっちまで幸せになってしまうような笑顔を浮かべる樹。
記録だ。スマホでこの瞬間を記録し、職人に依頼して石に刻んで未来永劫伝承せねば。
スマホを構えようとしたところで、
「ゆかりちゃん、大丈夫だよ。こんな態度だけど、要にいにお願いすれば、きっとすぐ解決してくれるから! だって要にいは、おじいちゃんの一番弟子なんだから!」
ウェハースを口に放り込んだ樹が、無邪気というか、ああ樹なりに全幅の信頼を込めてくれてるんだなあ、と察せられる声音で言う。
そうなると俺も、居住まいを正さないわけにはいかない。お兄ちゃん、頑張っちゃうぞ。
「……解決は確約できないけれど、それでも良ければ、相談には乗らせてもらうよ」
神妙な顔で頷いて見せると、樹が続ける。
「オオブネに乗っちゃったと思っていいんだよ! だって、おじいちゃんと要にいは、色んな心霊相談を解決してきたウデキキの霊能力者なんだから!」
ファミレスの喧騒が不意に途切れたその瞬間を狙いすましたかのように、樹の甲高い声が店内に響き渡った。
……いや、待て、ファミレスでそんなことを叫ぶな。
ここは初来店だったが、ヘビーユーザーになる決意を先ほど固めたばかりだというのに。
静かなざわめきが、さざ波のように伝播する。
あ、これあれだ。ファミレスや喫茶店でマルチ商法の勧誘が始まった時の空気感だ。
心なしか、店のレジスターの前に立つ先刻の店員さんのこちらを見る目が、すんっ、となった気がする。退店を促されないだけ、ましというものか?
霊能力者。字面だけを見れば、マルチ商法やネットワークビジネス並みに胡乱なことこの上ない。
霊能力――霊的な存在を知覚したり、霊的能力を行使する力――うん、言葉だけだと、胡散臭さ純度百パーセントだな。
だが、科学的に立証されていないことが、即ち存在しないということではない。
天文学におけるダークマターのようなものだ。
そこに存在するが、現状の機器では観測できないもの。
『いや、そうではなくて悪魔の証明であるが故に看過されているだけのもの』と言われてしまえば抗弁する術はないのだが。
何故なら俺は霊能力者ではない。当事者でないがゆえに、説得する論拠を持たない。
そう、霊能力者と言えるのはじい様――俺と樹の祖父であって、俺は違う。
というより霊能を有するのは『本家』に連なる人間だけ、というのが実情だ。
『本家』に残っている文書によれば、『本家』は江戸時代初期から続く家系で、元は薬問屋であったらしい。
江戸時代は長男相続が一般的であったにもかかわらず、当時から『本家』の家督は『長女のみ』が継ぐと定められていたそうだ。
それゆえに、婿養子を迎えることで一族を繋いできた。
長女相続以外にも『本家』には奇異な風習がある。
婿養子として選ばれる条件だ。
それが――いわゆる、霊能力があること。
いかにも冗談のような話だが、現代においても引き継がれている、本当のことだ。
歴代の婿は業界でも名うての霊能力者だったようで――特にじい様は若い頃から当代随一との名誉をほしいままにしており、各方面、時には政治家から依頼を受けたりしていたそうで、稼ぎは一般的なサラリーマンを上回っていたようだ。
もうとっくに引退を宣言しているのだが、じい様の高名はいまだ轟いているらしく心霊系統の相談が持ち込まれることが今でも時折ある。
『本家』のじい様を敬愛する『分家』の俺が、学業の合間を縫ってそれを手伝っていたら、いつの間にか俺も一部で『弟子』扱いされるようになったという次第だ。
まあ、今のところ俺にこういった相談を直接持ち込んでくるのは樹くらいだが。
一応俺もじい様の血は受け継いでいるが、残念ながら、俺はまともに霊さえ視ることができない。『零』感という奴だ。
『本家』に娘は一人しか生まれないということも含め、何かしらの因縁があるのだろうと推察しているが、じい様は『まだ早い』と俺に情報開示はしてくれていない。
ちょっと話がそれたが、俺は『零』感であるからこそ、これまで積み上げてきた経験から『いわゆる霊能力を否定するに足る根拠』を得るに至っていない。むしろ『存在すると仮定しなければ説明できない』こともあったが、これはまあ強弁しても詮無いだろう。科学的エヴィデンスがなければ、誰も――権威はソレを認めはしないのだから。
