第285話 最終話

税収を増す為に王国の領土を広げることで方向性が固まり、どのような方法で領土を広げるのか綿密に作戦が練られる。


僕も手伝うとは言ったけど、初めに物資の提供をした後声が掛かることはなく、着々と準備が進められること3年、王国は帝国の領土を奪い、信仰国を取り込んだ。

この状況が続くのであれば、財政面での心配はいらないだろう。


声が掛からなかったので放置して自分の生活に集中していたらいつの間にか終わっていたわけだけど、何をしたのかは元々決めていたことなので知っている。

かなりえげつないやり方だ。


帝国が王国の領土を奪おうと画策していた証拠となるあの時の音声データを帝国の各地で流し、王国側に正義があると広めた上で帝国に改竄した約定書を見せて、脅す形で帝国の領土を奪い取った。


やられそうになったことをそのままやり返した形だ。


帝国が約定書を改竄するように皇帝の声で保存されている以上、帝国側が保管している領土の線引きがなされている原本は、例え改竄されていなくとも信用性は薄れており、王国側が用意した改竄された原本の方を正として、今までが間違っていたとして領土の線引きが改められ、帝国の領土の20パーセントは王国のものとなった。

同時に不戦条約も改めて交わされ、表向きは帝国の悪事を見抜いた王国が不当に奪われ続けていた領土を取り返しただけで帝国を許したことになり、悪どいやり方をしたはずの王国の株が上がった。


調停には信仰国が立会ったわけだけど、帝国が信仰国にもちょっかいを掛けようとしていたことを密告したことで、信仰国は帝国にとって不利益しかないこの約定に対して何も言わなかった。



帝国の領土を手に入れたルージュさんは、さっきまで協力していた信仰国を次の目標として、教会を味方に引き入れようと画策した。


教会が信仰国を優遇しているのは、セイントレラ国が神を信仰しているからという理由が大きい。


そこでルージュさんは、教会に対してセイントレラ国が信仰している神は偽物であり、真の神は現状に嘆いていると話し、教会からセイントレラ国に正しき神を信仰するよう言うように頼んだ。


もちろんそんなことを言ったところで教会の神官達は信じないが、説得材料として魔王の姿をした神の像、リカバリーワンド、死の淵から蘇ったフランちゃんの存在を利用した。


神の石像にすさまじいエネルギーが秘められていることを見抜ける人物は少なくなく、当然のように教会の中にもいる。


それだけでは神の像ではなく魔王の像になってしまうわけだけど、同じ姿をした魔王の素材があることで、魔王に姿を変えられてしまった神として説明することが出来る。

さらに、僕が作ったリカバリーワンドは神から授けられた物だと言い張り、フランちゃんは神から巫女としての役割を与えられ寵愛されているから蘇ったのだと、都合のいいように話を捏造した。


自らが石となったことで自由に動けないから、元の姿に戻るまでの間、フランちゃんを介して世界の管理を行うのだと。


今まで信仰されていた神が偽物だと僕は知っているけど、それは神様達の世界で知ったことでありルージュさんは知らないはずだ。

そう考えると、なんとも罰当たりなことをやっている。


教会という大きな後ろ盾を失ったセイントレラ国に対して、信仰する神は自由であり、新たに認知された神であるカディール様を王国は神としては信仰するが、他国にまで強制はしないとフランちゃんが宣言した。


カディールという名前は、架空の神の名前を考えていたルージュさんに僕が教えており、本当の神様の名前だとルージュさんは知らない。


カディール様を信仰しなくてもいいと宣言したわけだけど、教会がカディール様をこの世界を管理する神だと認めた時点で、セイントレラ国が生き残る為にはカディール様を信仰するしかない。

表向きだけでも乗り換えたことにしなければ、教会からの支援に頼っていた分増税することになり、民は離れていくことになるだろう。


ルージュさんはセイントレラ国に対して、カディール様を信仰するなら共に神事の準備をしないかと提案する。

提案ではあるが、実質的には強制だ。


そして、前回召喚された人がまだ残っているまま神事の準備が進められる。


飛越さんはやはり、自ら神田さんに話をすることはせず、僕の期待に応えることもなく逃走。


しかし自殺するのは怖かったようで、どうやって死ぬか考えてもたもたしているうちに神田さんに見つかった。


後から話をするという約束を破った飛越さんを神田さんは逃げないように軟禁して、無理矢理僕との話を聞き出した。


飛越さんは話してしまったことに怯え、それでも自殺するという選択はとれず、ギャンブルのようにいつ死んでもおかしくない依頼を受け続けて、命を落とした。


帰ってきてからも飛越さんが正気に戻っていないと葉月さんから聞いたけど、これが秘密を話したことで神様と敵対することになった影響なのか、過度のストレスに晒され続けた結果なのかはわからない。


