花火になりたかった蛍

ろくろく んよちい

半径三十六の君へ


『追いかけていた夏は

 僕の傍から掻き消えそうだ

 飲みかけていたラムネに

 残していった涙を』










……嘘つき。


3人で行こうって言ったのはそっちだったのに。


……いいな。2人とも楽しそう。


もう少しで花火が上がる時間になる。

私は一人河原のベンチに座っていた。水面の近くをホタルがすーっと飛んでいるのが見える。もう蛍の多い時期も終盤なのか数が少ない。きっとあと見られるのも数日ぐらいだろうな。


淡い光が鈴虫やキリギリスたちのオーケストラに合わせて舞っている。



わかってるよ。

私は今あそこにはいれないってことぐらい。

それに――。





約束を破ったのは私の方だ。


うるさい心臓の音をごまかすように私が「行きたくない‼」と言ってしまったのだ。


ほんっとバカだよなぁ……。


はぁ……。


こすりすぎた目尻が少しかゆい。

きっと明日はぽんぽんに腫れてパンダみたいになっちゃうんだろうな。



ヒューーー。ドーーーン。パラパラパラ……。


私の夏と祭りの終りを告げる花火が上がり始めた。


きっとこうなるってことはわかっていた。

だって、視線を見れば意識してることがわかっちゃうぐらいなんだもん。

そこに今さら横入りなんてできるわけなんてなくって。

しょうがないよ。もう高校生なんだし。

そもそもこれまでなんともなかった方が不思議なぐらい。

それなのに、


なのに、なんでまだ何かが心に残ってもやもやしているんだろう。



蛍のような光の筋が上がり空には大きな光の花が咲く様子が私の持つラムネ瓶にも映っていた。



あちこちから手を叩く音が聞こえた。


きっと今のが最後の一発だったのだろう。

私の蛍のような淡い希望も花火と一緒に夜空に吸い込まれていったかのような静けさと、鈴虫たちの鳴き声が河原と私をそっと包む。


























――8月の最後の日は何事もなく沈んだ。

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花火になりたかった蛍 ろくろく んよちい @nono1121

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