第278話 暗躍

「ちょっと向こうでやらないといけないことが出来たから、当分の間イン出来なくなるよ。ごめんね」

ルージュさんから帝国との現状をまとめた資料をもらい、受けることにしたので、立花さんに話をする。


「それは大丈夫だけど、危険なことをするの?」


「安全とは言わないけど、僕の手に負えないことにまで首を突っ込むつもりはないよ」


「それでも気を付けてね」


「うん、気をつけるね。そういえば、委員長が最近学校に来てないけど何か知ってる?」

最近といってもここ三日くらいだけど、委員長が休むこと自体が珍しい。


「体調を崩してるみたいだよ」


「行方不明になった高校生達のことを色々気にしてたから、無理が祟ったのかもしれないね」

ゆっくり休めていればいいけど……。



放課後、家に帰ってからログアウトした僕は、帝国領に隣接している街まで行き、ギルドで依頼を受ける。

受けた依頼は帝都まで荷物を届ける運搬依頼だ。

期間の定めがないに等しいくらいに長めにとってある代わりに報酬が少ない依頼になる。

アビスとしては何も目立つことはしていないのでそこまで気にする必要もないが、これで帝都に向かう理由が出来た。


今日は金曜日なので、日曜までは一気に移動して、そこからは日を跨がないように馬車の行き先を確認して帝都まで向かう。

こういう時に学校の存在が邪魔だ。


だけど、一度異世界の用事で休むと、また以前のようにズルズルと休み続ける気がするので、余程のことがない限りは学校を優先する。

そう決めた。



ファストトラベルで選べる地点を増やしながら進むこと半月、特に変わったことも起きないまま帝都に到着する。

帝都に入るところに検問があり、他の人に比べて僕を調べる時間が長かった気がするけど、王国から来たからだろうか。

平時でも他国の人間を念入りに調べるだろうが、きな臭さは増す。


とりあえずは依頼を達成する為に冒険者ギルドに向かい、依頼の品を渡した後、ついでに貼り出されている依頼も確認しておく。



時間の制限がない週末までは帝都の観光をしながら待ち、帝都の城に向かう。


普通に入れないのはわかっているので、初めから帝国兵の姿で通らせてもらうことにする。


「待て、所属と名前、それから許可証を忘れている」

素通りさせてもらえないかなと思ったけど、案の定止められる。


「第4部隊所属、テイラー」

姿を借りている男の名前を言って、許可証を見せる。


「通れ」

危ない。前もって準備しておいてよかった。

しかし、テイラーという人物がこのタイミングで通ってもおかしくない状況でよかった。


この兵士がここを通った全ての人間がどこにいるのか把握しているとは思わないが、直近でテイラーが通っていれば気付かれたかもしれない。


僕がテイラーを確認したのは昨日の夜であり、城から出て来たから城の出入りを許されている兵士だとわかった。

許可証を盗み、委員長に紙をもらってプリンターでコピーして、バレないうちに返しておいた。

カラーコピーは偉大だ。コピー機の存在を知らない人が気付ける程の違いはない。


鑑定だけではわからない所属まで聞かれたことには驚いたけど、所属は肩の部分が部隊ごとに分けられているので問題なかった。


城の中を探索する為には誰かの姿は借りなければならない訳だけど、次からは時間を止めて見張りは突破することにしよう。



城に入った僕は、とりあえずマップを完成させる為に城の中をうろうろすることにする。


「テイラー、こんなところで何をしている?今日は非番のはずだろう?」

やばい。テイラーを知っている人に声を掛けられた。


「テイラーがいた気がしたのだが……疲れが溜まっているようだな」

話せば知り合いにはバレてしまう可能性が高いので、時間を止めて隠れてやり過ごす。


テイラーの知り合いらしい兵士の男は目を擦り、独り言を呟いた後去っていく。

幻覚でも見たと思ってくれたようだ。



ヒヤヒヤしながらもマップを完成させるが、王国の城にあったような怪しい隠し部屋は見つけられなかった。


一応城の外に通じる隠し通路はあったので通ってみたけど、挟まれないように何本かに道が別れているだけで、道以外の何かがあるわけではなかった。

ただの抜け道だ。



マップは完成したので、次は情報を集めることにする。


大っぴらに王国を攻める準備をしているはずはないので、重役だけが参加する会議にでも忍び込みたいが、誰かになりすますにも、その誰かに気付かれずに入れ替わるのは難しいので、日本の物を持ち込めるようになった利点を活用することにして、別の計画を進める為に魔法都市に行ってから帰ることにする。



