第11話 野外音楽堂
宮城県仙台市台原森林公園
野外音楽堂
杜の都仙台のなかでもホタルが観れる公園がある。
その台原森林公園では四季折々の自然が楽しめ、昼はアスレチックで家族連れや子供達が遊び、園内は森林浴やジョギングをする人々で日々賑わう。
だが、夜になると雰囲気ががらりと一変する。
不審者、変質者の出没件数も然ることながら、この森林公園では霊に追い回される話が実に多い。
樹木に囲まれているためか、朝の散歩者が首を吊ったご遺体を発見するという事も多発している。
・散策していると、こっち来い、と異様な声が脳内に直接響いてくるという噂。
・男に公園内を追いかけられたという噂。
・その男は腕が変な方向にねじくれており、ぶらぶらとさせながら走って迫ってくる。
別のバージョンでは、意味不明な呻き声をあげ、半身が崩れ落ちた男が1本足で追いかけてくるというものがある。
他に、森林の鬱蒼とした草薮の陰から笑い声が聞こえ、その藪の中を激しく草を揺らしながら高速で蠢く者が後をついてくる。意を決して木の棒で藪の中を叩いたり切り開いてもそこには何もいなかった、など。
ただ、他のスポットと違うのは、その追いかけ方がかなりしつこいのだという。1度追われ始めると森の中を執拗に追いかけ回されるらしい。
その森林公園内の奥には野外音楽堂がある。
1990年代は頻繁に使用されていたというが、騒音問題や身元不明遺体の発見、バラバラ死体が遺棄された等という噂なども重なり、たまに使用される時以外はほぼ放置され、雑草に覆われて荒れ放題となっている。
そこへ肝試しに向かった二人の男の話。
二人は森林公園内を散策しながら奥地にある野外音楽堂へと進んでいた。
鬱蒼とした森の中から何かしらの音が聞こえるも、タヌキとか何か野生動物だろうと言いつつ無視して歩いていると、目の前に公衆トイレの白い壁が見えてきた。
公衆トイレの近くから下の方へと続く階段がある。その整備されず雑草で繁った階段の先に野外音楽堂が広がっていた。
そばには外灯もなく、ライトの灯りのみで足元を照らしながら降りていく。
ふと前方へ照射した灯りの中に野外音楽堂のステージが見えた。
そのステージ上に何かがいた。
ぽつんと膝を抱えて座り込んでいる男。
なんだ?と、動揺して一瞬ライトがぶれた。すぐに灯りを正面に戻したがステージ上には何もいない。
階段を降りて野外音楽堂に近づいていく。
「さっきここに誰かいたよな」
二人はステージの真ん中へと進入した。
赤いレンガの壁の裏にはバックステージのスペースがある。
その時、男の一人が急に小便を催した。さっきのトイレまで戻ったら間に合わないから近くですますという。ライトを照らしながらすぐ近くの林に入っていった。
「上ですませておけばよかったものを」
待つ男が呟いていると林の中から嗚咽が聞こえた。
「どうした! 」
小便に行った男が慌てて戻って来る。警察を呼んだほうがいい、という。
何があった?と聞いた。
「人がいた。三、四人、全員首を吊ってる」
にわかに信じられるものではなかった。
嫌がる友人を連れ、その林の現場に行った。鬱蒼と繁る樹木が目につくだけでそのような痕跡は無い。首を吊っている人間など一人もいなかった。
もう帰る事に決め、ステージのほうへ戻って来るとライトの灯りが何かを照らした。
草で荒れ放題の観客席の片隅に人が一人ぽつんと座っている。さっきステージ上にいた膝を抱えて座り込む男がこちらを見ていた。げっそりと痩せこけた蒼白い顔。半笑いの表情でだらしなく開いた口。二人は叫びながら慌てて階段へ続く坂道を駆け上がった。
遊歩道を闇雲に逃げる最中、絶え間無く視線を感じ、すぐそばで呟き声や息づかいまで聞こえていた。
二人は走りながら背後や周囲にライトを振り回して照らすが誰も何もいない。
全力疾走で走ってきたので呼吸が上がり、思わず立ち止まって激しく息を切らした。
もうかなり道を戻ってきていた。だがまだ視線を感じる。ふらつく手で周囲の森にライトを照射するが誰もいない。
不意に頭上からぼそぼそ呟く声がして二人は上を見上げた。闇の中に蒼白い男の顔がある。
膝を抱えて座り込む男が中空に浮いたまま二人をじっと見下ろしていた。
台原森林公園の周辺ではご遺体の発見や不審な事件の報道が事実として確かにある。
その昔。数人の学生が森の中で立て続けに若い命を自ら断ち、連続自殺事件として話題になった事もあるという。
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