第9話 ありがとう
病室に響き渡る、心電図と人工呼吸器の音。
容態が急変したあの日から3日経った今でも、
彼女は目を覚ましてくれない。
「紫夕。今日はよく晴れてるよ。」
ピッ…ピッ…
「俺、紫夕が居ないと何も出来ないよ。
そろそろ起きてくれよ…。」
コンコン。
「失礼します。」
「あ、石川先生。おはようございます。」
「霄くん。おはよう。
紫夕ちゃんおはよう。今日はどうかな?」
「…」
「まだ起きる気にはならないかなー?
霄くん待ってるよ。」
「先生…ちょっと…。」
そう言って、看護師の方と病室の外へ行った。
「紫夕…。」
俺は、彼女の手を強く握った。
「霄くん。ちょっといいかな。」
「はい。」
「覚悟して聞いて欲しいんだが…。」
俺は唾を飲んだ。
「なんでしょうか。」
「今日が山場だと思ってくれ。
脈の振れが緩やかにだが、弱くなっている。
いつ何が起こってもおかしくない状況だ。」
「わかりました。
みんなに連絡して来るように伝えます。」
「大丈夫かい…?」
「紫夕の方がもっと辛いと思うので、
俺は大丈夫です。」
「ご飯はちゃんと食べるんだよ。」
「はい。ありがとうございました。」
おれはすぐにみんなに連絡をした。
病室へ戻り、俺は泣き崩れた。
前々から覚悟はしていたが、
こんなにも早いとは思っていなかった。
「紫夕…。どこにも行かないでくれ。
離れたくないよ…ッッ。」
どれだけの時間泣いていたんだろう。
外は夕焼け空に包まれていた。
「霄くん。」
「お義父さん。」
目に涙を浮かばせながら俺の肩を抱いてくれた。
「紫夕はきっと幸せだよね。
大好きな人にそばに居てもらえて…。
目を覚ましてくれよ。
お父さんを独りにしないでくれ。」
「霄…。」
「紫夕ちゃん…。」
侑汰と柚香、そして隼颯も来てくれた。
「久我山。頑張れよ。
霄と幸せになるんだろ!!」
「紫夕ちゃん居なくなったら、
私の唯一の女友達居なくなっちゃうじゃない。
これからも私達一緒でしょ?」
「俺だけじゃ、霄の事支えられないよ紫夕ちゃん。」
「みんな…ッッ。」
長い間沈黙が続いた。
「ん…。」
「紫夕?!」
「おい、久我山?!」
「隼颯、先生呼んでくれ!」
そう言うと彼女が俺の袖を掴んだ。
「どうした?紫夕。
俺…俺、ここにいるよ。」
「しょ…うくん…。」
今にも消えそうな声で俺に言った。
「あり…が…とう…。
あ…いし…て…る…。」
心電図から大きな音が鳴った。
「紫夕…?おい…紫夕!!
いくな…俺を置いていかないでくれ…ッッ。」
「すみません。ちょっとどいてください。
VFだ。除細動持ってきて!」
「先生…。でも紫夕ちゃん、
延命治療を拒否しています。」
「いいから持ってこい!!」
「紫夕…。」
「久我山!!幸せになるんだろ!
いくな!!!」
「紫夕ちゃん!!!」
「戻ってこい紫夕ちゃん!!」
「お父さんのそばから居なくなるな紫夕…。」
そこから先生方による懸命な心肺蘇生が行われた。
しかし…
ピーーーーーー。
「心拍再開の兆候…見られません…。」
「そんな…。」
「9月4日。18時48分。死亡確認。」
「あ゛あ゛あああああ!!
紫夕!目開けろよ。なあ。紫夕。
この先も一緒にいるって約束したじゃんか。
俺を独りにしないでくれ…紫夕。」
俺の命よりも大事で、
この世界の何よりも愛した人は、
21歳という若さで、この世を去った。
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