第281話 選択させる

親と立花さんにしばらくの間留守にするから学校をサボると伝えてから、ゲルレイ様に増殖してもらい何度も使えるようにした神の血を飲んで神の世界へと旅立つ。


あれだけ学校をサボり続けていたのに、しばらく真面目に通っていただけで、親からサボる理由を聞かれ、心配されたのは不思議でならない。


神の世界に行くとは流石に言えないので、ゲームの大会があって移動にも時間が掛かると嘘をついた。


あの時とは違い、最高神様が出迎えてくれるということもなかったので、とりあえず挨拶も兼ねてゲルレイ様のところに行くことにする。


「お久しぶりです、ゲルレイ様」

見かけた神様に居場所を聞き、賭け事に興じているゲルレイ様を見つける。


「なんだ、もう死んだのか?」


「死んでません。以前増やしてもらったアイテムを使ってまたこっちに来ただけです。数日したらまた居なくなります」


「あの赤い液体か。わざわざ何をしにきたんだ?俺に会いにきたなんて言うつもりではないだろ?」


「ゲルレイ様のところには、せっかく神様の世界に来たので顔を見せに来ただけです。今日はカディール様に会いにきました。どこにいるか教えてもらえますか?それから、またアイテムの効果が切れるまで部屋を貸してください」


「それは構わないが、カディールか……。どこにいるか知ってるか?」

ゲルレイ様が掛け仲間に聞いてくれるが、皆首を横に振る。


「あいつは色々と忙しいからな。あいつの神殿は向こうに行ったところにあるが、いるかどうか……」

ゲルレイ様が指を指してカディール様の神殿の場所を教えてくれるが、神殿にはいない可能性が高いようだ。


「ありがとうございます。探してみます」



「カディール様ですか?」

ゲルレイ様に教えてもらった神殿のある方向に歩きつつ、見かけた神様に片っ端にカディール様がどこにいるか聞き、中がプラネタリウムのようになっている建物でカディール様と思われる神様を見つける。


「……君か。その節は世話になった」

カディール様が振り向きこちらに顔を向けるが、この神様はあの時の議会にはいなかったと思う。

管理している当人だからいなかったのか、それともあの議会に参加出来るだけの立場ではないのか。


「何をしていたんですか?」


「未来をみていた」


「未来が見えるんですか?」

未来が見えるのに、管理する世界を作り変えられる窮地に陥っているのか?


「確定した未来ではなく、いくつかの道が視える。その道は太い道から細い道まで様々に枝分かれしている。太い道にほど時は流れやすいが、必ずしもその道が選ばれるわけではない」


「……そうなんですね」


「君がここに来る未来も視えていたが、その道は極々細いものだった。何をしに来たのかわかっているが、私が答えられることはない。観測者が関わるとそれは大きな波紋となり、予期せぬ未来へと進むことになる。好転することもあるが、取り返しのつかないことになることも当然ある」

未来がみえるからこそ動きにくいということか。


「そうですか。残念です」

関わる気がないとわかっただけで、僕の用は達成したと言える。


分かっていて言ったのか、それともただ事実を言っただけなのかわからないが、黙認したのと変わらないだろう。



他に神の世界に用はないので、将来神になった時のために神の世界がどんなところなのか、賭博場以外のところも見てまわり、3日後、予定通り帰ってくる。



「1週間も待たせて悪かったね。とりあえずそっちの人達は退席してもらえるかな?」

飛越さん以外の人までカフェにいたので、アビスでもないおじさんの姿になって飛越さんの対面の席に座り、飛越さん以外を退出させる。


「待って欲しい。俺達も飛越と一緒に召喚された当事者だ。話し合いに参加させてもらいたい」

神田さんは退席することを拒否する。


「えっと……クオンさんなんですよね?なんで姿が以前と違うのですか?」

飛越さんに聞かれる。


「飛越さん以外の人もいるからです。そもそも、前回飛越さんの前に来た時も本当の姿ではありません。それで、なんでこちらの方々もいるんですか?」


「神田君達も帰還を望んでいるのだから、同席してもらった方がいいと思って声を掛けました」


「前回言わなかった僕も悪かったですが、僕は僕を見つけた飛越さん以外と話す予定はありませんでした。お友達には帰ってもらい1人で話をするのか、それとも全員で話をするのか決めてください。その選択によって手を貸す内容を変えます」


「……僕が1人で話を聞いて、その話を僕から神田君達に話すのもダメだということですか?」


「そこまで僕が関与する気はないです」


「どのように手を貸してくれるのか先に教えてもらうことは出来ませんか?」


「飛越さん1人と話をするなら、飛越さんの判断次第ではあるけど、飛越さんだけはすぐにでも帰れるようになる。全員で聞くなら、帰還には確実に近付く程度の手助けはする」


「……クラスメイトを見捨てて1人で帰るのかどうか選べということですか?」


「見捨てるかどうかは僕が話をした後に飛越さんがどう判断するかによるね。どちらを選んでもここにいる全員が帰還出来る道は残ると約束はしようか」


「何故飛越だけなんだ?俺達と話せない理由があるなら教えてくれ」

飛越さんが答える前に神田さんが話に割り込む。


「帰還方法を知っている僕を見つけたのは飛越さんであって、あなた達じゃない。神田さんはオンラインゲームで他のプレイヤーが宝箱を見つけた時、自分の分の宝箱が無いことを不思議に思うの?見つけたプレイヤーが神田さんに譲るかどうかは自由だけど、その決定権も中身を得る権利も神田さんにはないよね?これはそういうこと。飛越さんは僕という宝箱を見つけた。神田さん達は飛越さんから宝箱を見つけたと言われただけで、宝を得る権利を得たわけじゃない」


「ふざけるな!これはゲームじゃない。現実だ!」

神田さんが怒声を飛ばすが、カフェにいる他の客がこちらに振り向く様子はない。


神田さんは頭に血が上っているのか、その異変に気づく様子はない。

同じまとめ役でも、委員長とはだいぶ力量に差があるようだ。


「もう一つ選択肢を追加しようか。今の僕の話通りのことだけど、飛越さんでなく神田さんと2人で話をしてもいい。その場合神田さんはすぐにでも帰ることが出来るようになるけど、飛越さんは一生帰れなくなるかもしれない。この後用事もあるから、早く決めてもらっていいかな?勝手に人を呼んだことに怒って帰らないのは、僕の優しさだからね」


「飛越、俺に話をさせろ。全員必ず帰還させると約束する」

神田さんが権利を譲るように言う。

全員で話を聞くという一番無難な選択肢を取る気はないようだ。

自分が帰りたいから言っているのか、本当に全員を帰還させたいと思っているのか、それを確かめる術は僕にはない。

確かめる術はないが、以前からクラスメイトの為に動いていたのだから、神田さんが話を聞いた方が飛越さんが聞くよりも全員帰還出来る可能性は高いだろうな。

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