第6話 異世界移住生活モデルケース

 何か昔懐かしいタイプのSF小説を読んでいるようで少し疲れた。

 だから気分を変えて具体的に読んでイメージが湧きそうな項目を見てみる事にした。


 移住生活モデルケースという項目を選択する。


『【移住生活モデルケース】

 1.自然豊かな環境で半自給自足生活

 2.安定した気候の下でらくらく農業

 3.ファンタジーでお馴染み冒険者的な生き方

 4.手に職をつけてこつこつ堅実に

 5.店を持って一国一城の主に』


 まるでうさんくさい田舎暮らし情報誌のようだ。

 でもその辺を抜きにすると私が興味あるのは1番だろうか。

 やはり自然豊かな場所がいい。

 野生に還り過ぎて原始人生活というのは遠慮したいけれど。


 そんな訳で1番を選択。

 画面が変わる。


『自然豊かな環境で半自給自足生活。

 ハンス・フォン・ペトケさんが選んだのは緑豊かで温暖な川の畔。ここにセルフビルドのログハウスを建てて暮らしています』


 登場人物の名前以外はいかにも田舎暮らし情報誌にありそうな記載だ。

 なぜ田舎暮らし情報誌なんて思うか。

 実は買って読んだことがあるからだ。

 しかし金銭的に私の参考にはならなかった。


 何せ掲載事例は半数以上が年金暮らしのお年寄り。

 一応勤労世代の田舎暮らし住民の例も載ってはいた。

 しかし元々土地勘がある奴か、計画なし飛び込み派で何処まで続くかわからない頭の軽そうな奴か。


 移住して収入は一体どうやって得る気なのだろうか。

 テレワークなんて言っても回線が無い場所では不可能だ。

 本当に生活設計はそれで大丈夫なのか。


 あと一家で移住なんてのもいるが子供の教育はそれでいいのか。

 学校とかはどうするつもりだ。

 そんな疑問たっぷりな事例が多過ぎて1回買った後は買う事が無かった。

 

 いや田舎暮らしではない、今は異世界暮らしだ。


 このハンスさんとやらは元ドイツ人で暖かい自然豊かな場所を求めて移住したそうだ。

 家はセルフビルドの小型ログハウスを材料だけ購入して組み立て、あとは随時現地の資材で改築したらしい。


 なるほど、家のキットを持ち込んだ訳か。

 それなら住む場所に困らないで済む。


 ただ写真で見るとこのハンスさん、筋肉ムキムキの大男。

 私1人でログハウスのセルフビルドをするのは腕力的に辛いだろう。

 私の場合は出来合いのキャンピングカーとかトレーラーハウスを持ち込む方がいいだろう。

 重さ制限は大丈夫かな。

 後で調べよう。

 