そして、飛越さんから話を聞き出した神田さんがクラスメイトを殺すことが出来ずに現状となる。

神田さんならやってくれるのではと期待したけど、残念ながら神田さんは僕の期待には応えてくれなかった。


結果的に人助けになるとしても人を殺すことが出来なかったのか、それとも死んだら帰れるという話を信じることが出来なかったのか。

僕の時は実際に生き返っている田中君を見たわけだけど、聞いただけで行動に移すのは無理があったかもしれないな。


あの時全員で話を聞く選択をしていれば、僕は城への進入経路を教えるつもりだったので、今頃別の帰還方法を見つけているか、処刑されて帰れていただろうに。


「魔導具は完成したと聞いてますが、うまくいきそうですか?」

完成させた魔導具をスカルタまで運んできたマーリンさんに確認する。


「原理的には正常に作動するはずだ。ただし、実際に作動させた時に予期せぬ動きをする可能性はある」


「作動させるには大量の魔力を用意する必要があるので、それは仕方ないですね。神事が終わったらちゃんと作動したのか確認するので、その後、約束の物をルージュさんから受け取ってください」


「作動しなかったら渡さないつもりか?」

マーリンさんに睨まれる。


「作動しなくてもお渡ししますが、今渡すとそっちに夢中になって、こっちの魔導具の設置や不具合が起きた時の対応に身が入らないのではないかと思って、全てが終わってから渡すことにしました。作動しなかった場合は原因を調べてもらって、次の神事までに改良して欲しいです。その報酬は別で用意します」


「……ならいい」

あと一月くらいが待ち切れないのだろうな。


「召喚の魔術自体は今回作ってもらった魔導具で発動しますが、表向きはフランちゃんが発動したことにする予定になっているので、魔導具は隠して設置してください」

召喚の魔術を扱えるほどの術者は見つかっておらず、フランちゃんの跡を継ぐ人をどうするか頭を悩ませていた結果、思いついたのが魔導具による召喚だ。


案を出したルージュさんも無理だろうと思いながらもマーリンさんに打診したところ、意外にも良い答えが返ってきて、こうして目の前に存在している。


これでうまくいけば、龍脈から召喚を行う為の魔力を補填することも可能になるので、毎回莫大な量の捧げ物を用意する必要もなくなり、負担がかなり減ることになる。

どちらでも行けるように他国から資金を巻き上げたわけだけど、うまく魔導具が作動すれば丸々王国の利益となるだけだ。


「わかっている」


魔導具の方はマーリンさんに任せて、僕は星宮さん(※委員長)が住んでいるマンションの一室を訪ねる。


「久しぶり。仕事の方はうまくいってる?」

星宮さんは学年トップの成績を3年間取り続けたにも関わらず大学には進学せず、心理カウンセラーとなる道に進んだ。


「まあまあね」


「客を選ぶ美人カウンセラーがいるって、SNSで少し話題になってるよ。断られた人が結構酷いことを書いてたね」


「それだけ元気のある人は私のカウンセリングを受ける必要はないわよ。ほとんどお金もとってないし、受けたい人全員を相手にするほど暇じゃないわ。それで、今日は何の用なの?」


「あと少しであれから5年経つよって、覚えてるとは思うけど言いにきたんだ。後、前に呼ばれた人がこのまま戻ってくることは無さそうだから、それの相談だね。……ついでにカウンセリングもしてもらおうかな」


「私がカウンセラーになった理由を斉藤君は知ってるわよね?」


「あっちの世界から帰ってきた人の心のケアをする為でしょ?結局他の人の相手もしてることも知ってるよ」


「知ってる上で頼んでいるってことね。何を悩んでいるの?」


「高校を卒業して、立花さん達は大学生になって、僕は実質ニートになったわけだけど、フランちゃんも女王の仕事で忙しいみたいであんまり相手してくれなくなったし、暇だなって」