「ねえ、授業中に何を聞いてたの?」

平日はちゃんと学校に通い、一時限目が終わった後の休み時間に委員長に聞かれる。


「ちょっと耳貸して」

あまり大きな声で言うと違う誤解を与えそうなので、委員長に近付いてもらい小声で話すことにする。


「帝国に行ってたんだけど、会議室に仕掛けた盗聴器の音声を確認してたんだ」


「……2つ言っていい?」


「なんだか嫌な気がするけど……」


「あんなに面倒なことには関わりたくないって口癖のように言っているのに、帝国まで行ってたの?」


「フランちゃんに頼まれたのもあるけど、一回行っておけば、いつでも行けるようになるからちょうどいいかなって。実は、夏休みに北海道と沖縄に行って、ファストトラベルの地点を増やそうと思ってるんだ。いつでも旅行に行けるって便利だよね」

流石に町ごとにというわけにはいかないけど、県庁所在地や有名な観光地など、大きい街や都市は移動地点として登録されていた。

一度行ってしまえば、海外にも一瞬で行けそうだ。


「……行けるのは斉藤君だけよね?」


「そうだね。家族も連れて行ければいいんだけど、仕方ないね」


「私は立花さんのことを言ったつもりだったんだけど……。本気で言っているのか、誤魔化したいのかわからないわ」


「確かに……。高校生の男女2人がそこまでの遠出をするって考えがなかったよ。立花さんと行く時があるなら大人しく飛行機に乗ることにするよ」


「本気で言ってたのね。もう一つだけど、イヤホンを付けてたのは先生も気付いてたわよ。さっきの先生は授業を聞くつもりがない生徒は置いていくつもりみたいだから何も言わなかったけど、もっとちゃんと隠さないと怒られるわよ。没収されて聞かれでもしたらマズいでしょ?」

先生には何を言っているのか聞いてもわからないだろうけど、異世界の言語を聞かれるというだけで大きなリスクを負うことになる。


「そうなんだ。教えてくれてありがとう。でも、没収されそうになったらミュージックプレイヤーとすり替えるから、その心配はいらないよ」

時間を止めればすり替えるのは簡単だ。

実際に授業を聞いていないので、怒られるのは受け入れるしかない。


「何か収穫はあったの?」


「帝国は王国の領土を狙っているようだね。武力戦争をする気はないみたいだけど、計画では王国の領土の20パーセントを事実的に帝国の領土にしようと、昔に交わした約定を改ざんするつもりみたい。元々帝国の領土だったのに不当に奪われ続けているってことにするようだね」


「どこの世界もやっていることは同じね。それを聞いた斉藤君は何かするの?」


「まあ、僕はフランちゃんの味方だからね。この音声が無かったら、王国と帝国、どっちが正しいかなんて僕には判断がつかないけど、フランちゃんが困ってるから手伝うってスタンスの方が気持ち的に楽でしょ?向こうの世界の住人でもない僕には、何かあった時の責任なんてとれないし」


「斉藤君は罪を償う方法があっていいわね。それで、結局何をするの?」

委員長には当然のように、僕がまだ向こうの世界に行く理由がバレているようだ。


「改ざんされる前に原本を盗んで、寝ている皇帝の顔にでも貼っておこうかなって。情報は漏れてるぞっていう意味にもなるし、いつでも殺すことが出来ると思わせることも出来るでしょ?」


「……悪趣味だけど効果的ね」

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