 植物は持ち込めないので最初は採取および狩猟生活。

 そうか、種とかを持ち込んで家庭菜園というのは無理なのか。

 生態系を壊すとかそういう意味でだろうか。

 移住という点で既に生態系はかなり壊しそうだけれども。


 肉は中型かそれ以下の爬虫類。

 これらを罠や魔法で捕らえる。

 特に冬近くなると爬虫類の動きが鈍るので狩りやすい。

 だからこの時期にできるだけ狩ってアイテムボックスに入れておくのがポイントだそうだ。


 恐竜を狩るなんて考えると少しぞっとしなくもない。

 でも哺乳類を殺すよりは心理的抵抗が少なくて済むかも。

 日本でも蛇や蛙はさばき方と調理次第では美味しいらしいし。

 鶏肉に似ていると界隈では言われているようだ。

 蛙は爬虫類ではなく両生類だけれども。


 植物は蔓芋という芋や木豆という豆が移住当初に採取可能だったそうだ。

 芋や豆といっても地球上にあるものとはかなり違うけれども。

 野菜は木や草の若芽、若葉等が中心。


 次は現地民との接触についてだ。


 現地に慣れ、ある程度魔法も使いこなす事が出来る。

 肉食爬虫類や魔物、魔獣に対処可能。

 だから比較的安全な移住場所を出て旅行をしても大丈夫だろう。

 ハンスさんが自身をそう判断できるまで1ヶ月。

 その上で最寄りの集落まで旅に出たそうだ。


 最寄りの村までは2日がかり。

 まず1日目は川沿いを歩いて下り、道に出たところで野宿。

 そこから石畳の道を歩いて1日で最寄りの村へ。


 なおこれは地球の人間が通常歩く速度での所要時間ではない。

 魔法を使用しマラソンのトップランナー並みの速度で走れる状態での移動にかかる時間だ。

 1月も現地にいて魔法を訓練すればその程度は普通に可能との事。

 どこが普通だよとツッコミたくなるが異世界だからという事で無理やり納得。


 さてハンスさんは村で植物の種や生活必需品を購入。

 移住の際、事務局の方で地球での所持金を現地のお金に両替して持たせてくれるらしい。

 ハンスさんの場合種や現地の衣服等、当初の買い物はこのお金を使ったそうだ。

 

 あとはまた2日かけて自宅へ帰り、近くの平地を焼畑農業的に開墾して畑作を開始。

 二酸化炭素濃度が高く温暖な事から作物の生育は地球より遥かに早く良好。

 以後はほぼ農業と狩猟で暮らしているとの事だ。


 ただ納税と自作できないものの購入の為、ある程度は換金できる産物も作る。

 ハンスさんの場合は狩猟で得た肉を塩漬けにしたり燻製にしたり等加工したものが商品。


 1か月に1回の割合で村へ行き肉加工品を売却。

 服や金属製品や書籍等、自作出来ないものや趣味のものを購入して帰ってくるとの事だ。

 

 なるほど、こういった事例があるとイメージをふくらませやすい。

 肉が必要なら恐竜を狩る訳か。

 私の腕力では無理だが罠なら大丈夫だろうか。

 でも罠にかかった獲物のとどめをさすのは少々怖いかな。

 ある程度慣れれば魔法で出来るようだけれども。


 あとは仕留めた獲物を解体するのも大変だ。

 慣れないと血塗れになりそうだし内臓とか臭そうだし。

 最初はやはり小さめの獲物からだな。

 それも倒して罪悪感をあまり感じない見た目の奴で。


 その辺を考えたら私の場合、最初は海沿いがいいかなと思う。

 釣りで魚を獲れれば動物性たんぱく質は問題ない。

 魚なら釣りあげられる大きさのものならさばくのもそう大変ではないだろう。

 これでも売っているイナダ程度ならさばける。

 料理も得意ではあるのだ。

 食べるのが自分だけでは面倒で作る気にならないだけで。


 豆や芋は海の近くにもあるだろうか。

 それとも別の食べられるちょうどいいものがあるだろうか。

 出来れば甘味なんてのも欲しいが果物は難しいだろうか。

 

 あとは現地で生計を立てるのにどうするかというのも考えた方がいいだろう。

 ハンスさんの場合は実家が畜産業で食肉加工の知識と経験があったそうだ。


 私の場合はそういった金になりそうな特技は思いつかない。

 今のうちにある程度調べて鍛えておいた方がいいだろうか。

 海沿いに居住するから魚の干物の作り方とか。


 確か以前、南房総の干物屋の息子でWebライターという人が実家の干物の作り方をWebに書いていたな。※

 あとで読んでおこう。

 印刷してもいいかな。


 あとは魚をさばく練習もしないと。

 でもその辺は現地でやってもいいか。

 ある程度は自信あるし、異世界の日本の店で売っている魚と同じとは限らないし。


 あとは魚もある程度大量に獲れるようにしておかないとな。

 釣りだけでなく網も購入するべきだろうか。

 予備の網とか補習物品まで考えて。

 そんな事まで考えてしまう。


※ デイリーポータルZ 2018年6月10日記事 『松本商店の美味しい干物レシピ』松本圭司

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