第13話 命日 前編

 友人KとTと共に遭遇した出来事。


「あ、もしもし。ちょっと今から来ませんか?なんか変なんだよね…おかしな事が起きている」


 夜9時前だったと記憶している。突然、友人Tから連絡があり、家へと呼ばれた。

 そこには友人Kが遊びに来ており、今夜はTの家に泊まっていくという。


 部屋に入れてもらうと外からカシャーン、カシャーンという音が聞こえた。


「飼い猫が悪戯でもして遊んでるんだろう。でも今日は猫の姿が見えないな。」


 少し雑談した後、いったい何があったのか二人に聞いた。

 Kが遊びに来て部屋に落ち着き、夜がふけてきた時にそれが起こった。どうも時計の針が狂うらしい。壁掛け時計の針がひとりでに進んだり戻ったりしているのだという。

 見ると壁掛け時計は9時4分を指していた。

 二人で話している際、たまにふと時計を見ると針があらぬ時間を指している。それが私が来るまで何度も起きていたという。それでなんなんだろうってなって、一緒に考えてほしくて味わってほしくて私を急遽呼んだという。

 それだけではわからないので、他に何かなかったかと二人に再度聞くと二人は考えこんだ。そしてKがなにか思い出して口を開いた。

「そういえばトイレに向かう奥の廊下のほうにさ、部屋あるよね。ドアが半開きになってるとこ」

 Tが答える。

「あー、あそこは物置になってる部屋。空気の入れ換えと猫の遊び場になってるから閉めないでわざと開けてる」

「あのドアの陰からさ。あそこからなんか変な感じするんだよね。トイレ行く時にちょっと気が引けてしまう」

 ちょっとトイレに行くついでに見に行ってみようとなり、Tの部屋を出た。


 Tの部屋は離れにあり、家族である父母と妹は母屋のほうで過ごしていた。飼い猫はその家中を自由に往き来しているという。

 問題の部屋の前に着くと、なんかこの部屋から見られてる気がしたんだよとKが言った。

 部屋の室内を見ると段ボール箱が何段にも積まれ、使わない家財道具なども沢山詰め込まれていた。元々は今は亡き祖父母の部屋だったという。

 飼い猫がこの部屋に入り込んでここから見てたんでないかなと結論が出て、室内に猫がいない事を確認すると、一応、お邪魔しておりますと合掌をしてドアを閉じた。


 トイレを済ませて部屋に戻って来ると時計は10時をまわっていた。

 …あれ、おかしくないか…そう言うと二人も気づいた。

 壁掛け時計の針が狂っていた。

 ケータイの時計を見ると9時24分だった。

 壁掛け時計は10時4分を指している。

 ほんとうに狂っているね

 これさ、何回もなんだよね今日、と二人が話す。

 針を正確な時間に戻そうと壁掛け時計を外した時、この時計の電池が切れはじめてるんじゃないかとTが言った。だがバッテリーチェッカーを持ってきて電池を計測すると、まだ残量もあり異常はない。

 Tはおかしいなと呟きながら針を直し、壁掛け時計を戻した。

 ちょっと、とKが呼ぶ。

 振り向くとKが壁の一点を見据えている。

 どうしたのと聞くと、ポスターの目が動いたという。


 目が部屋の中を見回してた


 時計の針を直すところを見ていたという。

 壁にはTが好きな或る女性アーティストの大きなポスターが貼られていた。その目がゆっくりと動いていたらしい。

 まじか、と座り込んでしばらく様子を見ていた。


 ポスターの目とか写真とか、あんまり数あると良くないんだっけか

 目線が交差してたり鏡に反射したりするのもダメって聞くね

 ぬいぐるみとか人形置くのもほんとはあんまし良くないらしい


 …などと話した末、ポスターを外す事にTは決めた。

 好きなアーティストの目が動くのは感極まって嬉しいとは思うが、この状況にいたってはあまりにも不気味過ぎた。


 私達は見られていた。だがその女性アーティストに見られていたわけではない。何か訳の解らない者に観察されていた。

 そのプーさんも片付けるか、と熊のプーさんも退けてしまった。

 鏡はこの部屋にはないから大丈夫だなと室内を三人で眺めまわした。


 あ…、Tが何かを思い出して固まった。えぇ…、顎をさすり考え込む。

 ちょっと待てよ、と棚のほうへ向かう。そして何かを手に取り、立ちすくんだ。


「解ったかもしれない」


 Tはそういうと写真立てを持ってきて見せてくれた。

 その中に収めてある写真は集合写真だった。高校のクラス、同級生との写真だという。

 その中の一人を指差し、話し始めた。


「この人さ、部活でも一緒で友達だったんだけどさ。十年くらい前かな…修理してた車のボディーに押し潰されて死んだんだよね。…そういえば今日は命日だった」


 そう言うとTは写真に目を落として押し黙った。


 そうか…気づいてほしかったのかもしれないね


 私達は三人で写真立てに手を合わせた。

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