第3話 縮まる距離
あれから少し時間が経ち、
明日から高校生活最後の夏休みが始まる。
しかし、今年の夏休みは最悪だ。
夏季課外に松本の特別補習。
受験対策ばかりで、考えただけで胃が痛い。
「侑汰、お前さ松本の特別補習呼ばれてるか?」
「呼ばれてんだよ。最悪だろ。」
「俺もなんだけど、終わったら海行かね?」
「おお。いいじゃん。
せっかくなら女子も呼ぼうぜ。」
「誰誘うか。」
「俺、柚香誘うから、お前久我山誘えよ。」
「来ねーと思うけど…っておい!
最後まで話聞けよ!侑汰!」
侑汰は、俺の話も聞かずに柚香の所へ、
走り去って行った。
足立 柚香(あだち ゆか)は、侑汰の幼馴染で、俺は中学の時に同じクラスになり仲良くなった。
どうせ誘っても来ないだろうけど…と、
ダメ元で久我山を誘うため、
彼女が居るであろう屋上へ走った。
「久我山!」
「なに?」
「松本の特別補習呼ばれてるか?」
「呼ばれてるけど。」
「その後、侑汰と俺と柚香と久我山の4人で、
一緒に海行かないか?あ、柚香はC組で
テニス部の子。」
「いいよ。行く。」
「やっぱだめだよn…っええ?!
いいのか?!さんきゅーな!」
予想を遥かに超えた返事に、心を躍らせながら、
さっきとは打って変わって今年の夏休みは最高だと心の底から叫んだ。
お盆も終わり、夏休みも終わりに近付いている。
だが、今日は気分がいい。
なぜ今日の俺がこんなにも上機嫌なのか教えてあげようじゃないか。そう。今日は待ちに待っていた、あの日だからだ。
まぁ、午前中は松本の補習があるから最悪だけど。
「霄と久我山ー。」
柚香を迎えに行っていた侑汰が帰ってきた。
「よっ柚香。」
「久しぶり霄。その子は…。」
「久我山 紫夕です。初めまして。」
「私、足立 柚香。よろしくね!
わあ美人さんだ…。」
「あ、ありがとう。」
「よっしゃ!いきますか!!」
電車に揺られること30分。
俺たちは目的地の海に到着した。
「着いたー!」
「さっさと着替えて入ろーぜ!」
ビーチにパラソルを刺し、
侑汰と柚香は小さな波が立つ海へと突っ走った。
「久我山は入らないのか?」
「私、泳げなくて。」
「…ちょっとおいで。」
俺は海の家で膨らませておいた浮き輪を片手に、
もう片方の手で久我山の手を握り、
海へと、熱い砂浜の上を2人で歩いた。
「久我山。ここ。」
俺は久我山に浮き輪に乗るよう言った。
「いやでも…溺れても私泳げないしやめとく。」
「俺も一緒に居るから大丈夫。乗って。
せっかく海来たのに入らないと損じゃない?」
そう言って俺は、浮き輪をひきながら、
出来るだけ波の少ない場所まで移動した。
「暑い日の海まじで最高!だよな!」
「そうだね。
海に来たのなんて小学生ぶりだよ。」
「やっぱ海はいいよなあ。」
そんな風にたわいもない会話を楽しんだ。
「なぁ久我山。聞いていいか?」
「なに?」
「なんで誘ったら来てくれたんだ?」
「それは…」
「あ、言いづらかったら言わなくていいからな。」
「この間、助けてくれたのに酷い事言っちゃったお
詫びと、色々心配してくれたお礼がしたくて。」
「そっか。ありがとな。
俺すっげえ楽しい。」
そう言って笑うと、久我山も笑い返してくれた。
初めて見た彼女の笑顔は、太陽より眩しく、
何よりも美しかった。
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