第2話
「ありがとうございます。動機に関しては、私も納得ですが……」
明田山探偵の口元に、満足そうな笑みが浮かぶ。
権藤氏が死ぬまで独身を貫いたのは、女性嫌いだったからではない。むしろ逆に、色を好む男だった。しかも権藤氏は裕福なのに、それでも彼と結婚したいという女性が現れなかったのだから、よほど性格に難があったに違いない。
そのような男と同居する姪たち。親戚の情ゆえではなく、財産目当てなのは当然だった。金が欲しいというだけでなく、これ以上の同居は耐えられないと思い始めたのであれば、殺人の動機としても十分だろう。
「……六実さん、あなたは犯人ではないでしょう?」
「もちろんですわ! でも……。それならば、なぜ時計の話を持ち出したのです?」
六実の声のテンションが落ち着いた。自分が疑われているわけではないと知り、少し冷静になったのだろう。
「権藤氏の時計は、長針も短針も、ほぼ『六』の位置でした。もしも『むつみ』と言いたいのであれば、二つの針で『六』と『三』の方が自然だったはず」
「それは揚げ足取りみたいなものです。こういうのって、どのような解釈でも成り立つでしょう? だから私、ミステリー小説のダイイングメッセージが嫌いなのですわ」
富江が思いっきり顔をしかめる。
明田山探偵は苦笑いしながら、話を続けた。
「いやいや、今回の場合は違います。権藤氏は宝石商ですからね。宝石とか鉱石とか、そういうのには詳しくて、すぐに頭の中に浮かぶのがそれだったのでしょう。鉱石言葉というやつです」
「宝石と鉱石は、厳密には違うのですけど……」
宝石で食べさせてもらっている者として、専門家らしく細かい点にこだわる富江。
「……あなたが言いたいのは、石言葉ですね? 各月の誕生石のイメージになっている……」
「そう、それです」
我が意を得たり。そう言わんばかりに、明田山探偵はニヤリと笑った。
「権藤氏が、壊れた時計を用いて言いたかったこと。長針と短針で『六』を示したのは、六月の誕生石であるパールだったのです。パールの石言葉は……」
彼の言葉を遮って、
「パールならば、石言葉は、長寿とか富とか純潔とか……。なるほど、私の名前の『富』ですね」
富江が冷たい口調で言い切った。
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