第9話 死者の歌声

 宮城県T市


「あれ?ここ雰囲気変わったかな?」


 女性Aはカラオケルームに入る前から何かおかしいと感じていた。


「まあ、なんか暗くなったよね」連れの友達Bが言う。


 二人はそのカラオケ屋に入店した時から、何か以前の店の雰囲気とは違う事に薄々と気づいていたという。

 一階で受付を済ませ、二階のカラオケルームに入室した。


 店内もカラオケルームも内装や模様替えをした形跡はなかった。

 気を取り直して二人は歌い始めた。友達Bが一曲歌い終えた時、ふふ、と少女の笑い声が聞こえた。聞こえたような気がした。


「え、今、笑った?」Bが聞いてきたが、笑ってないとAは応えた。廊下を通ったりする他の客の声かなと思ったという。でも、カラオケルームの中で聞こえたような気がしていた。


 ちょっとトイレに行ってくるね、とBが部屋を出ていく。

 好きなアーティストの曲を入れ、Aは歌い始めた。

 AメロからBメロに入った時、高い耳鳴りがした。Bメロの途中からだんだんとコーラスが入ってくる。機材もいじくっておらず、そんな設定にしたかな?と思った。

 サビに差し掛かった時、少女の歌声がハモってきた。

 誰かが一緒に歌っている。スピーカーから聞こえる声ではない。

 隣で何かが歌っていた。見えない少女の歌声。

 Aは驚いてマイクを投げ出し、廊下へ飛び出た。


 トイレから戻ってくるBが駆けてくる。

「変だよここ」

「やっぱりおかしいよ」、Aは泣き出していた。

 二人はいきさつを話しながら一階の待ち合いのソファーまで来て座り込んだ。


 Bがトイレの一つに入っていると、ドアの外で笑いながら歌っている少女の声が聞こえていたという。だが個室から出て辺りを見回してもトイレの室内にはB以外、誰もいなかったらしい。

 怖くなって廊下を戻っていた時、Aがカラオケルームを飛び出す姿が見えたという。


 二人は退室して店を出る事にし、受付へと向かった。

 受付スタッフが二人の様子を見て何か感づいたのか、大丈夫ですか?と気遣ってくれたという。話を聞いたスタッフは何か落ち込んだ表情で申し訳なさそうに二人に謝ると、ほんとは言いにくいけどこういう事があって、と話しはじめた。


「ここによく来られていたお客さんがいたんだけど…ちょっと前に事件に巻き込まれてしまって…」


 二人はその話を聞いて思いあたる節があった。当時、隣県で少女の放棄されたご遺体が発見された報道を耳にしていた。その亡くなられた少女は地元の出身だった。


「でも普通に遊びに来るんです。

 毎晩、遊びにきてて。あなた亡くなったんだよ、と言っても解らないみたいで…」


 怖い思いをさせて本当にごめんなさいね…


 二人は店の雰囲気が変わった理由を、そこで知ったのだという。


 その店へよく来ていた10代の少女がいた。店のスタッフとも仲が良く、そこの常連客だったという。だが、ある事件に巻き込まれて命を落とした。

 その少女を殺害した犯人はまだ捕まってはいない。


 現在、そのカラオケボックスは閉店しており、この殺人事件の犯人は全国に指名手配されている。

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