第2章 ベッドの上で情報収集

第5話 惑星概要はSFの香り

 休職終了まであと2ヶ月マイナス1日。

 それまでに移住できればスムーズに済む。


 この異世界移住の話、実際は詐欺だろう。

 そんなファンタジーな事なんて現実に出来る筈がない。

 でも夢を持つのはいい事だ。

 実害がない限りは。

 鬱からのリハビリにもちょうどいい。


 だから取り敢えず異世界に向け行動を開始するとしよう。

 ただ私の現状を鑑みるに出来る事は限られる。

 能動的に動ける気がまるでしないからだ。

 だから体力トレーニングはまず無理。


 なお体力トレーニングはスマホにアプリを入れて指定通り動き回って鍛えるという内容だ。

 このアプリでGPS履歴や電話番号、アドレス帳等の情報を抜くのだろうか。

 警戒したが使用許可権限を見ると運動データ、つまり加速度計あたりしか使っていない模様。


 何というかなかなか控えめなアプリである。

 チェーン店のポイントカードアプリですら油断しているとごっそり権限を持っていく時代なのに。


 さて、残るは魔法か言語か、さもなくば現地情報を見て異世界に思いをはせるか。


 魔法もまずは座学的部分から始まるらしく、魔素マナを用いて実践訓練をするのはある程度勉強してかららしい。

 言語の勉強なんてのはいかにも脳みそが疲れそうでやる気が起きない。


 ここはやる気を呼び込む為にもまず移動先の異世界情報を知るべきだろう。

 そう思ってメニューから『7.現地情報収集』を選択する。

 

 次に出たメニューの中の一番最初にある『惑星オースについて』を選択。

 まず移住するのがどんな星か知っておこう。

 その方がその後の理解が楽だろうから。


『惑星オースはK型主系列星である恒星サウレを公転する第4惑星です。1年は267日 、1日は22時間。大きさは地球とほぼ同じで、重力もほぼ変わりません。大気成分も地球とほぼ同じ。二酸化炭素濃度がやや高いですが違和感なく過ごせる程度です。気候も概ね地球と同じです』


 K型主系列星という事は太陽より小さめの恒星という事か。

 その代わり地球より恒星に近い場所を回っているのだろう。

 その辺は公転周期、つまり1年の期間を見ればわかる。


 あと自転周期、つまり1日の長さも地球と違うのか。

 でも22時間ならあまり気にしないでいいかもしれない。


 そして重力と大気成分、気候がほぼ同じ。

 確かに移住するならその辺は同じでないと辛い。

 でも何かその辺御都合主義が隠れているような気もする。

 だから移住に選ばれたんだと言われると仕方ないけれど。


『惑星オースには5つの大陸と多数の島々があります。陸と海の比率は2:8で地球に比べると海が多くなっています。

 なお5つの大陸のうち2つの大陸はそれぞれ北極地域と南極地域にあり、移住にはあまり適していません。人間は主に他の3つの大陸と島々に住んでいます」※


 ふむふむ、その辺は地球と違うぞと。


『惑星オースはヘリオ・セス・デルタ型開発の一環として、地球人の移住を行っております。ですから現在生息している人間は地球人と遺伝子レベルで同一です』


 何だその何とかという開発は。

 異世界ファンタジーだった設定がSFに変わっている。

 だいたいそんな惑星開発なんて技術、今の地球ですら存在しないだろう。

 何がどうなっているんだ。

 そんな私の疑問を完全無視して説明は続く。


「文明は科学技術そのものは地球の近代以前、いわゆる産業革命がまだ起きていない頃と同等です。

 しかし魔法を使う事によって現在の地球における先進国とほぼ同等の生活水準を確保可能となっています。また教育水準等も現代に近く、多くの国では義務教育期間が6年以上あり、識字率は9割以上となっています』


 今度は魔法なんてファンタジー設定が入って来た。

 ファンタジーかSFかどちらかに世界観を統一してくれ。

 でも昔はSFファンタジーなんて分野もあったっけか。


 なお大学時代の私の専門分野ではSFとは自発核分裂の略。

 これがあるから超重元素は大変なんだよな。

 なんて思いながら更に読んでいく。


「政治体制は民主主義体制、権威主義体制、全体主義体制等、地球と同様で様々な形態が存在しています。最大勢力は民主主義体制を取る国で、人口が多い国の8割は民主主義体制です。


 なお戦乱は地球に比べるとかなり少ない状況です。これは魔法という強力な力が使用可能な他、総人口が5億以下と地球に比べるとかなり少なく、国同士で人口密集地域が接近している部分が少ない事が影響しています。


 また均一な開発および移住により文明程度が各国ほぼ同一で技術的な差異は少ない状況です。このことも抑止力として働いています。


 更に海洋が多く陸地が少ない事から、国々の交流は船が使われる事が多くなっています。船は魔法に対して極めて脆弱な存在である事から、戦闘にはむいていません。この事も戦乱が起こりにくい要因のひとつです。

 

 なお移住の際言語を統一したため、ほぼ全域で共通言語が使用可能です」


 この辺はかなり現実的な情報だ。

 環境がほぼ地球準拠でかつそれより少し住みやすそうな気配。

 安心して移住しろという事だろうか。


「ある程度より大型の動物は爬虫類が主体で、哺乳類はほとんどいません。これはオースの気候が地球と比べて比較的温暖な事、氷河期にあたる時期がかなり長い間訪れていない事が原因と思料されています。

 なお移住先には危険な大型肉食生物が比較的少ない地域を中心として選定しております」


 まるで恐竜でもいそうな書き方だ。

 というかきっといるのだろう。


 私は身長は高いし野外活動は好きだが一応は女子。

 だからか爬虫類があまり好きではない。

 大学のサークルにはヤモリはつぶらな瞳で可愛いと言っている女子もいた。

 でも私はどうしてもそう思えない。

 だからあまり嬉しくない記載である。


 ※ 近況ノートに惑星オースの概略図を載せています。よろしければ参考にしてください。

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