ともあれ、実をいうと、俺が師と仰ぐじい様は老人会の慰安旅行で小笠原諸島に旅行中だ。
――いやそれにしても小笠原諸島五泊六日、ホエールウォッチング付きツアーとか、老人会元気すぎだろ。
『分家』の俺は前述したようにいわゆる霊能力者ではないから、十全に対応できるわけではないが、じい様の、そして『本家』の娘――唯一人の跡取りである樹の顔に泥を塗るわけにはいかない。
「繰り返しになるけど――解決は約束できない。でも、樹のお友達だ、全力で取り組ませてもらう」
先刻嘆息してみせたことなど忘れたように、ゆかりちゃんに微笑みかける。信頼を得るために、気張れよ俺の表情筋。
ゆかりちゃんは戸惑ったように視線を揺らし、頷いた。いや、俯いただけか?
一拍おいて顔を上げたゆかりちゃんの表情は悲壮感に満ちていた。
私は、好きな男の子の名前――椎名君の名前と、彼が想いを寄せていると偶然聞いてしまった藤沢先輩の名前を赤い紙に書いたんです。
『二人の縁を断ち切ってほしい』とお願いして……
それから部室の外の地面に埋めました。
そうしたら――そうしたら……先輩が、藤沢先輩が放課後に階段から転落して――
幸いにも途中で手すりを掴んだおかげで、そこまで大きな怪我はなかったんですけど……
その――藤沢先輩が言っていたそうなんです。誰かに――肩を突き飛ばされたって……でも悲鳴を聞いて駆け付けた生徒は誰の姿も見てないんです。たまたま、三階の廊下にいた生徒も、誰も……
それに、信じてもらえるかどうかわからないんですけど……先輩が夜に自分の部屋にいると、かりかりと窓が引っかかれるような音がするようになったそうなんです……
カーテンを開けても何もない。そんな日が続いたそうなんですが、ある日……カーテンの隙間から窓の外を見たら、目の前に黒い人影がいて、先輩の顔を覗き込んでいたそうなんです……
先輩の部屋は二階でベランダとかもないし、すぐ外が竹藪に面していて、隣の家の人という可能性もないですし……
それで先輩は、その……錯乱してしまって、今、ちょっと……入院してるんです。両親以外は面会謝絶になってしまったみたいで……
私の……せいなんでしょうか……私は、ただ、彼と先輩が疎遠になればいいなって、そう思っただけなんですけど……こんなことになるなんて……
普段からこうなのか、罪悪感によるものなのか、おどおどとした様子でゆかりちゃんは両の瞳を左右に泳がせた。
先刻樹のイチゴパフェと一緒に運ばれてきたオレンジジュースにも口をつけないままで、その唇は小刻みに震える。
ふむ。縁切りというには、えらく直接的な結果が出たものだ。
今ゆかりちゃんが口にしたように些細なすれ違いから――例えば二人の関係が進展しそうなる都度『何故か』トラブル――スマホが通じなくなるとか、些細なすれ違いが起こるとか――が起こり、なんとなく二人の関係が疎遠に……みたいな迂遠な関係の断絶が期待されるものだが。
「ゆかりちゃん」
苗字を知らない――興味もないので問い質すこともせず名前で呼びかけると、ゆかりちゃんはびくりと肩を震わせたあと、こちらを見上げた。
ゆかりちゃん自身に興味はない。興味はないが、ゆかりちゃんがそんな、怯えた表情のままだと樹の寝覚めが悪いだろう。それは、頼れる従兄としては見過ごせない。
できる限り優しい声音を意識して、疑問を問いかける。
「ゆかりちゃんは、その先輩の身に起こったことが、『えんきりくん えんゆいさん』によるものではないかと思っているんだね?」
「は、はい……」
そう大きくはないファミレスの喧騒に――この中のどれくらいが、霊能力者と呼ばれた俺を揶揄するものだろうか――かき消されそうなほど、か細い声。
何故、ゆかりちゃんは、藤沢という先輩の身に起こったことが、自分の行為に由来すると考えているのか。
