第10話 願い

彼女の居ない日々は、味気なく、

今日も世界には色がない。

あんなに輝いて見えた空も、海も、山も、

全てが灰色で、何も感じない。

彼女がいないという現実だけがちらついて、

やり場のない悲しみに心が蝕まれていく。



「霄くん。」

「はい…。」

「死亡届、一緒に出しに行ってくれないか。」

「ッッ…。」

「だめかな?」

「行きます。

俺がこんな弱いと紫夕怒ると思うんで。」

「ありがとう。

それと渡したいものがあるんだ。」

そう言ってお義父さんが差し出したのは、

一通の手紙だった。

「これは…?」

「万が一の事があったら、

これを霄くんに渡して欲しいと。

そう紫夕から頼まれていたんだ。」

「紫夕…ッッ。」


俺は家に帰り、手紙を読んだ。


拝啓、安藤霄くん。

これがあなたの手元にあるという事は、

あなたのそばに私は居られなくなったのでしょう。

ごめんなさい。泣かせてしまって。

傷付けてしまってごめんなさい。

あの日、あなたに初めて会った日。

絶望していた私に、

少しだけ光が差し込んだ気がした。

この出逢いは必然で、運命だと、そう思った。

どちらかと言うと塩顔のあなたは、

毎日輝いて見えた。

あなたと過ごしたたった1ヶ月の高校生活は、

凄く楽しくて、間違いなく、幸せでした。

不思議と、あなたの隣に居ると、

生きたいと、強く思えた。

まだ死にたくない。

霄くんと人生を一緒に歩いていきたい。

そう心から思っていました。

でも神様はいたずら好きで、

私に残された時間は1ヶ月しかありませんでした。

余命を宣告された次の日に、

あなたと再会しました。

また、あなたが私を照らしてくれた。

何もしなければ、いつ亡くなってもおかしくないと

言われていた私が、2ヶ月も生きられたのは、

霄くんがずっとそばに居てくれたおかげです。

そのおかげで上に行く準備も出来ました。

本当にありがとう。

指輪。嬉しかった。

今まで貰ったプレゼントの中で1番嬉しかった。

あのね?霄くん。

私、霄くんがすきだよ。

もっと一緒に居たかった。

霄くん強がりだから、

無理してるんじゃないかな。

辛い思い1人で抱えてるんじゃないかな。

寂しくて泣いてるんじゃないかな。

不安で不安でたまりません。

霄くんのお嫁さんになりたかった。

辛い時も苦しい時も嬉しい時も楽しい時も、

霄くんのそばに居るのは私でありたかった。

病気の事を心から憎んでる。

でも、病気のおかげで霄くんにまた会えたから、

よかったとも思う。複雑だね。


私、そろそろ行かなくちゃ。

長いと霄くん疲れちゃうし、

この辺で終わりにします。

あ、そうだ。私の引き出し、開けてみて?

いいものが入ってるから。

たくさんの幸せをありがとう。

くさいセリフだけど、

世界で1番、誰よりも、霄くんを愛しています。

これからもずっと永遠に。

私が居なくてもちゃんと前を向いてね。

私の事は頭の片隅において、

ちゃんと、私じゃない別の誰かと、

幸せになってください。

私からの最後のお願いです。

出逢ってくれて、ありがとう。

ばいばい。

敬具 久我山紫夕



「うぅッ…。

紫夕…。

紫夕が居なきゃ俺、幸せになれないよ。

…。

そうだ。引き出し…。」

俺は彼女の引き出しを開けた。

そこに入っていたのは長方形の箱だった。

「なんだろう…?」

開けてみると、ネックレスが入っていた。

ネックレスに吊るされたリングには、

俺と、紫夕の誕生日が刻まれていた。


そのネックレスを手に取った瞬間に、

俺は泣き崩れた。










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