第37話 禁術 反魂召喚法 降霊騒ぎ

 晴れた日の授業中。階下の教室から或る女子の泣き叫ぶ声が聞こえ、たちまち大騒動となって学校中の授業が中断するまでの事態に発展した日があった。


 何事かと教師達が女子の泣き叫ぶ教室へと集まり、野次馬の生徒達もその教室の周りへ群れをなして集まってしまったのである。


 騒ぎの中、その教室から程遠い廊下のほうにまで泣き叫ぶ声が絶え間なく響いてくる。

 騒動の前線から私の元に伝わってきた話では「あの教室に幽霊がいる」との事だった。

 泣いている女子が授業中にその姿を見てしまい、この騒ぎとなったらしい。


 大騒ぎの内に授業終了のチャイムが鳴り、その子は教師達に連れられ保健室へと運ばれた。

 その教室のクラスメイトに話を聞くと、授業中に突然泣き叫び始めたという。

 酷いパニックを起こして床に崩れ、そこに幽霊がいると指差した先には何もいなかった。その子以外、誰も何も見ていないらしい。

 皆でその子を介抱したが落ち着きを見せず、顔がぐちゃぐちゃの女がいると言って泣き叫び続け、この騒動になったのだという。

 その泣き叫んでいた女子は部活を共にしていた私の後輩だった。


 後輩の友達から詳しく話を聞くと、どうやら騒動があった日に到るまで、数人のグループで様々な降霊術の実験をしていたようである。

 それを始めたきっかけは後輩が飼っていたペットが亡くなり(多分、猫だったと思う)、その魂を呼ぼうとしていたのだという。


 後日、その後輩も含むグループが研究していた降霊術、召喚法の手順を記したノートの写しを目にする事があった。

 それを見ると西洋、東洋、洋の東西を問わず、世界中のあらゆる降霊術、召喚法を試しており、最後にはそれらを融合させて儀式化していたように思われる。


 今となってはその降霊術が失敗したのか成功したのかどちらとも言えない。

 ペットの魂の召喚には失敗したが、何者かを呼び出したのには成功している。


 その後。後輩は心身の不調により、部活を辞めて学校も休みがちになり、だんだんと学校に来なくなってしまった。


 その後輩達が綴った研究ノートの写しから一部抜粋し、記録としてここに記そうと思う。



 ※もしこの儀式を執り行う場合は自己責任でお願い致します。

 当方は一切の責任を負いません。



「準備する物品」


 鏡 2枚

 薄い皿(水を満たして水鏡にする)

 白か紫色の布(テーブルクロス等)

 蝋燭1本

 髪の毛1本

 葡萄酒、果実の赤い汁、ジュース等、微量(一滴分、自分の血の代用)

 甘いお菓子(供物)

 清酒(少量。場の清めに使用)

 塩(少量。粗塩が好ましい。場の清めに使用)

 お香(沈香か乳香が好ましい)

 ノート、鉛筆、ペン等の筆記具

 ラジオ(霊魂の声が聞きたい時は用意。スピリットボックス他、安価でも、どんなものでも構わない)


 ※ハーブのヘンルーダ(ルー)の乾燥させた葉や茎、アサフェティダ(別名、「悪魔の糞」「アサフェイダ」「アギ」「ヒング」)の粉末。

 黒アザミ、黒百合、ほおずき、タンジーの花、カラフトアツモリソウ(またはアツモリソウ)の花(別名、アダムの頭)、イチジク、ザクロの実、動物の生皮、鶏の生肉等々がもし用意できれば、皿と鏡の周りに配置して供えるのも良いとされる。


「召喚方法」


 ※成功率を上げたい場合には、新月の夜に儀式を執り行う。


 1.テーブルの上に白、または紫色の布を敷き、お香を焚く。


 2.鏡2枚を向かい合わせ、合わせ鏡にする。


 3.2枚の合わせ鏡の真ん中へ水を満たした皿を設置、その傍に蝋燭を置く。


 4.皿の水へ一滴の葡萄酒、果実の赤い汁等を垂らす。


 5.髪の毛1本に吐息を吹きかけ、皿の水の中へ浸す。


 6.テーブルの上に甘いお菓子を供える。


 7.深夜零時0:00きっかりまで待機。

 ラジオがある場合、空きのある周波数帯に設定し、ホワイトノイズにしておく。


 8.午前0:00、日が変わった瞬間に蝋燭へ火を灯す。

 部屋の明かりを消灯。

 ノートを開き、手の力を完全に抜いて軽くペンや鉛筆を握る。(霊魂による自動筆記を待つため、添える程度に持つ。)


