第35話 田代峠 実録・日本のエリア51 ④

 元田代高原 謎の地形


 高橋コウの手記における禁断の田代峠奥と推測される元田代高原。


 現地は山奥の峠のなかでも開けた湿地帯であり、夏に花を咲かせる原生植物が広がっている。


 邦安氏(高橋コウ)が遭難した際、何かしらの野草を口にして幻覚症状が現れた可能性も否定できない。

 火山帯であれば有毒ガスも発生する。湿地であればメタンガスも発生するであろうし、謎の怪光現象もメタン発火説が浮上してくる。


 田代峠をグーグルアースで俯瞰すると峠の側に位置する元田代高原付近に、人工的な網目状の地形が形成されているとの発見があった。


 整然と並ぶ地下ミサイルサイロ発射口のような地形。


 古来よりこの田代峠には密輸、密入出国を封じる番所が置かれていた。

 現存する記録によればその位置は少なくとも3ヵ所を転々と移転している。


 寛永8年(1631年)、西峠下に設置、薬師森番所。

 寛文9年(1669年)東峠、槻平番所。

 貞享2年(1685年)に現在地、アケビ平番所。(現地、標柱の記録より)


 禁断の地、元田代高原のすぐ南の位置に、最初の薬師森番所があったとされる。


 そして1868年。明治元年、慶応4年4月。

 戊辰戦争の頃。奥羽鎮撫の名目により、朝敵を討てと総督府に迫られた新庄藩が庄内藩に攻撃を開始して戦端を開く。(清川口の戦い)

 その一報を受けた仙台藩は藩境に置かれた各番所の警備を強化。

 その事をこの地域では「田代お固め」と呼んだ。


 田代東峠では、五間(約9m)の長さの堤(底辺6尺高さ6尺)を20余り築き、総大将を大番士村上健之丞、副将を中新田邑主只野敬之助として、岩出山と涌谷の士卒で固め、防御体制を敷いた。~略。

 同年9月、仙台藩の降伏・終戦まで続いた。(宮城県加美町切込焼記念館、説明文より)


 網目状地形は陣取るための堤跡とも考えたが現場は湿地帯であり、やはり番所の当番や、それに付随した人がこしらえて、その昔に放棄した田畑の跡と思われる。


 アケビ平番所の付近には小学校跡の標柱が立つ。

 その標柱の裏の鬱蒼とした林の中には石柱が立っており、それにも小学校跡の文字。

 そこが元々の小学校跡と聞いたのだが現場は藪の奥の暗い林の中であり、何の広場もなく謎である。

 戦後までその近辺には集落が存在したといわれる。


 その旭小学校田代分校は児童数6名(S.34)、明治34年開校、昭和40年閉校。へき地等級4級。

 田代集落跡は現在、田代キャンプ場として整備されており、分校もその一角に存在していたと思われる。

 放棄された墓地もあると耳にしていたが見つける事はできなかった。


 とあるサイトに、Googleマップを見ると田代キャンプ場から東へ800m程の付近、道沿いの森の中にクレーターみたいなのがある、との報告があった。

 それを受けて、そこへ向かった人の報告を原文のまま引用する。


「道から少しだけ藪を抜けて歩くと、妙に開けた感じで、だんだん上に向かう円状のダート。

 何だか異様な雰囲気を感じて途中で怖くなって帰ってきたけど、あれはなんだったんだろう。

 寒気というか、直感的に命の危険を感じたというか…。

 もしかして本当に何かあるのかもしれない。」


 上空から見ると、右回りの円を描くように不自然な道らしきものが見える。その円の中は樹木も少なく開けた山肌。

 位置的にも田代集落の墓地跡があってもおかしくはない場所なのだが、樹木の伐採跡のようにも見え、現地に赴かない事には真相は掴めない。


 山形側。朝日沢集落近辺(廃墟群)から移転した人の孫にあたる方が言うには「お前はおそらく戻って来れなくなるから絶対行くな」と祖母と父に聞かされた。家の近所の人達も元々は集落に住んでいたらしく、同様に峠に入るのを止められたという。その詳細な事は聞かせてもらえていないらしく、その理由は解っていない。



 宮城県加美町のほぼ中央、加美富士と呼ばれる薬萊山には姥神様が祀られている。


 船形山の権現様は姫神様であり、ボロを着て素性を隠し村々を訪ねたという民話もある。


 田代峠に現れた老婆の話のルーツなのか、姥神様が山を見張っておられるのか。


 また船形山には貪多利魔王、烈風魔王、荒獅子魔王、天龍魔王の四柱の魔王が住み、鳳舩という天駆ける船で神仏連合が戦いを挑むという縁起がある。


 宮城県側の土地には他に、姫に恋するカッパの伝説、大蛇と若い娘の悲恋物語等、異種族間の恋愛にまつわる伝承が伝わっており、現在は縁結びや恋愛の神様として祀られている。