例えば、樹が『この俳優さんはとってもかっこいいんだよ!』と頬を染めるイケメン俳優に対して『不祥事で干されろ』と俺が願ったとして、その後、イケメン俳優の不倫が週刊誌によって暴露されて芸能界から消えても、俺は自分のせいだとはかけらも思わない。誰だってそうだろう。
そこに、因果関係はないのだから。
俺が探偵を雇うなり、自分でストーキングするなりして調査を行い、不倫の事実を突き止め、こっそりとマスコミにリークしたなら、そうではない。
因果が、原因と結果がそこにはある。
遠回しな言い方になったが、ゆかりちゃんが『えんきりくん えんゆいさん』を信じている――効力があると感じているのは、理由があるはずだ。
だから、俺はこう問いかけた。
「つまり、椎名君と仲良くなれた?」
『縁結び』の効果があったからこそ、『縁切り』も『えんきりくん えんゆいさん』によるものだと信じた。
そうでなければ、辻褄が合わない。
――だが、ゆかりちゃんは、魂の抜けたような――魂消た表情で口をあんぐりと開けていた。
あ? どういうこと? なんか俺がスベったみたいになってるけど。
「あ、いえ、すいません。話してませんでしたね。私は――」
今気づいたというように、目の前のオレンジジュースを口に含み、舌先で唇を湿らせてから困ったように眉根をゆがめてこちらを見た。
「私は、自分と椎名君の『縁結び』はしていないんです」
「……は?」
今度はこちらが魂消る番だった。
従兄としての威厳を失うわけにはいかないので、すぐに咳払いをして誤魔化すが、頭の中ではぐるぐるとゆかりちゃんの言葉が回っている。
『縁結び』をしていない? 何を言ってるんだ、この子は?
世には縁切りを題目に掲げた寺社が存在する。貴船神社、安井金毘羅宮などだ。
どちらも京都にあり、祭神や縁起はともかく――『自らの悪縁を切り、良縁を結ぶ』ということに変わりはない。
『自分』の縁切りと、『自分』の新たな縁結びがセットになるのが通例だ。
そうでないなら――
ああ、いや、ゆかりちゃんが『好きな男の子』と『その想い人の先輩』の縁切りを願った――『自分』とは無関係な縁を切ろうとした時点で気づいてしかるべきではあった。
「『えんきりくん えんゆいさん』には、『縁切り』『縁結び』の双方に『自分の名前』を書かなければいけないという制限はないんだね?」
少し考えるように目を泳がせたゆかりちゃんは小さく頷いた。
「……それは、なかったと……思います」
ないのか。
そうなると、『えんきりくん えんゆいさん』は――たちの悪い『呪い』ということになる。
他人の縁を切る。
これが『呪い』でなくて何だというのか。
想い人の、想い人の、事故。
これは偶然に見える。
見えるのだが、加害を企図した相手の名前を書いて埋める――呪物を地下に埋没する――これは、ありふれた呪いの類型だ。
鎌倉時代に編纂されたという『宇治拾遺物語』にこんな話がある。
平安時代、時の権力者、藤原道真を呪殺しようとした道摩法師が、道真が日参する法成寺の敷地に呪物を埋めた。道真は連れていた犬の警告によって寺の敷地に足を踏み入れることはなく、その呪いは陰陽師として高名な安倍晴明に看破され、未遂に終わった。
他にも、道真の兄が足の裏に『道真』と書いて踏みつけにし、呪っていたという逸話もある。急死したり体調を崩した貴族の寝所の下から呪物が見つかったという話や、井戸の底から大量に呪いの人形が見つかったという話も同時代にはあり、貴族も一般市民も他人を呪っていたようだ。平安時代の京都はやべえな。
他にも、影踏み鬼――小さい頃にやったことがある人間も多い遊びだろう。
影を踏まれて、鬼になる。
中国から伝来した当初の『鬼』は、多くの人が思い浮かべるであろう虎縞パンツで角を生やした赤ら顔を指す言葉ではなく、本来『死者の霊』を意味するものである。
影を――本人ではないが、それに類するもの――呪物を埋没し、踏み付けにする或いはさせる。
それによって相手は鬼に――死者になる。
呪物を埋める。名前を書いた相手の近くに。
『えんきりくん えんゆいさん』でやっていることは、『呪い』のようにみえる。
だが、何故『縁切り』と『縁結び』がセットになっている?
