第5話 我、最後の魔王

「で、でも。 報道ではクラスBの討滅班が対処にあたったって…」


「討滅班とやらがなんなのか我には分らぬが、言葉で語るより実際に見せた方が早いじゃろう」


 困惑する少女と白猫に対し魔眼が持つ力の一つを開放し、我と獣の間で起きた一部始終を擬似的に追体験させる。


(とはいえ、獣が肉塊となる瞬間は彼女たちには些か刺激が強いだろう…少し霧を掛けボカしておくか)


 あくまでも目的は事実を伝えることなので、わざわざ不快な映像を見せる必要もあるまい。


 我の手によって獣が潰される場面は意図的に不明瞭にしておいた。


「どうじゃ。 今お主らが見たものがその獣…巨獣型魔徒とやらに起きた真実だ」


「触りもせずに魔徒を殺すなんて…アンタいったい…」


「何度も言わせるでない。 我は魔王。 魔族の王にして、眷属を持たぬ変わり者…それが我じゃ」






 ◇◆◇






 我の知らぬ魔徒という存在、そして少女らが知らぬという魔族という存在。


 我が殺した巨獣は何故か討滅班なる人族たちの手によって討たれたことになっており。


 知り合いの元へ飛ぶはずだった転移魔法も誤作動を起こし、こうして見知らぬ少女の元へと送られてしまった。


 事態を把握していくにつれ、疑問や謎が深まるばかりだが。


 なんにしても、我とこの部屋の主たる少女らは互いに互いのことを知らなすぎる。


 まずは情報交換もとい、互いについて少し話さぬかと我は切り出した。






「……というわけじゃ」


「ほんと、映画みたいな話ね…」


「私だったら、目が覚めて剣が刺さってたらそのまま気絶しちゃいそうです…」


「いや、未冬。 ふつう胸に剣が刺さってたら二度と目覚めないわよ」


 我がこの部屋に転移してくるまでに起きた事を大まかに話し終えると、白猫は少し考え込むそぶりを見せた後話し辛そうに口を開いた。


「アンタの話が本当だとしたら…その、いい知らせと悪い知らせがあるわ」


「ふむ、なら悪い知らせから頼む」


「落ち着いて聞いてちょうだい…………恐らく。 いえ、ほぼ確実に。 アンタがいう魔族は……もうこの世界にいないわ」


「な、なにを馬鹿な……! 」


「そしてこれは、いい知らせ。 魔族が消え、役目を終えたことでアンタを襲ったっていう勇者の存在も失われた」


「…………」


「今この世界には、人族の敵たる魔徒と…それに対抗する討滅士がいて。 アンタが話してくれた勇者と魔族みたいに争いあっているの」


「アンタが魔族という種族なのだとしたら、恐らくは魔族最後の生き残り…。 最後の魔王よ」


「最後の…魔王…」


「魔王さん……」


「最初から気付いているでしょうけど、ワタシはただの猫じゃないわ。 未冬と契約してこの世界と友魔界ゆうまかいを行き来している特殊な存在」


「ワタシの故郷である友魔界には、アンタがいう魔族らしき存在が伝承として残されているの…そして――」


「私たちが今いる世界には…魔王さんがいう勇者らしき存在が伝承として語られているのです…」


「ワタシとこの子…未冬は。 さっき話した人族の敵、魔徒に対抗する討滅士の見習いで。 ここは討滅士のたまご達が通う学園、新都日ノ咲学園の学生寮よ」

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