第280話 星宮さんの置き土産

「その頼みを受けるかどうか答える前に、星宮って人のことを教えてくれる?僕に心当たりがないってことは飛越さんの同級生だと思うけど、飛越さん達がこの世界に来てから、僕はクオンとして活動してないんだよね」


「この世界に連れてこられた時にテレパシーというスキルを得ました。離れたところにいる人と話が出来るスキルです」


「念話みたいなスキルだね」


「はい。ただ、このスキルには大きな欠点があって、誰と話すか選ぶことが出来ないんです。相手が見つかって繋がったとしても、しばらく経つと話せなくなって、同じ人と繋がろうとしても他の人と繋がってしまいます」


「完全にランダムってこと?」


「全く関係のない相手ではないです。完全なランダムというよりは、僕の願いを叶えてくれる人の中からランダムで選ばれると言った方が正しいです。この世界に来てすぐの時は、商業ギルドの受付の女性に繋がりました。その繋がりから仕事を斡旋してもらい餓死を免れました」


「そう思うとそこまで悪いスキルではないのかもね。気になるから今試してもらえない?」


「このスキルは一度使うとしばらくの間使えなくなるんです。相手と繋がっていた時間が長く、遠くの相手と繋がっているほど、使えない期間は長くなっていると思ってます。星宮さんと繋がってからまだ使えるようになってません」


「結局、星宮って誰なの?」


「僕も会っていないので確かなことはわかりません。本当に星宮という名前なのかも確かではありません。そう名乗られただけです」


「男の人?女の人?」


「女の人だと思います。声と言っていいのかわかりませんが、聞き惚れてしまうようなキレイな声でした」


「狙って繋がったわけじゃないならこれ以上聞いてもわかることはないか。色々考えたいから7日後のこの時間にここでもう一度会うことにしようか。他に話すことがなければ僕はもう帰るけど……?」


「帰るというのは寝泊まりしているところにということですか?それとも日本にということですか?」


「日本の自宅だよ。今日も用があってこっちに来ていただけで、僕の住まいは日本にあるから」


「帰るなら僕も一緒に連れて行ってください。お願いします」


「それは無理だよ。僕にしか出来ない方法で帰るから。移動出来るのは僕だけ」


「そうですか」



「委員長に聞きたいことがあるんだけど」

休み明け、委員長に飛越さんのことを相談することにする。


「なにかあったの?」


「飛越って人に向こうで声を掛けられて、星宮って人にクオンを探すように言われたそうなんだよ。星宮って人に心当たりはない?」


「……本気で言ってる?それともつまらない冗談のつもり?」


「委員長が不機嫌になる理由もわからないよ。知ってないとおかしいような人なの?」


「初めましてって言わないといけないみたいね。私の名前は星宮めぐるよ」


「うん、ごめん」

委員長の名前だったか……。聞いてもピンとこないな。


「まさか知らないとは思わなかったわ」


「違うのはわかってるけど、委員長の名前は委員長で完結してたよ。委員長が星宮さんなら、飛越さんに僕を調べるように言ったのも委員長ってことだよね?その辺りを説明してもらえる?」


「話すことになった経緯は、いきなり頭の中に声が聞こえたからだから特に説明することはないわ。最初は自分のスキルによるものと思ったけど、話していて相手が召喚された高校生で、相手のスキルで会話が出来ているとわかったの。帰還方法を知っている人に辿り着いたのだから、それは飛越さんが自力で帰還方法に辿り着いたと考えていいのではないかと思って、死ねば帰れることを教えようと初めは思ったの。でも、その先のことを考えた時に斉藤君と出会わせた方がより良い結果を得られると思って、クオンについて調べるように言ったの。狙い通り出会うことになって安心しているわ」

委員長の敷いたレールの上を歩いていたようだ。


「僕に言わなかったのは、言ったら僕が飛越さんと会わないって選択をするかもしれないからかな?」


「そうね。斉藤君に確認する時間があれば良かったんだけど、私と狙って話せるわけではないそうだから。斉藤君の意思を聞いて会う気がないとわかっていたなら、死んだら帰れるとだけ話していたと思う」


「それで、委員長は僕に何をして欲しいの?」


「禁書庫に入って奥から2番目、右から4番目の棚。3段目の天板に帰還方法をまとめておいた紙を隠してあるの。斉藤君の判断でそれを見つけられるようにしてあげて欲しい」


「なんでそんなものが隠してあるの?」


「あの時読んだ本に書かれている内容は難しくて、見つけられたとしても読み解くのに時間が掛かり過ぎる。だから、斉藤君が私を元の世界に帰すと言った時に、次に呼ばれる人が見つけたらいいなと隠しておいたの」


「内容は?」


「召喚者が死ねば帰れることは除いて、あの時に言ったこと全部よ。神の選定をしていることも書いてある。神の選定としてまずい事をしてないなら、ちゃんと紙は残ってると思うから、確認してほしい」

世界の存続の可否を決定付けるようなら、そもそも委員長が書くことが出来なくされていたか、隠した後に存在を消されているだろう。


「その紙が残っているとして、委員長は帰還方法を伝えてしまうことを良しとしているってこと?」


「飛越さんは自分の力で私のところに辿り着いた。それで教えないのはただの意地悪じゃないかしら?そう思いはしたけど念の為、神の選定に協力する為に斉藤君を探させた。もう十分だと私は思うわ」


「確かに委員長がヒントを与えたとしても、僕をクオンとして見つけたのは飛越さんの成果だから、これで行動することを恐れて知らぬふりをするのは違う気もするね」


「私は最終判断を斉藤君に投げてしまったのだから、斉藤君が見捨てる判断をしても何も言わないわ。あの時、すぐに助けるという判断をしなかったのも私だから」


「間違った判断じゃないと思うけど、とりあえず学校が終わったら禁書庫に行って確認してくるよ。その後のことは結果を見て考えることにする」

消えていたとして、もう一度委員長に書いて貰えば僕が渡しに行けるけど、それはやめておいた方がいいだろうな。



放課後、いつものように城に侵入した僕は、フランちゃんのところに行き、エドガードさんの姿を借りてフランちゃんと一緒に禁書庫に入る。


禁書庫の見張りをしている兵士は以前と変わっておらず、気配察知のスキルを習得している人だ。

時間を止めて侵入するよりもこの方が確実なので、フランちゃんに協力してもらった。


さて、委員長の言っていた棚は……これか。

委員長から聞いた棚には、言っていた通りの場所に紙が貼り付けられていた。

内容は日本語で書かれており、こっちの世界の人が見つけたとしても大丈夫なように配慮がされている。


文字が消えたりもしていないし飛越さんに渡しても問題無さそうだけど、もう一手間やって確実性を高めておこうかな。

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