第8話 探せ理想の移住場所
あれこれ見ているうちに移住先検索ナビと題したページを発見した。
どうやらこれで条件に当てはまる場所を探すことが出来るようだ。
ちょうど情報が多すぎてどう絞ればいいかわからないところだった。
早速このナビとやらを使ってやろう。
ナビは移住先にどんな国を選ぶかという項目からはじまる。
まずは移住者を歓迎している国というのが絶対だ。
なおかつ政治体制は民主主義で。
独裁的神権政治なんて国家だったら目も当てられない。
検索条件を入れる毎に表示されている該当件数が変化する。
しかし国条件の2項目ではわずかしか該当件数は減らない。
つまり事務局が斡旋している国ならほとんどこの条件にあてはまるようだ。
まあそりゃそうだろうと思う。
次は気候条件。
寒すぎず暑すぎず、出来れば西日本程度の場所。
気温帯の項目で15度から30度と設定。
雨量は年間降水量1000ミリ~2000ミリにしてみた。
この条件で一気に1割まで絞られた。
やはり条件がいい場所は少ないのだろうか。
少し条件を変えて様子を見てみる。
どうやら雨量を減らすと該当地域が増える模様。
年間降水量の下限を500ミリにすると一気に3割まで増える。
更に最低気温を5度にすると4割に。
どうやら私の希望は主流と少し違うらしい。
別窓で希望ランキングページを開いて確認してみる。
なるほど、私が設定した条件は標準的な希望条件より雨多め、暖かめだったようだ。
そして移住受け入れ地は標準的な希望条件にあった場所が選定されている事が多い模様。
私の希望が標準と異なるのは高温多湿な日本を基準にしていただからだろうか。
となると移住希望者は欧米人が多いのだろうか。
そう言えば移住例もドイツ出身のハンスさんだ。
でもまあ気にしないでいいか、人は人、私は私だから。
次は移住場所の具体的環境に関する項目だ。
最寄りの街からの距離、移住者の多い少ない、土地の現況、起伏、標高、海や湖、川等の条件を設定する。
土地の現況は岩場・岩石地帯以外。
起伏は平坦な場所がある程度存在すればいい。
標高は海沿い希望だから25m以下を選択。
海と川は詳細項目も指定する。
海は湾内絶対、干潟があれば尚可、砂浜あれば尚可、岩場可。
川は中規模以下、上流に集落なし。
何せ当分は漁業で生活するつもりなのだ。
この辺はこだわりたい。
最寄りの移住者までの距離はとりあえず無指定で。
本当はいない方が気分が楽。
こっちが女1人だからと変なのに寄って来られては困る。
入り浸られたら目も当てられない。
くだらない人間関係はうんざりなのだ。
必要なら最寄りの街で必要な誰かに会えばいい。
それ以上の関係は今はいらない。
ただ実際誰もいない場所となると余程の辺境か危険地帯となるだろう。
だからまずは条件を出さず、出た結果から見て判断する事にしようと思う。
最寄りの街についても条件はゆるめに設定。
あまり近いと興ざめだ。
とは言っても遠すぎても生活に困る。
そんな理由で片道半日以上1週間以内という範囲を指定。
惑星オースの1週間は6日間。
そしてこの移動にかかる期間は身体強化魔法を使っての値だ。
だからこの半日という距離は概ね70km以上。
だから1週間で到達可能という場合の距離は600km以内となる。
もちろん道路の整備状況でこの距離は変わるけれども。
身体強化魔法は向こうへ移住すれば割と簡単に会得出来る魔法のようだ。
事例のハンスさんも取得していたし。
とりあえずはそう信じてこの条件のままにしておこう。
ここまで検索結果は35件。
これは多いのか少ないのか。
今の私にはよくわからない。
ざっと見てみて良さそうなところをまず開いてみる。
写真っぽい絵と文章による紹介が現れた。
うーん、1件目はアウト、論外だ。
移住者で微妙に怪しい共同体を作っている雰囲気。
それでも念の為、紹介文をしっかり読んでみる。
ああ、やっぱり駄目だ。
理由もないのに断定的でやたら自分にポジティブな教祖的男性1人とそのとりまきの女性数人、更にその周囲に男性、女性という感じの集団。
人間らしい暮らしとか本当の自分とはとか真の豊かさとか、怪しいキーワードもいっぱい。
こんなのと一緒になるなら移住しない方がいい。
見るのをやめて次の結果へ。
次は一見良さそうだ。
