第23話 水曜日には雨が降る

 移住に向けて勉強をはじめてまだ2週間ちょい。

 勉強の方は予想以上に順調だ。


 オース共通語はもう少しで修了試験。

 AI相手に会話するなんて形式の試験を終えると基礎課程は修了となる。


 魔法の勉強は順調を通り越している。

 既に第1段階とされる魔法のほとんどを使用可能だ。


 ちなみに魔法訓練では基礎魔法から第2段階までの魔法を勉強する。

 基礎魔法とは灯火魔法の他、発火、発熱、冷却、収納。

 第1段階魔法と呼ばれているものが火炎、赤熱、氷結、移動、強風、身体強化、応急治癒、応急治療。

 第2段階が火炎爆破、熱崩壊、凍結、治癒、治療。


 ただし家の中で訓練できるものは限られる。

 火炎、まして火炎爆破なんて成功したら住む場所が無くなるから。

 だから危険な魔法はイメージ方法だけにとどめ、練習は氷結や凍結が主体となる。


 なおこれらの魔法、この世界で練習する限りはほとんど威力を発揮しない。

 強風を起動してもせいぜいカーテンが揺れる程度。

 理由は簡単で魔素マナの濃度が薄いから。


 しかし惑星オースは魔素マナが十分に濃い。

 だから地球で練習したより数十倍の威力が出るそうだ。


 ところで第1段階魔法を使えるようになると魔力測定が可能になる。

 測定に使用するのはアプリを起動したスマホと長い糸、そして吊せる場所。

 具体的にはこんな手順となる。


 ① スマホ本体と糸を用意する。

 ② スマホを縛って糸で吊るす。吊るす長さは1m以上が望ましい。

 ③ ソフトを起動して魔力測定モードにする。

 ④ スマホを吊るした場所から1m以上離れた場所に立つ。

 ⑤ 移動魔法をスマホを対象にして起動する。

 

 ⑤の魔法でスマホが揺れる。

 移動させようとする魔法が働いた事で力がかかるからだ。

 この時に加速度センサーでスマホにかかった力を測定するという仕組み。


 ただし私オリジナル仕様の移動魔法ではスマホが吹っ飛んで壁に激突してしまう可能性が高い。


 一度ベッドの上の枕でオリジナル移動魔法を試してみた。

 結果、枕は恐ろしい速度で壁にぶつかり破裂。

 中からビーズが出た。

 昼で隣の住民がいなくて良かった。

 いたら間違いなく文句を言われそうな壁ドン音がしたから。


 原子等の熱エネルギーによる移動や振動を同一方向に揃えるイメージでやってしまったのが失敗の原因の模様。

 実践ならそれでもいいだろうけれど、測定にはならない。

 だから測定は『移動しろ』とただ念じる、従来タイプの魔法で実施。


 結果、そこそこ高価な振り子式時計程度には揺れた。

 さて結果はどうだろう。

 紐を外してスマホを見る。


『測定結果:魔力レベル5 惑星オースの住民としてはほぼ平均的な魔力です。ですが移住者の魔力平均は6ですのでやや劣っています。

 なお現時点での魔力の場合、アイテムボックス容量は2,000kg程度と推定されます。持ち物選定の参考にしてください』 


 移住予定日まであと10日以上ある。

 これなら向こうで魔法を充分使えるだろう。


 さてそんな中、順調でないのものもある。

 体力錬成と持ち物の準備だ。


 持ち物準備はやっと大物が決まったという段階。


 そして体力、運動は……

 本日は久しぶりに大雨。

 だから運動は中止。


 天気図を見ると低気圧とともに梅雨前線がこの付近まで北上中。

 予報では今日から6日間は雨マーク。

 これでは訓練が進まない。


 体力は1週間毎朝歩いた結果、やっと体力年齢が30代後半になった。

 それでもまだまだ鍛える必要がある。

 これでもまだ20代なのだ。

 アラサーではあるけれど。


 しかし雨の中散歩するのも嫌だ。

 間違いなく私、駄目になる。

 濡れて群れて気分を悪くして寝込んでしまう。


 ここは別の方法で身体を動かそう。

 少なくとも今日は。


 取り敢えず言語の勉強と魔法の訓練のノルマ分を済ませる。

 時計を見ると午前9時25分。

 散歩をしなかった分、勉強が終わる時間が早い。


 時間は充分にある。

 そして今日は一日中雨の予報で運動が出来ない。 

 だから少しでも動けて今後の参考になる所へ行くべきだ。


 場所はもう目星をつけている。

 ホームセンターだ。

 それもこの付近で一番大きいと言われているホームセンター。

 冗談みたいに広くて何でも売っている店だ。


 ここをうろうろすれば適度に体力を消耗するだろう。

 それに向こうで必要になる物を見つけられるかもしれない。

 購入は通販でするにせよ現物を見る事は参考になるだろう。


 目的地のホームセンターは大学時代に一度だけ行った事がある。

 その時は車だった。

 坂入先輩経由で仁科先輩に御願いして車を出して貰ったのだ。

 仁科先輩は地元出身で実家の車を使えるから。


 あの時はサバイバル用品の購入の為だった。

 ビニールシートとか鉈とか手斧とかロープとか。


 工務店名が入ったハイエースに運転の仁科先輩含めて7人で乗車。

 サバイバル用品ついでに欲しかったものをどっさり買ってきたのだった。

 カラーボックスとか衣装ケースとか。


 しかし今の私は車を持っていない。

 自転車では少しばかり遠すぎる場所だ。

 しかも外は雨が降っている。


 今回は公共交通機関を使おう。

 なおタクシーは使わない方向で。

 知らない人と2人で狭い空間にいると気持ち悪くなりそうだから。

 

 あのホームセンター、地下鉄の終点より更に北だった記憶がある。

 ネットで場所を確認。

 地下鉄終点より5キロも北だ。

 自転車や歩きで行ける距離では無い。

 元気な時で晴れていれば別だけれども。


 近くのバス停は……店の160m先にあるようだ。

 時間を調べると1時間に概ね2本位。

 所要時間はここからだと途中地下鉄を乗り換え、更にバスに乗ってで……


 メジャーな検索エンジンでは『検索できませんでした』なんて表示になる。

 仕方なく地元バス会社のWebページを開いて検索。

 所要およそ50分で片道650円と出た。


 よしいいだろう。

 今日の運動とグッズ漁りの為、少し頑張ってみよう。


 ただ一応お守りは持って行くつもりだ。

 この場合のお守りとは頓服2錠。


 これ1錠で3~5時間は何とかなる。

 1錠飲んで出発して、途中危ないと感じたらもう1錠飲めばいい。

 もう1錠は予備というか本当にお守り程度の意味で。


 最悪なダウンをして3日間くらい動けなくても問題ない。

 すぐ買わなければならない家関係は購入済みだ。

 勉強の方はまだまだ間に合う。


 よし、支度をしよう。

 今回は電車にも乗るからフル武装。

 行先がホームセンターとは言え中心街の駅で乗り換えるし。


 今から1時間くらいで出れば電車とバスの時刻的にはちょうどいい。

 髪を乾かす時間はないから洗面からだな。

 私はベッドから立ち上がった。

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