 河童はよくグレイ型異星人に例えられるが、古代にアブダクション物語が存在していても、この土地ではおかしくはない。


 血生臭い伝承も存在し、近傍の荒沢の大滝では、雨乞いの為に猫を滝壺へ投げ入れていたとされ、その川には肉類を持っていくと祟られるとの噂もある。

 南に連なる蔵王近辺のある地域では、山が噴火した際、二歳までの女の子を火口へ放り込み、山を鎮める為の人柱にしたとの伝説から、温泉へは二歳までの女の子は連れていかないとの因習が昭和頃まで存在していた。


 白い毛で覆われた二足歩行の巨大な猿から炭焼き小屋へと逃げてくる狸の民話も伝わる。(宮城県大和町)


 1853年。ロシアの科学者リヒャルト・マーク教授がその存在を世に知らしめ、実在が囁かれてきた「異星人の大鍋」。それが埋没しているシベリア北東部ヴィリュイ川上流、ヤクート人の禁断の地、竜王が眠ると伝承される聖域「死の谷」。邦安氏(高橋コウ)も知ってか知らずか、その伝承と田代峠は似ている。


 1988年、冬。早稲田大学探検部がみみずく山へUFO調査に訪れた際、地元の猟師から聞いた言葉がある。(ワセダ三畳青春記より)

「…オレは見だごどねえげどな、友だちが見つけでな、鉄砲で撃っただ。」

 UFOを猟銃で撃った猟師がいる。いつの間にか宇宙戦争は開戦していた。


 現在も奥羽山脈やその近辺上空では未確認飛行物体が頻繁に出現し、その目撃談は地元新聞に掲載され、報道される事がある。


 旧日本帝国の秘密地下基地は地域に伝聞もなく、ただの噂であるが、もし何かがあるとするならば、みみずくの頭のように見えるみみずく山を北にピングシ(鬢櫛)林道を南下した地点、宝森、ヨイリ山、センロ沢の付近が怪しいと見ている。

 特に宝森から南西方面の山中に、白地に淡い緑色や黄色を帯びた地面がぽつぽつと見える。(Googleマップ最大拡大。赤い地面は崩落した山の地肌の可能性あり。)

 残雪を照らす陽光の光加減かもしれないが、その地点はこれからも注視したく思う。

 宝森の南には奇妙沼なる怪しい名の沼も存在している。

 古アイヌ語、蝦夷の言葉かは判明できないが、その残滓が残る地域にはまだ何か知られていない、隠された古代の歴史があると考えている。


 Googleマップ 座標

 田代峠    38.681174, 140.621820

 みみずく山  38.701472, 140.623676

 宝森     38.646732, 140.622846



 今回、薬師森番所付近を通った際、足を何かに触れられた気がした。それが一度ではなく二度三度。気のせいかもしれないが、まるで結界でもあるかのような感覚である。

 現在通れる道とは別の、徒歩でしか進めない山道が本来の田代峠だとも言われている。

 道脇に備え付けられた標柱の後ろの森の中、人の気配はするが姿が見えない事もあった。

 ただそれは熊か鹿だったのかもしれない。だが現場は、とても山奥過ぎて何がいてもおかしくはない。

 この山には何かがいる。


 現在、宮城県側の林道には表面の表示を削り取られた銀色の看板が数ヵ所に立てられ、いつでも立ち入りを封じる事が出来るゲートが設置されている。


 田代峠近傍、加美町箕ノ輪山の田代岳国有地。

 何故その場所が、福島原発事故の指定汚染廃棄物最終処分場候補地となったのか。

 人の進入を頑なに拒絶し、国は何を隠そうとしているのか…そう思う人達がいる。

 もし何かがあるとするならば、オカルト原理主義者達にそう思われてもおかしくはないのかもしれない。



 田代峠南に位置する陳ヶ森の伝承

(女流文学者、国学者の只野真葛が収集した加美町の逸話)



 ◼️沢口覚冴左衛門(只野伊賀の末弟)は鉄砲の名人といわれた侍だった。


 文化3年(1806年)9月初め。

 切込村の百姓、源吉方を宿とし、そこから3里ほど山奥の陣ヶ森へ猟に出掛けた。


 小雨の中、真夜中過ぎに森へと到着する。

 鹿をおびき寄せるためにオキ笛*を吹き鳴らすと、ケタケタと女の声がした。鹿はその声で逃げた。


 再度笛を吹くと、巨大な狒々らしき獣が眼前に現れて踊り狂った。

 朋輩への土産にと、その獣を銃で撃ち仕留める。

 だが自分も山を滑り落ちてしまったので、正八幡・摩利支天に声を出して祈願し、鉄砲だけは見つけて取り戻した。


 源吉方へと戻り、湯を沸かさせて身を浄め、神々に御礼を申し終わってから皆に一部始終を話した。


 だが、怪獣の死骸を探しに行こうというと皆は尻込みする。

 その辺りは「四日切」と言い、昔から魔の山と呼ばれ、様々な怪奇や災禍に遭う禁足、不入の山なのだという。


 こうして怪物の死骸は得られず、その後、その山に入る人もなかった。


(*オキ笛:マタギや猟人が口に含んで鳴らす秘伝の猟笛。作り方にも秘法があり、獣の他、妖魔や怪獣も呼び寄せる力があるともいわれる)


《了》

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