一番近い移住者の拠点も結構離れている。
なおかつこの移住者は壮年夫婦だから私が夜這いに遭う可能性も低いだろう。
唯一気になるのが国の状況だ。
国の債務残高がやたら高いと注意が出ている。
気を抜くと一気に税率が上がるなんて事もありそうだ。
避けた方がいいだろうと判断。
そんな感じで次々に見ていく。
何せ1つの場所だけでも国の状況から全部見ていくのだ。
勿論同じ国の場合は国の部分は省略するけれど。
現地の情報だって地図だの上空からの絵だの生物相だの盛りだくさん。
きっちり読むだけで結構かかる。
ただそれが面白いと言えば面白い。
それにしてもこの一連のWebサイト、異世界移住詐欺にしてもよく出来ている。
作った人はたいした物だ。
絵や記述が違う世界にある現地をリアルに感じさせる。
これだけの設定を作るのは大変だっただろう。
惑星の設定を作り、地図を作り、海流や気候を設定し、地形に合わせて人口を配置し……
まるで本当にこんな世界があるように思えてしまう。
だからこそある程度本気になってはまれるというのはあるけれども。
ただそんな設定、いや移住場所の説明も延々と読見続けると飽きてくる。
そのうち最初は現地の情報だけ斜め読みして、それでピンときたら他の情報を読むようになった。
そして12件目。
『本件はナサリア諸島に位置するヒラリア共和国の開発推進区域です。場所はヒラリア最大の島リアベルガ島の西部地域、およびエルガ内海を挟んで対岸側であるシルベルザ島の南部地域となります。
本地域は1年を通して偏西風の影響を受け温暖な地域でやや雨が多く……』※1
なんとなく良さそうだな。
そう思いつつ読み進める。
そこそこの大きさの湾がいくつかあり、砂浜、岩場等があちこちに存在。
大きめの干潟も数カ所。
私の欲した条件が揃っている。
降水量は年間1600ミリ程度、日本の平均よりはやや少ない程度だ。
気温は1日の平均気温が10度から25度。
なかなか過ごしやすそうな環境と見た。
さて生物はどうだろう。
両島とも大型の肉食爬虫類はいない模様。
最大の肉食獣でも全高60センチ体長150センチ程度の中型爬虫類、アルパクスまでとある。※2
他の動物はアルパクスよりやや大きいアルケナスという草食中型爬虫類、イルケウスという草食小型爬虫類、更に小さい草食や肉食の爬虫類、昆虫類、そのほか……
そして私お目当ての海の生物は豊富な様だ。
この地域は移住者や開拓者に公開したばかりだが、近くの湾での調査結果が記載されている。
海生爬虫類は外洋を好むらしく湾内や内海にはほとんど入ってこないらしい。
しかし魚は豊富かつ多様。
鰹っぽいのとか鰯っぽいのとかエイっぽいのとか。
現代と違うのはサメのような軟骨魚類の種類が多い事。
鰯っぽいポジションの軟骨魚類までいる。
情報によると蟹とかエビとか貝とかも豊富な模様。
アンモナイトっぽい奴もいるようだ。
しかも食べられるらしい。
アンモナイトって貝を持っているイカみたいな奴だよな。
なら塩辛を作れるのだろうか。
それとも貝部分を使って壺焼きにするべきだろうか。※3
新鮮なイカで作る自作塩辛は実に美味い。
つい大学時代の事を思い出してしまう。
夏合宿と称してサークルの野生活動好きな面子6人で長崎県の島までサバイバルキャンプに行った時の事を。
あの時私は2年生で、あと3年生2人、1年生3人。
持って行く食料は米と調味料と野菜だけ。
タンパク質は自分で捕れというルールだ。
あの合宿2日目、3年の坂入先輩が見事なイカを釣り上げて、それで他の5人で寄越せコールをしまくったのだ。
結局全員で分けて刺身だの天ぷらだのにした。
その中でも一番おいしかったのが即席塩辛だ。
あれをもう一度楽しめるのだろうか。
それとも塩辛は無理で、貝として巨大な壺焼きにした方がいいのだろうか。
それを食べて比べるなんて、もうこれだけでも楽しみで仕方ない。
※1 近況ノートにヒラリア共和国概略図を載せました。よろしければ参考にしてください。
※2 中生代白亜紀前期に生息したシノサウロプテリクスに類似
※3 イメージの参考 デイリーポータルZ 2017年6月6日記事 『オウム貝の捕まえ方と食べ方』平坂 寛
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