第34話 田代峠 実録・日本のエリア51 ③

 田代峠の山人ヤマビト


 田代峠周辺の山奥に棲む山人は確かに存在した。


 翁山から南に連なる御所山(船形山)に1940年代(昭和10年代)頃、少なくとも二人の山人が住んでおり、以前から船形山には仙人がいるとの噂が最上町にも伝わっていたようである。


 最上町出身の方が山形新聞へ寄稿した記述によると、三十年余り山籠りを続け、人間界との接触を断ち、言語も捨ててしまった男がいた。その人が山人と呼ばれていたという。

 入山当初は宮城県の魚取沼のほとりに住み、その後は御所山(船形山)の山中を転々と移り住んでいたらしい。


 もう一人は宮城県の行者の方で、山深くに籠り、羽黒派修験道の荒修行を積んでいたと伝わっている。


 昭和20年代。山形新聞に山人と遭遇したという記事が掲載される。

 御所山に入山した二人の青年が、背の高い原始人風の男と遭遇。

 着ている物、持ち物、身に付けているもの全て見慣れぬ物で、この世の人間とは思えなかったという。

 その遭遇事件に関して当時の学者が、原始人の生き残りの可能性があるとのコメントをつけてしまっていた。


 中国湖北省神農架地区の原始林地帯に棲む伝説の野人イエレンや毛公マオゴング、広島県庄原地方の比婆山山中に潜むヒバゴンなどをメインに据え、UMAスペシャル番組が放映され続けていた80年代。特撮作品、怪獣&SF映画の影響もある。

 うちの裏山にも何かいる、という感覚で、それまでの従来の山人ヤマビトの逸話と結び付けられ、尾ひれはひれを施し、身長2メートルの山人が出るとの噂が流れたのだと考えられる。


 1983年。宝森で遭遇された佐藤カツエさんはひょっとしたら本当に、人語(日本語)を忘れた新たなヤマビトもしくはその魂に出会っていた可能性が…わずかながらあるのかもしれない。


 山形県各地各々の山々には天狗伝説が存在し、八森山という霊山には一人ではなく何人もの天狗が棲んでいるという伝説がある。

 古来より山岳信仰の厚い地域であり、山に籠る行者の化身も数多く存在したに違いない。


 船形山は承久の乱で佐渡に流されたはずの順徳天皇が潜伏していたとの言い伝えがある事から、御所山と呼ばれている。


 翁山の麓には消えた村の伝説が存在する。


 この山はかつて山岳信仰の名山であり、出羽三山に対して翁山、戸沢山、大穴山を「東の三山」と称して呼ばれていた。

 尾花沢市中島近辺に明光寺村という門前町があったとされる。

 現在は跡形もなく、痕跡も見当たらないが、明光寺盛衰記という古文書に翁山の由来や顛末が記されている。


 その昔。京都東山の浪人、曽我明監がこの地に住んで狩りをして暮らしており、その庵の近くで一頭の白い鹿を見た。

 曽我は白い鹿を追い続け、山頂にまで登るとそこに寂れた庵を見つける。

 中には一人の翁が鎮座し、傍には追っていた白鹿が伏していた。

 翁は大和国春日大明神に使える者だという。

 この山に八万八千の仏が祀られている事を告げると山奥深くに姿を消した。

 曽我は翁のお告げに従い、翁山の功徳を広めて開山。

 明光寺を中心とし、宿坊を400軒も連ねた城下町にも劣らぬ花町屋の賑やかさだったと伝わる。


 だが時を経て、翁山の別当に幻術を操る者が現れると、信者に地獄の責苦や極楽浄土を見せつけ、死人に会わせてやるとたぶらかして金銭を巻き上げ始める。

 この悪の所業が諸国を巡っていた最明寺入道時頼(北条時頼)に知られ、七年後に別当は八丈島に流された。

 そして神社仏閣改めの際、公儀の記録所に記載が無い翁山三山は評議の末、参詣を千年間差し止める休山の令が出される。

 明光寺村は上意によって住む人々は全て追い払われ、家屋敷に火を放たれて門前町の全てが焼き尽くされた。

 現在は何の痕跡もなく、水田が広がっているばかり…。


 この明光寺盛衰記は近隣地域の伝聞を寄せ集めて創作されたフィクションであるという。

 山形県新庄市加室山にも同様の盛衰譚が存在する。(新庄寿氷軒見聞集)


 田代峠における高橋コウの手記も塩野レポートも、様々と虚実織り混ぜた内容に見える。


 翁山の麓の尾花沢地方では、天から舞い降りて幸運をもたらすとされる不可思議物体ケサランパサラン(テンサラバサラ、袈裟羅婆裟羅)が昔からよく目撃されて、時には捕獲されている。


 海外ではゴッサマー、エンジェル・ヘアー(天使の髪)と呼ばれ、UFOの目撃に伴って発見される粘着質の繊維状物質であり、クモの巣のような物体と言われる事が多い。またはシリシャス・コットン(珪質の綿)と称される事もある。

 流れ星の後に見つかるゼリー状の物体、スター・ゼリーと呼ばれる物もある。


 エンジェル・ヘアーが最初に発見されたのは1917年、ポルトガルのファティマなのだという。

 ファティマ第三の予言でも知られる奇跡で出現した聖母が去っていくのと同時に、空から舞い降りてきたと伝えられている。この際は「雪片のようなもの」と表現されている。


 1950年代にはフランス、イタリア、アメリカなどでも発見されるようになり、この頃からUFO目撃事件とセットの如く現れ、形状においても「クモの巣のようなもの」と表現されるようになったという。


 尾花沢を含む最上地方、奥羽山脈一帯は古来よりUFO多発地帯でもあり、その名残なのかもしれない。


《続》

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