第284話 会議

神田さんとの話を終えた後、いつもよりは遅れて城に行く。


今日はフランちゃんの部屋ではなく会議室に向かい、会議室では既に会議が始まっていた。


会議に参加しているのは、フランちゃんにルージュさん、レイハルトさんにマーリンさんだ。

護衛としてエドガードさんもいる。


「遅くなりましたが、マーリンさん、来ていただきありがとうございます。これが約束の剣です」

ストレージから氷結刀を取り出してマーリンさんに見せる。


「……やはり未知の素材で出来ているようだな。望みの魔導具を完成させればこの剣を報酬として渡すというのは間違いないな?」


「約束は守ります。帰る時に城の宝物庫に仕舞っておくので、何かの都合で僕が来れなくなったら、ルージュさんの判断で渡してください」


「わかりました。しかし、宝物庫への侵入はやめてください。ここで私が預かり、責任を持って保管しておきます」


「お願いします」


「おい」

マーリンさんから氷結刀を取り上げて、ルージュさんに渡す。

マーリンさんに睨まれるが、氷結刀に夢中で会議が進まなくなるから仕方ない。


「話はどこまで進んでますか?」

ルージュさんに会議がどこまで進行されたのか確認する。

飛越さんがクラスメイトを連れて来ず、ゴタゴタしていなければ約束の時間に間に合うはずだった。


「一通りの説明は終わっています。マーリン殿は三日前には到着されていて、前もって話はしていたので、今は予算の話をしていました。開発の為の出費がどのくらい掛かるのか算出していただいていたところです」


「完成すればフランちゃんの負担を減らせることになるね」


「時間は掛かりそうですが、3年以内の実用化を目指して開発してもらいます」


「結構な無茶難題をお願いしてますが、作れそうですか?」


「約束は出来ないが、術式は完成しているのだから、それを魔道具に組み込めばなんとかなるだろう。頼まれた物よりも、先程の武器を作る方が難しそうだ。しかし、装置自体はどうしても大掛かりなものになる。相応の金は用意してもらわなければならない」


「資金面の心配は必要ありません。必ず必要なものになりますので、それ相応の予算を捻出します」

ルージュさんが答える。


「人件費、材料費として少なくともこのくらいは必要だ。これに加え、先程の魔導具は私個人が受け取る物であり、カルム商会として利益も頂く。これは何事もなく完成した場合の試算だ。問題が起きれば膨れ上がる」

マーリンさんが紙に内訳を書いて、ルージュさんに見せる。

僕も横から見させてもらい、金額の大きさに驚く。


「よろしいですね?」

ルージュさんがフランちゃんに見せて最終判断をさせる。


「はい。進めてください」

フランちゃんが答えて、国家事業として魔導具開発が進められる事が決定した。



「それでは本題に入ります」

マーリンさんには退出してもらい、今日集まったメインの議題にはいる。


「神事として召喚の魔術を定期的に行うにあたり、問題がいくつか出てきました。想定の範疇はんちゅうの問題ではありますが、そのままには出来ませんので対策を行う必要があります。まずは召喚されてこの世界で生活することになった人達について、クオンさんお願いします」

引き続き議長を務めるルージュさんに説明を求められる。

元団長と呼ばないのは会議の場だからか、それとも僕が騎士だったという事実が薄れてきたからか。


「僕の耳に入っているところだと、異世界から来たと騒ぎを起こした人が1人確認出来ています。証明する物も、確認する術もないことから頭がおかしい人扱いをされただけですが、今後、似たことが続くことになりますので、いつかは隠し通すことは出来なくなると思います」

騒ぎといっても犯罪を起こしたわけではなく、急に知らない世界に連れて来られたことでパニックになって、歩いていた人達に元いた世界に帰りたい、どうしたら帰れるかと聞いて回っただけだ。


今回は大事になっていないけど、向こうの世界の物をこちらで再現したりする人もこれから出てくるだろう。

そうなった時に国としてどうするのか考えておく必要はある。


「それから、1年ほど前に召喚されてきた人の内、2人とさっき話をしてきました。一人には帰還方法を、もう一人には帰還方法をもう一人から聞き出すように言ってあります。結果がどうなるか分かりませんが、これで何人かは帰還することになるでしょう」

神田さんが飛越さんから話を聞き出して、クラスメイトの為に覚悟を決める事が出来れば、全員帰還することも叶うだろう。


「最後に、王国の城を目指すことが帰還に繋がるとヒントを撒いてあります。もしかしたら城に侵入してくる人がいるかもしれませんが、見つけた場合は特別扱いしないように。僕のように特殊な力を持っている人もいますので、甘い考えをしているとフランちゃんの首を取られるかもしれません」

城に侵入して見つかれば処刑は免れない。

結果的に帰還することになるのだから、そこでの優しさは本当に相手のためにならない。

侵入した理由も帰還方法を探る為なら、帰還後に罪に問われても大きな罰を与えられることはないだろう。


「クオンさんが手を出していること以外は想定の範囲です。フラン様の警護は万全を尽くしていますが、穴がないか確認し、必要であれば対策します。他にある者はいますか?…………いないようですので、次は財政について私から、以前にも話した通り、召喚の魔術を発動する為の捧げ物を確保し続けるには今の税収では足りません。前回のような催しは行わず、冒険者ギルドから通常の価格で素材を買い取ったとしても、目減りしていきます。幸い、クオンさんから買い取らせていただいた素材の一部は買い手が見つかった為すぐに困ることはなくなりましたが、安定して入る収入に対し支出が多い以上、遠くない未来に底をつきます。税収を増やす必要があることは明確です」

魔王の素材の一部は買い手が見つかったようだけど、変わらず厳しい状況下に置かれているようだ。


「つきましては、以前より話には上がっていた計画を実行に移すべきだと考えます。以前にクオンさんが動かれたこともありますので、まずは帝国、その次に信仰国を狙います」

遂に行動に移すことにしたようだ。


「やり方はどうするんですか?血を流すのか、それとも流さないのか」

ルージュさんに一番大事なところを確認する。


「場合によっては多くの血が流れることになる覚悟もしていますが、可能なら対話で進めます。どちらにしても、このままでは王国だけが神事を行い続ける為の負担を背負い続け、衰退し、いずれ侵略されるでしょう。そうなれば全てが終わります」

世界を存続させる為の負担を王国だけが背負っていれば、当然国家間のパワーバランスは崩れ、神事を行う王国が衰退したことを好機と捉えられ侵略され滅びれば、そのまま世界も作り変えられることになるだろう。

その未来を避ける為なら、悪の道に足を踏み入れる必要もある。


「必要なら手を貸すので言ってください」


「ありがとうございます」

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