「暇って、ゲームでもすればいいじゃない。私はそんな悩みを聞くほど暇じゃないわよ」


「前に星宮さんが小学生の頃からトランプをやらなくなったと言ってたけど、それと同じで最近ゲームをやらなくなったんだ。全部ではないけど、ジャンルはかなり絞られてしまってね」


「FPSの日本代表に選ばれたって立花さんから聞いたばかりなんだけど……?」


「トップクラスの人とやれば楽しいかと思って大会に出たら勝ちすぎただけだよ。それと、日本代表の話はなくなった。元々辞退しようと思ってたんだけど、圧倒的に勝ちすぎたせいでチートを使用していると決めつけられて権利を取り消されたよ。まあ、銃弾を見て避けてたらチートを疑われても仕方ないけどね」


「だとしても、だったら他のやりがいでも見つけろとしか言いようがないわね。そんなどうでもいい悩みよりも、もう一つの相談の話をしてくれない?」

星宮さんから辛辣な回答が返ってくる。


「僕としては結構深刻な悩みなんだけど……本題の方に入ろうか。あの世界に送られる時、バラバラの場所に少しのお金を持たされて飛ばされるのは、わざと苦しい状態にしてどうやって対応するのか見るためだと思うんだ」


「その可能性は高いわね」


「今は15人くらいだけど、このままだとどんどん数が増えていくわけじゃない?こっちの世界の人間があっちの世界に残っていると助け合うことが出来てしまうから、あんまりよろしくないと思うんだ」


「複雑な気持ちではあるけど、斉藤君の言う通りだと思うわ」


「そこで、今残っている人達には退場してもらおうと思ってるんだ」


「またフランちゃんを手に掛けるとは言わないわよね?」


「言わないよ。あれに関しては僕も思うところがあるんだから。それに、あの方法だと向こうの世界の力を持ったままこっちに戻ってきてしまうから、一度死んでもらうしかないね。相談はここからで、あの時は敵対しないといけないとか色々と制約を付けられていたわけだけど、それは僕がぱっぱとクラスメイトを殺して回らないようにする為で、敵対すること自体には意味はないと思うんだ。実際、四葉とは敵対せずに魔物に殺させたわけだけど、特に咎められたりはしてない。だから、僕が残っている人達を手当たり次第に殺していっても問題ないと思うんだけど、実行する前に星宮さんの意見を聞きたくてね」

カディール様が関与しないという言質も以前に得ている。


「5年近く向こうで暮らしたのだから、十分素質を測る時間はあったと考えてもいいんじゃないかしら。1番の問題は召喚が長い間行われていなかったことだから、斉藤君が今残っている人を殺したとしても、また新たに呼ばれる人がいれば大きな問題と捉えられることはないと思う」


「つまり、星宮さんは僕が残っている人を殺すことに賛成と」


「言葉だけ聞くと同意出来ないけど、そういうことね。ただ、同じことがこれから召喚が行われるごとに発生するわけだけど、その度に斉藤君が殺しにいくと仮定しても、斉藤君がいなくなった後はどうするつもりなの?」


「僕みたいにこっちとあっちの世界を行き来出来る人が現れることを願うしかないね」

魔導具に召喚した者を一定期間経ったら自動で送還する機能を付けようとしているが、うまくいく様子は今のところない。

毎回魔導具を壊しても良いかもしれないけど、経費の問題と力を残したまま帰還するという問題が残る。


「そうなるわよね」


「そういうことで、星宮さんの仕事が増えると思うから、そっちはよろしくね」


「それを仕事にしたのだから構わないけど、あまりトラウマになるような殺し方はしないでね」


「善処するよ」


「でも、斉藤君がそんな大変そうなことをするなんてね。言っていることはわかるけど、以前の斉藤君ならそれでも無視してそうだし、何か心境に変化でもあった?」


「居場所は向こうの世界の知り合いが探してくれてるし、どこにいるかわからない人まで殺しにいかないからそんなに面倒なことではないよ。それに、さっきも言ったけど暇を持て余しているからね。暇潰しも兼ねて人助けをしようってだけ。そういうことで、さっそく行ってくるよ」


星宮さんからも同意を得られたところで、神田さん達を殺す為に僕はログアウトした。



※明日投稿予定の後日談で完結となります

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