第15話 壁の向こう側

 友人Aが自宅で遭遇した出来事。


 最近、家の天井から音が聞こえてくる

 天井裏を見てみたいからちょっと手伝ってくれないか


 Aに呼ばれてお宅へと向かうと、脚立を立てて天井に上がる準備をしていた。

 ネズミとか動物とかじゃないの?と聞くが、いや、そんなんじゃないと言う。


「さっきまで鳴ってたんだけどな…

 人が来ると鳴りやむんだ」


 天井裏につながる点検口の蓋を開け、ライトを照らしてくまなく見回した。

 雨漏りもしていなさそうな天井。動物や虫が巣くっている様子もなく、ましてや人が住み着いている痕跡も見当たらず、これといって何も異常はない。

 Aは怪訝そうに首を傾げていた。


 茶の間で休んで話をしている時、何かが聞こえた。

 これ、とAは天井を指差す。

 確かに何かが聞こえる。

 何かを落とす音。まるで小石を落とす音。

 天井裏から聞こえてくる。

 あっちで鳴ったらこっちで鳴ったり、単発で鳴ってると思うと連発で鳴ったりする。

 音は不規則に、天井裏を縦横無尽に移動しているようだった。


 再び脚立を昇り、天井裏を見回した。

 だが何もいない。

 落ちているであろう小石や物などは見つからない。

 なんだろうねこれ、とAはいう。


「でも不思議と怖くはないんだよね」


 茶の間で落ち着くと、再び天井裏で小石を落とすような音が鳴ってくる。


 これといって何も対処しようがなく、仕方がないと諦める事になり、A宅をあとにした。


 その数日後にAから連絡が入った。


「やはり変なんだこの家」


 あの後、Aは天井裏の音は気にせず、茶の間でそのまま眠ってしまったらしい。

 深夜に目覚め、飲み物を取りに行こうと立ち上がった時、ふらついて壁に手をかけた。

するとそのまま手が壁を抜けたという。右腕が壁をすり抜けて、首と上半身の一部まで壁の向こうに抜けてしまった。咄嗟に左腕で柱を掴んで倒れないように踏ん張った。

 完全に目が覚め、目を疑った。


 知らない部屋がある。


 隣は台所だったはずだが見たこともない部屋にいる。

 暗い部屋。灰色の、今にもボロボロに崩れそうな壁。黒く塗られた床板。天井からは長く白い布が何枚も何枚も垂れ下がって揺らめいている。

 その白い布で見えない部屋の奥のほうから、ものすごい数の視線を感じたらしい。

 足を踏ん張って身体を起こすと茶の間に戻れたので、すぐに隣を確認したがそこは普段の台所の風景で違いはなかった。

 天井裏を点検したあの後にそういう事があったんだという。


「一応、お清めに塩置いてみたけど…寝ぼけていたのか夢かもしれないと思ったほうがいいのかもしれない」


 Aはそう話していた。

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