第7話 計画

ある夕方。

いつも通り、久我山のお見舞いに行くと、

いつもは空いているはずのカーテンが閉まっていて部屋の中が見えなかった。

ただ微かに聞こえた彼女の泣き声に、

俺は胸が締め付けられた。

入るタイミングが分からず、

彼女が落ち着くまで待っていようと思った。


「死にたく、ないなぁ…。」


その言葉を聞いた瞬間に俺はカーテンを開け、

彼女を強く抱き締めた。


「来年の桜、一緒に見よう。

来年の夏も海に行こう。

再来年もその次も、一緒に過ごそう。」

「ッッ…。」

泣きながら彼女にそう言った。

彼女は何も答えなかったが、

さっきよりも強く、俺を抱き締めた。

その日は内緒で、彼女の病室に泊まった。

俺の手を握り、スヤスヤ寝ている彼女は、

この世界の何よりも愛おしかった。



俺はある事を実行するため、

恋人ができた事、

その恋人は重い病を患っている事、

全て隼颯に話した。


「1人で抱え込まないでさっさと俺に言えよ。

俺たち友達だろ?」

目に涙を浮かばせながら隼颯はそう言ってくれた。

「ありがとう。隼颯。」

「うっしゃ!そうと決まったら俺準備するわ!」

俺以上にこいつ張り切ってやがる…(笑)

いい友達を持ったな俺は。


次の日、俺は地元へ久しぶりに帰った。

「よぉ侑汰。

おっ、柚香も居るじゃん。

久しぶり。」

「居るじゃんって霄が呼び出したんでしょ。」

「怒るなって。」

「んで、霄、話ってなんだ?」

「そうだ。話ってなんなの?」

「実はな…」

彼女の事を包み隠さず全て話した。

2人とも泣いていた。

そして俺の計画も話した。

「協力するに決まってんだろ。」

「私もだよ。当たり前じゃない。」

「2人とも…ありがとな。」


その日から着々と準備が進んだ。


「霄くん、最近忙しいみたいだね。」

「ごめんな。面会時間少なくて。」

「ううん。いいの。

でも無理はしないでね。」

「ありがとう。

紫夕、体調どう?」

「んー。最近はだいぶいいよ。」

「外出許可とか出ないのかなぁ…。

少しだけでいいから、

一緒に紫夕と散歩したいのに。」

「どうなんだろう…。」

「先生に聞いてみてもいいかな?」

「いいよ。ありがとね。」

「いや、こちらこそだよ。そろそろ行くね。」

「また明日ね。」

俺は、彼女の頭を撫で、

主治医の元へ向かった。


「石川先生。」

「おぉ霄くん。どうしたんだい?」

「紫夕の事でご相談が…。」

……

「外出許可?」

「無理、ですかね…?」

「そんな事聞かされたらなぁ…。

検討してみるよ。」

「ありがとうございます!

あ!この事はご内密に!」

「わかったよ。気を付けて帰るんだよ。」

「失礼します!」


俺は走って病院を出て、

ある場所へと向かった。

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