 9.水を満たした皿、水鏡に向かい「どうぞ、おいでくださいませ」

または「ここに帰っておいで」と呼びかけ、唱え続ける。


 ※または「Elohim Essaim Frugativi et appelavi(エロイム、エッサイム、フルガティウィ・エト・アッペラウィ)」(エロヒムよ、エサイムよ、我の呼び声を聞きたもう)と召喚呪文を唱え続ける。

(参加者が複数の場合、隣の人と手をつなぎ合わせる)


 ※天使召喚の成功率を高めたい場合の召喚呪文


 " EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH "

 エル・エロイム・エロホー・エロイム・セバオス

(永遠なる主、サバオトの神 )


 " ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI "

 エリロン・エイエク・アディエル・エイエク・アドナイ

( 栄光に満ちたるアドナイの神の名において )


 " JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI "

 ヤー・シャダイ・テトラグラマトン・シャダイ

( 口に出せぬ名、4文字の神の名において )


 " AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON "

 アギオス・オー・セオス・イシュイロス・アサナトス

( オ・テオス、イクトオス、アタナトスにおいて )


 " AGLA AMEN "

 アグラ・アーメン

(秘密の名、アグラの名において、アーメン )


 10.適度に唱え終えたら、供え物の甘いお菓子を差し出し「どうぞお召し上がりくださいませ」と数回唱える。


 11.室内や周囲からラップ音、ラジオから何かしらの声、音、諸々の怪奇現象が起き始めたら召喚は成功。


 12.降霊問答を開始する。

 ノートへの自動筆記、またはラジオの声に対して応答等。


「終了方法」


 1.「今宵はこれにて。おいでくださいました事、深く深く感謝致します」等と、丁重に謝礼する。(言葉は自由に。だが、心から謝礼を述べる)


 2.窓を開け、「こちらからお帰りくださいませ」と丁重に帰りを促す。


 3.気配が無くなったら窓を閉め、蝋燭の火を消した後、自分の身体に塩を振り掛け、清める。


 4.部屋の明かりを灯し、テーブルの上の物品、室内に塩を振り撒き、清める。


 5.テーブルの物品、室内にも清酒を指で振り撒いて清める。


 6.使用した物品はお香の煙にくぐらせ、清潔に、大事に保管する。


 7.お香を消して終了。(消えていたらそのまま儀式は終了)



 ※注意点※


 1.参加人数は少数が好ましい。

 その参加者も、呼び出す霊魂と縁のある人などが良いとされる。

 可能な限り一人、単独のみで儀式を執り行う。


 2.召喚した霊魂が帰らない、帰りたがらない状態に陥ってしまうのが一番の危険であり、この状態を防ぐ方法はないとされる。

 もし憑かれたと思ったら、すみやかに寺社仏閣、神社に行き、お祓いを依頼する。


 3.死者が呼び出される事とはすなわち、死の眠り、安息を妨げられ、叩き起こされるという事。

 その不快さから恨みや祟りの念を抱き、呼び起こした者に対し、災いや不慮の事故、死を招く等の報復を行う者もいるので、儀式は真剣に取り組み、からかいや面白半分な降霊儀式は断じて禁じる事。


 4.儀式は決して途中で止めない事。


 5.儀式の最中に室内から外には絶対出ない事。


 6.日の出、外が明るくなるまでには終わらせる事。(0時から4時頃までの間)

 終わらせないと居座る可能性がある。


 7.野生の動物霊、子供の浮遊霊は特に気をつける事。

 無邪気で力加減も知らない為、何をするか解らない。

 惑わされないよう、毅然と対応する事。

(不快な悪臭、腐臭、刺激臭が漂ってきたら危険な悪霊や魔の眷属の可能性がある)


 8.召喚されたのが本物のお稲荷様の場合、神々や歴史上の大人物、有名人等の名を騙り、「我こそは某~であるぞよ」など、高貴な振る舞いで現れるといわれている。


 お狐様は位を高く見せてくるのが特徴であり、決して失礼のないよう、真摯に対応する事。


 9.魔神や得体の知れない神々が召喚された場合は全てを諦める事。

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