そこが腑に落ちない。
『えんきりくん』だけなら問題ないのだ。納得ができる。
自分と他人、または他人と他人の縁を切る――単純に名前を書かれたどちらか、もしくは両方を疎遠にする、あるいは害する。
悪意のあるおまじない。樹に嫌われるから絶対に口には出さないが、無思慮な女子高生がやってもおかしくない。
逆に『えんゆいさん』だけでも問題ない。そんなもんだろうと納得できる、取るに足らない、女子高生が好きそうなおまじないだ。
なぜ、これがセットになっているのか。その必然性が感じられないのがまず気になる。
頭を悩ませていると、樹が声を上げた。
「要にい! 女の子にはね、自分をカエリミズ、お友達の恋を応援したいって、そんなジュンシンな子もいるんだよ!」
ピンク色のウェハースを噛み砕いて飲み下し、得意げに言い放った樹の頬に生クリームの残滓――
ここだ! 電光石火の指さばきで――
「……樹ちゃん、ほっぺにクリームついてるよ」
「え? ありがと、ゆかりちゃん!」
――はい。まあ、そうですよね。ですよね。
ペーパーナプキンで拭い去られたクリームを恨めし気に見つめるほど落ちぶれてはいないので、ほんのわずか嘆息するだけで自己を律する。
「要にい、どしたの?」
「……なんでもない」
歯ぎしりしつつ、先刻の樹の言葉を反芻する。
『恋を応援する』
つまり、これは献身的な――いや、どうだろうな。
かつて高校生だった俺は知っている。精神的に未成熟な高校生に献身などという概念は存在しない。もっと打算的で、見返りを求めている。他人に献身を捧げられる奴は、きっとメシア症候群のやべー奴で、自己肯定という見返りを求めての行為だ。
そうなると――罪悪感の軽減、ということか?
誰かを呪う代償に、誰かの縁を結ぶ。
ああ、逆の考え方もあるな。
縁を結ぶ代償に、縁を切る。
「要にいは深く考えすぎなんだよ!」
パフェのほぼ半分を胃に納めた樹が頬を膨らませて、こちらを上目づかいに見上げる。ああ、可愛い。
「両方に自分の名前があったら、誰がおまじないをしたかバレちゃうでしょ!」
あ、はい。そうですね。
なるほど、確かにそうだ。縁結びはともかく、縁切りなどしたことが周囲にバレようものなら、クラスで総スカンを食らう可能性もある。
『誰』がおまじないをしたかを曖昧にすることが目的か?
明言化されていないだけで、『自分』の名前を両方に書く必要はない、ではなくて本来『自分』の名前は両方に書いてはいけない、という可能性もある。
埋める場所がかぶって掘り起こされることもあるだろうし。
――いや、だから、単にセットにしなければいい話じゃないか?
わからない。わからないが、表向きは――
「つまりは、これはあれか。『縁を切りたい人間』と『縁を結びたい人間』――2人がそれぞれウィンウィンの関係になる。そういうものか」
『縁を切りたい人間』と『縁を結びたい人間』
どちらが主体かは曖昧になる。
『信じてないけど、付き合わされただけ』と言えば体面も維持できる……か?
