第7話 夢の移住先のイメージは

 そう言えば移住に対して向こうの法律はどうなっているのだろう。

 事例から見た限りでは移住先の異世界の国々はそれなりの政治体制を持っている様子。

 それなら土地の使用とか税金とかはどうなるのだろう。


 再びメニューに戻ってそれっぽい項目を探す。


『移住に関する手続きは全て当事務局にお任せください。日本をはじめとする地球上各国の弁護士、司法書士、行政書士と提携しており、移住に関わる全ての手続きをスムーズに行えるようになっております』


 探していた事と少し違うが、地球側の手続きも異世界側の手続きも移住事務局がやってくれる模様。

 例えば異世界に移住した場合、日本側での退職手続きだのアパートの解約手続きだの住民票の手続きだのを代行してくれるらしい。

 これは朗報だ。

 あの無能な癖に厭らしい爺上司の顔を見なくて済む。


 更に読み進む。


『また異世界側、惑星オースの移住に適した国にも現地スタッフが常駐し、手続きをスムーズに行えるようになっております』


 異世界側の手続きも全て事務局任せで問題ない模様。

 正規に向こうの法律に基づいて手続きを行ってくれるらしい。


 更に読み進む。

 異世界側のいくつかの国では移住者や開拓者に向けた特典も用意されているようだ。

 地域は限られるが墾田永年私財法のように開拓した土地を私有化する事も可能。

 まだ未開発の部分が多く人口が少ないから、こうした政策が成り立つのだろう。


 勿論そういった地域は便利な場所ではないと思う。

 しかしこれはロマンだ。

 拓いて拓いて拓いてと頑張った分が全て自分の土地になるなんて。


 勿論納税の義務は免れない。

 しかし税金は土地の広さや価値にかかるのではなく、利益にかかるのが一般的らしい。

 でっかい土地でも収益が僅かなら税金は格安。

 うーん、いいかも。


 ある程度切り拓いた後、放置農法的に農場経営をすれば手間はある程度少なくて済むのではないか。

 なら放置農法についてもある程度勉強しておかないと。

 どうも魔法や語学以外にも勉強しなければならない事は多そうだ。

 地球の常識が惑星オースで通じるかは微妙だけれども。


 あとは肉の確保で牧場なんてのもいいかも。

 なんて考えたけれど飼うと家畜に情が移って屠殺できなくなるような気がする。

 これについてはやはり狩猟で、それでだめなら購入でもいい。


 どうせ農場なんてやれば害獣等も出てくるだろう。

 うちの市も郊外では猪だの猿だのの害が結構出ているし。

 そいつらならばっさり殺っても心は痛まない……かもしれない。


 異世界の害獣とはどんな奴らだろう。

 野生動物は爬虫類中心と聞いているけれど。

 やっぱり小型の恐竜だろうか。

 それともワニみたいなタイプだろうか。


 さて、ここまでで結構移住後の生活のイメージがわいた。

 それでは具体的な移住プランを少し考えてみよう。

 イメージが具体的な方がやる気が出ると思うのだ。


 やる気が必要なのは語学や魔法の勉強の為だけではない。

 今の私はうつでベッドの上から脱出出来ない状態。

 興味をもって情報を見る事が出来るようになっただけでも大きな進歩だったりする。

 もっと意欲が湧くようになれば動けるようになるかもしれない。


 何せ現状、1日の間に確実に布団を出るのはトイレだけ。

 風呂も我慢の限界になった時しか入っていない。

 服さえ脱ぎ着するのが面倒なので全裸。


 例外は28日に1回だけ。

 医者に行くときだ。

 この時だけは流石に服を着て身だしなみを整える。

 本当は行くのも辛いのだが、行って薬を手に入れなければもっと辛い事になるから。


 毎日飲む薬が切れたり少し体調を崩したり嫌な事があったり。

 そんな事になるとうつだけではなく強迫性障害まで出てきてしまうのだ。


 私の場合呼吸がやたら気になりだす。

 呼吸できているのにちゃんと空気を吸えていない気がする。

 結果ついつい過呼吸になって、更にパニック障害を起こしかけてしまう。

 

 この状態から脱出する方法は現状1つしかない。

 即効性のある頓服を飲んだ後、薬が効力を発揮するまでラジオ体操したり最強で冷房かけたりして意識を呼吸から他にそらし続けるのだ。

 数分たって頓服が効くと呼吸が気にならなくなって一件落着となる。

 

 話がずれた。

 具体的な移住プランだ。

 まずは移住先、どんな場所がいいだろう。


 思いつくのはやはり海辺だ。

 狩猟はした事がない。

 しかし釣りや潮干狩りはしたことがあるし好きだ。

 大学時代にサークルの物好きと海辺でサバイバル合宿なんてした事まである。

 それに海に近い方が温暖で気候も安定しているだろう。

 少なくとも日本の太平洋側はそうだ。


 海ならある程度大きな湾の内側がいい。

 海流や海風の影響が少なくなる。


 出来れば潮の干満の差が激しい場所がいいかな。

 干潟があって、かつある程度深い岩場もあると最高。

 干潟部分ではシャコとか貝掘りとか、すだて漁なんてのも出来ると楽しい。


 すだて漁とは干潟に網を仕掛け、満潮時に来た魚が干潮で逃げられなくなったのを捕えるという伝統的な漁法だ。

 日本でも東京湾は木更津の方でやっているらしい。

 一度は行ってみたかったのだけれど機会がないまま今に至っている。


 でもそれなら大きめの網が必要だな。

 あとは寒い季節でもある程度海の中へ入れるようにバカ長靴も欲しい。

 バカ長靴はともかくすだて漁用の網なんて通販で売っているだろうか。

 調べておこう。


 あと海流があまりなく風も弱い湾内なら船も欲しい。

 勿論本格的な漁船なんて値段的に無理だろう。

 でもカヤックフィッシング用のカヤック程度なら買える。


 それともヨットのように風で動くものの方がいいだろうか。

 漕ぐより速く楽に進めそうだから。


 一応ミニホッパーなら学生時代に試した事があるし今でも操れるとは思う。

 しかし1人乗りのヨットで釣りというのは聞いた事は無い。

 釣りに集中していると倒れたり帆で頭を打ちそうな気もする。

 やっぱりカヤックか手漕ぎ船が無難だろう。


 あとは干し網なんてのも欲しい。

 釣った魚を干物にするにはあった方が便利だ。

 大量に干すなら金網みたいな方がいいのかな。

 でもそれには天候が安定している事が重要だ。

 雨が少なく温暖な気候である事が望ましい。


 夢が膨らんでいく。

 よし、まずは移住したくなるような場所を探そう。

 今までの条件に合いそうな場所は何処だ。

 私の理想のマリンリゾート、実態は一人漁業の拠点にふさわしい場所は見つかるのだろうか。

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