第6話 彼女の秘密

ピッ…ピッ…ピッ…


「ん…。」

「久我山…わかるか?」

「安藤君…?」

「はあ…よかった…。」


彼女の目が覚めて、俺はほっとした。

もう起きないんじゃないかと心配だったからだ。

しばらくして、久我山のお父さんが病室に来た。


「ハァハァ…。

ッ紫夕…大丈夫か…?」

「お父さん。大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」

「いや…いいんだ。よかった。

君は…あの時の…。」

「お久しぶりです。安藤霄です。」


高校3年のあの日に1度、

久我山のお父さんに会った事があった。


「娘のそばに居てくれてありがとう。

紫夕ごめん。

この後どうしても外せない会議があって、

今日はもう来れそうにないんだ。」

「うん。大丈夫。行ってきて。」

「ごめんな。

霄君、娘のそばに居てやってくれ。」

「わかりました。

お仕事気を付けて行ってきてください。」

「ありがとう。

じゃあ、また来るね紫夕。」

「うん。ばいばい。」

そう言うと、忙しそうに病室を出ていった。


少しの間、沈黙が続いた後、久我山が口を開いた。


「あーあ。隠してたのに。

安藤君にだけは見られたくなかったな(笑)」

「なんで…?」

「えー…聞いても引かないって約束できる?」

「あ、あ、当たり前だろ!!」

「ふふっ(笑)」

「笑うなよ(笑)」

「実はね、ずっと安藤君の事好きだったんだ。

一目惚れだったの。今どき珍しいでしょ?」

「え…。」

「あーもう!引かないって約束でしょ?」

「いや違くて、

俺も久我山に初めてあった日に一目惚れして、

居なくなってからもずっと好きだったんだ。」

「そ、そうだったんだ。

なんか恥ずかしい(笑)」

「俺は今でも好きだよ。」

「そんな真剣な顔して言わないでよ(笑)」

「ふざけた方がいいか?(笑)」


久しぶりに、久我山の笑顔を見た気がした。

こんな時間がずっと続けばいいのにと、

心の底から思った。


「俺さ、久我山の事そばで支えたい。

もう何もしてあげられないのは嫌なんだ。」

「でも…」

「俺じゃだめかな。」

「私の事何も知らないでしょ?」

「これから知っていきたい。

教えて欲しい。好きな子のそばに居たいんだ。」

「安藤君…。」

そこから少しずつ、出会った時から今までの事を、

ゆっくりと話してくれた。


越してくる前に受けた検診で異常が見つかって、

屋上で初めてあったあの日の午前中に、

精密検査をし、病気が見つかったこと。

その事実を受け入れられなくて、

見学に来た時に屋上へ行き、

学校で自殺しようとしていたこと。

お母さんが鬱病を患っていたこと。

引っ越してきた日に始まった、小さな夫婦喧嘩が、

結果的に引き金となり、転校してきた次の日、

お母さんが自ら命を絶ち、帰らぬ人となったこと。

自分が喧嘩を止めていたらこんな事にはならなかったんじゃないかと、自分を責め続けていること。

たくさんたくさん、話してくれた。


「話してくれてありがとう。辛かったよな。

ごめんな。助けてあげられなくて。」

涙を流す彼女をそっと抱きしめた。

「…もっと詳しく話さないとだね。

私の病気のこと。」

「…」

手を繋ぎながら彼女は話し始めた。

「私ね、昔から怪我をしたりすると、

血が止まりにくい体質だったの。

だから、小学校からずっと、2ヶ月に1回だけ、

定期検診を受けていたの。」

「うん。」

「だからその日も数値が少し悪くなっただけだって

そう思ってたんだ。

でもあの時の検診で、血液の癌が見つかったの。

若いから進行が早いらしくて、

投薬治療だとこれ以上は対処出来ないみたい。

残された手段は移植しかなくて、

でも私は特殊な血液型らしくて、適合するドナーの

方が見つからないの。」

「そんな…。」

「だから私、治療はしないって決めたの。

無数のチューブに繋がれて、

ベッドから動けないなんてそんなの、

生きてるって言えないもの。」

「…俺は生きてて欲しい。

チューブに繋がっててもそれでも

生きてて欲しいんだ。

だから治療を受けて欲しい。」

「こんなにも想ってくれる人がいて私幸せだよ。

ありがとう。」

「あの、すみません。今日の面会時間は…。」

「あ、…。」

「安藤君、また明日ね。」

彼女は笑顔で手を振った。


家に帰り、俺に出来る事はないかと必死に探した。

何時間も…何時間も…。


でも何1つとしてなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る