効果があれば儲けもの。
罪悪感の軽減――そして、秘密の共有。
……様々な知見を備えたじい様ならそうではないのだろうが……俺には現時点では『えんきりくん えんゆいさん』を紐解くのは難しい。
もう少し、情報がいる。
ああ、まだゆかりちゃんに確認していなかったな。
「『えんきりくん えんゆいさん』で、ゆかりちゃんは誰と誰との縁を結んだのかな?」
ゆかりちゃんの、共犯者。
件の男の子と先輩との縁を切ることを承知の上で、自分の縁を結んだ――言い方は悪いが、卑怯者。
ゆかりちゃんが瞳を左右に泳がせたところで、
「私だよ!」
パフェを食べつくした樹が元気いっぱい右手を挙げた。
……は?
「わ・た・し! 私と陸上部の佐野君の縁を結んでもらったんだよ! 佐野君は足が速くてかっこいいんだよ!」
は? はあ? はああああああっ?!
「はあああぁぁぁぁああぁっ?!」
胸中の叫びが隠し切れずに、口から大声でまろびでた。
「馬鹿じゃねえの?! 樹お前馬鹿じゃねえの?!」
再び胡乱気な視線が集中するが、そんなものに構ってはいられない。
樹が『えんきりくん えんゆいさん』に関わったのなら、これは全く別の話になる。
なにせ樹は『本家』の娘――希代の霊能力者と言われたじい様の孫であり、そのじい様が見出した『無自覚霊感体質』の叔父さんの娘だ。
「お前、じい様にこういうおまじないに関わるなって、何度も言われてるだろうが!」
本人は無自覚だが、樹はしっかりとじい様と、そして父親の能力――一族の血統を受け継いでいる。霊能サラブレッドなのだ。
そうなると――『事故』が起こる可能性はゼロではない。
ってかサノ? 誰だそいつは? 足が速くてモテるのは小学生までだろうが!
「要にい、大きな声を出すと周りに迷惑になるんだよ? もうそのくらい、わかる歳でしょ?」
鬼の首でも取ったようなドヤ顔の樹、加えて例のウェイトレスの冷たい視線にやや理性が戻ってくるが、それでもまだふつふつと煮えたぎるものが胸の奥にある。
――悪い虫だ。悪い虫が樹についた。駆除せねばならない。
だが、それはもう少し後だ。
今は『えんきりくん えんゆいさん』のことだ。
「……確認するぞ、樹。青い紙に自分と、そのサノとかいうやつの名前を書いたんだな?」
「うん!」
「……自分で書いたか?」
「うん! この間、タッピツになったなって、おじいちゃんに褒められたんだよ!」
それは重畳――じゃねえよ。
「それで、地面に埋めた。陸上部の部室のそばに?」
「うん! ゆかりちゃんが、自分の書いた赤い紙と一緒に埋めてくれたんだよ! サイワイにもゆかりちゃんが縁切りを願った椎名君も陸上部だったんだからね! 偶然だよね! 運命ってすごいね!」
ひたすら無邪気に、ひたすら屈託なく、樹は笑顔で小首をかしげる。
――ああ、ダメだ。おそらく、樹は『えんきりくん えんゆいさん』に『呪い』の側面があるなどとは、微塵も思い至っていないだろう。
むしろ、友人のゆかりちゃんの願い事を叶えることに役に立った、くらいの認識であってもおかしくない。縁切りだぞ? 理解してるのか? いや、してないな、間違いなく。
そんな風に樹は、無思慮で無配慮で、でもそういうところが放っておけなくて可愛い――いや、ない――ないぞ。本当に、ない。
これはもはやスタンスを変えなければいけない。
樹が関わったのならば、最優先にすべきは樹の身の安全だ。
「ゆかりちゃん、『えんきりくん えんゆいさん』には何かデメリットがあるのかな? 例えば、代償が必要だとか?」
人を呪わば穴二つ、と言う。
『呪い』として有名の丑の刻参りは、釘を打ち付ける姿を目撃されれば自らに『呪い』が返る。
願えば叶う。そんなシンプルでインスタントな呪いがあるわけがない。
俺の言葉にゆかりちゃんは戸惑ったように表情を揺らした。
これは……知らない? いや、想像もしたことがなかったという感じか?
推測を裏付けるようにゆかりちゃんは首を横に振った。
「すみません……そんなこと、考えたこともなかったです……」
「神様は女子高生の味方だから、きっと無償でお願い事を叶えてくれるんだよ!」
女子高生好きの神様とか変態――まあ処女性や無垢を好む神様もいるだろうが、『えんきりくん えんゆいさん』は、おそらく神様じゃねえ。神に願うには、手法がお手軽すぎる。
くそ、面倒だな。
「ゆかりちゃん――樹でもいい。知っていたら教えてくれ」
「は、はい……」
「任せて!」
深刻な表情のゆかりちゃん、対照的にお気楽な樹。不安しかないな。
「まず、『えんきりくん えんゆいさん』の話を最初に聞いたのはいつ頃だ? あと、どのくらい学内に広まっている? その先輩の他に、肉体的被害を被った人間はいるか?」
矢継ぎ早に質問を繰りだしたせいか、特にゆかりちゃんは困惑気味のようだ。
ああ、ちょっと焦りすぎたな。細部の詰めはあとでいい。
まず、確認すべきことは――
「ああ、いや、ごめん。これを最初に聞かせてくれるかな。誰が『えんきりくん えんゆいさん』の話を最初にしだしたか、わかるかな?」
事態を理解するには――例の先輩の怪我やらそれにまつわる一連の出来事が『えんきりくん えんゆいさん』に由来するものなのかは、そもそも『えんきりくん えんゆいさん』の来歴をたどる必要がある。
だが、ゆかりちゃんはまたしてもびくりと肩を震わせ、視線を左右に泳がせた。
……どっちだ? 知らないのか、知っているけど言えないのか。
「わからないんだよ!」
元気いっぱい、力強く、満面の笑みで樹が首を横に振った。
「……は?」
俺は、本日二度目の間抜け面だ。
「私たちは、おまじないのショーヒシャにしか過ぎないのだから、ショーサイは知る必要がないんだよ!」
なんという無責任。だがその突き抜けっぷりに惚れ惚れ――するわけねえだろうが。
「……つまり、何か。来歴は不明。つまりイチから調査せよと? 俺に?」
「そうだよ! 要にいならできるはずでしょ?」
「できるわけねえだろ! これは高校生の間で流行ってるわけだろうが!」
俺が女子高校生に聞き取り調査でもしようものなら事案だ、事案。
県警の声かけ事案に『女子生徒が『こんなおまじない知ってる?』と男に声をかけられた。年齢:二十歳前後……』とか記載されちゃうだろうが!
「だーいじょーぶ! そこはきちんと手を打っているんだよ!」
自信満々、樹はその薄い胸を叩く。
お、例えば女子高生が聴取の為に列をなして俺のところに訪れるというならやぶさかでない。
ただ、まあ、
「神楽ちゃんに協力をお願いしてあるから、連絡してほしいの!」
そううまい話はないよなあ。
「要にいはトーゼン知ってるでしょ。神楽ちゃんはこういう話が大好きだし、ゆかりちゃんが困ってるのならってココロヨク引き受けてくれたんだよ!」
聞きたくもなかった名詞に眉根が寄る。
関わりたくない。関わりたくないがあまりにも情報が少ない。
隠すつもりもなく盛大に息を吐くと、樹がぴょこっと立ち上がった。
「あのね、要にい、これから陸上部の人たちとカラオケに行くの! 陸上部の女の子が私も誘ってくれたんだよ! 佐野君も来るから、縁を結ぶために、私、行ってくるね!」
……は?
俺は本日何度、間抜け面を晒せばいいというのか。
「じゃ、要にい、神楽ちゃんに、ちゃんと連絡するんだよ! 逃げちゃダメだよ! あと、ゆかりちゃんはなんだか人見知りしてるみたいだから、虐めちゃダメだよ! ゆかりちゃんの不安をフッショクしてあげてね! じゃあ、要にい、ゆかりちゃん、またね!」
輝くような笑みを浮かべ、スカートの裾を翻して樹は駆けていった。
その背中を見送りながら、伸ばしかけた右手はへなへなとテーブルに落ちた。
……そう、さっき自分で言ったことだ。
『何故、ゆかりちゃんが俺のような部外者に相談するつもりになったか?』
つまりは、『縁結び』をした樹とサノが急接近しているがために『えんきりくん えんゆいさん』に効果があるのではと疑い、『縁切り』をしたことの罪悪感に苛まれているということだ。
サノ、サノ……フルネームや生年月日がわかれば呪殺を依頼……いや、物理でいこう。サノの住所と行動パターンが分かれば、自ら手を汚すのを躊躇はすまい。
……まあ、いい。うん、いい、今はいい。サノ某と今日の今日でどうこうということはないだろう。ないはずだ。樹の貞操観念を信じよう。
『困難は分割せよ』とデカルトも言っている。
『えんきりくん えんゆいさん』と、それによって発生した問題である『悪い虫駆除』の両方に同時に対処するのは現実的に難しい、まずは『えんきりくん えんゆいさん』の方だ。
ゆかりちゃんの相談はともかく、『えんきりくん えんゆいさん』を調査することで樹とサノの縁を跡形も残さず消滅させられるかもしれないし。
ならば第一優先事項は、情報収集だ。
敬愛するじい様は、いつも俺にこういっている。
『脆弱な人の身で、真っ向から怪異に立ち向かおうというのは愚かなことだ』
だから、じい様と俺は事前調査を欠かさない。
ただ樹が名前を挙げた情報提供者、『神楽ちゃん』は、ちょっと関わりたくないというか……
中学高校大学と同じ学舎に在籍している腐れ縁ではあるのだが、ある理由で高校から疎遠になった。縁を切ったのだ。
心底から嫌っているわけではない。けれど、意図して距離を取っていたことは間違いない。
嘆息して、他に最適な道はないと自分を納得させる。
スマホを取り出し、消していなかったアドレスにメールを送る。
『どこにいる?』
アドレスを変えていてくれれば、と思わなかったと言えば嘘になる。
だが、こちらが心構えをするよりも前に――ほぼ即座に、と言っていいほど間を置かず返事があった。
『大学の部室で待ってるよ』
樹の言う通り、話が通っているのは間違いないらしい。
何度目かのため息をついて、ゆかりちゃんが所在無げに座っていることに気づく。
樹と一緒に行かなかったのか?
陸上部の集まりということは、ゆかりちゃんの想い人の椎名とかいう男子生徒も参加している可能性があるだろうに。
ああ、縁を切った手前、陸上部の集まりには今は参加しづらい、とかか。それに、ゆかりちゃんの想い人は、恋する先輩が心配でカラオケどころではないかもしれない。
「ゆかりちゃんは行かないの?」
「あ、はい、その……私は、別に……」
俯きがちなゆかりちゃんは、改めて見つめてみれば、十分美少女の部類に入る。
想い人に対して正面突破したうえで、駄目でも時間をかけて食い下がれば上手くいった可能性はゼロではなかったと思うのだが、まあそこは他人が口出しすることではないか。
ねっとりとしたこちらの視線に気づいたのか、ゆかりちゃんは少しだけ頬を染めてから顔をそむけた。
「俺はこれから情報収集に行くけど、ゆかりちゃんも来る?」
ゆかりちゃんに来てもらう必要はない。
『えんきりくん えんゆいさん』に関する知識がないのなら、同行してもらう意味がない。
俺にとってもそうだし、ゆかりちゃんにとってもそうだ。
声をかけたのは、単にノーという言葉を相手に吐き出させるためだった。一応声はかけたという大義名分のために過ぎない。
だが、俺の問いかけにゆかりちゃんは数舜逡巡の表情を見せた後、頷いた。
「私も、一緒に行っていいですか……?」
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