第277話 女王の憂い

「お兄さんに聞きたいことがあります」

先程のフランちゃんの気遣いには答えず、パフェの容器を回収していると、フランちゃんに真面目な顔で言われる。


僕の自己満足の為にもう会いに来るなとでも言いたいのだろうか。


「なに?」


「お兄さんは2つの世界を行き来出来るのですよね?昨年召喚した方々は帰還出来たのですか?」

僕を拒否する言葉でなくて安心する。


「帰ってきている人はいるよ」


「全員ではないんですね」


「そうだね。でも、委員長の考えで少しでも早く帰って来れるように策は講じているから、そんなに心配しなくてもいいよ」


「本当に帰ることが出来るのですか?」


「未来のことは僕にはわからない、と言いたいところだけど、委員長が色々と手を出したいみたいだから、なんとかなるんじゃないかな。さっきも召喚の魔術について書かれている本が保管されているここを目指せるようにヒントを散りばめてきたところだよ」

一定期間が経つと自動的にリタイア扱いになったりしない限り全員が帰還することは難しいだろうけど、委員長の行動によって帰って来られる人が出て来ることにはなるだろう。

今クラスメイトを集めている彼が全員集め、帰還方法に気付けたなら全員帰れる可能性もなくはない。


「私に気を使わず、正直に答えてください」


「……まあ、全員は無理だろうね。半分以上帰ってこればいいところじゃないかな」


「私が死ななくても帰還出来るという話は嘘だったんですか?」


「別に嘘は言ってないよ。既に何人かは帰ってるからね。召喚者のフランちゃんが死ねば全員帰れるだろうけど、帰還の為の条件を満たしても、条件を満たした本人しか帰れない方法も含まれているってだけ。確認は出来てないけど、フランちゃんが死ぬ以外にも一気に全員帰還出来る方法もあるよ」


「召喚の目的を果たした場合ということですか?」


「……そうだね。委員長がフランちゃんに話したとは思えないし、ルージュさんに聞いたの?」


「教えてくれませんでしたので、自分で調べました」

女王として覚えなければならないことも多いだろうに……。


「それなら誤魔化せないだろうから、正直に僕の考えを言わせてもらうと、その方法で帰還することは無理だよ。だって、フランちゃんは僕から神の意思を聞いて召喚しているだけであって、召喚の本当の目的を知らないのだから。この国のために必要なことだということは分かってくれてると思うけど、召喚を頼んだ僕でも何をすれば目的を果たしたことになるのかわからないかな」


「……そうですよね。わかっていました」


「フランちゃんを騙すような言い方をしたのは悪かったけど、女王としてこの国を守る為には、帰還出来ないとわかっていても召喚するしかなかったと思うよ」


「私がわざわざつらい思いをしなくても、と思って言わないでくれたのはわかっています。きっと召喚をしなければ酷いことが起きるのでしょう。多くの民を守る為に、犠牲を出す決断をすることも王の責務だと理解しています。理解してますが、心が痛むんです」

子供の成長は早いなと親のようなことを思う。


「より多くの人を救う為の必要な行為だと自分を正当化するしかないよ。僕も委員長を帰還させる為だと、自分を正当化してフランちゃんを殺したけど、心が痛まないわけじゃない。それはフランちゃんが許してくれても消えることではなかったんだ。さっきは答えなかったけど、ちょくちょくお土産を持ってくるのは罪滅ぼしがしたいという僕のわがままなんだ。だから、僕の自己満足の為にフランちゃんは甘やかされ続けてね」


「……わかりました。お兄さんに大事なお願いがあります」

苦笑いをしながらフランちゃんは返事をして、真剣な目でこちらを見る。


「殺してほしいっていう頼みなら断るけど、他の頼みならなんでも聞くつもりだから遠慮せずに言って」


「……なんでですか?確かに人を殺すということは辛いことだと思います。でも、お兄さんなら生きることを終わらせずに、殺すことが出来ますよね?」

やっぱりお願いというのはそれか……。


「理由はいくつかあるけど、一番は僕が部外者だからかな。前回、僕は当事者だったけど、僕はもう関わり過ぎないほうがいいと思うんだ。フランちゃんには詳しいことを話せないから何を言っているのかわからないと思うけど、僕が関わりすぎると神様から反感を買うかもしれない」

神事を行う経緯を詳しく知らないフランちゃんは、少しでも早く元の世界に帰してあげたいと思うかもしれないけど、神の選定を行っていると知っている僕からすると、いつ神が満足するのかわからないのだから、各人がアピールし終えるまでは、帰還せずに頑張ってほしい。


「……他の理由を聞いてもいいですか?」


「僕が協力したとして、僕が死んだ後はどうするつもりなの?フランちゃんよりも僕の方が長生きしたとしたら、フランちゃんは悩みから解放されるかもしれないけど、神事の役目を引き継いだ人は苦しむことになる。フランちゃんが召喚された人の為に言っているのはわかるけど、根本的な解決にならないよ。だから、フランちゃん自身が死ぬことを望んで、僕の心が痛まない状況を作ってくれたとしても、僕はもうフランちゃんを殺すつもりはないから」

フランちゃんは優しいから、僕が以前にフランちゃんを殺したことも気にして言ってくれているのかもしれないけど、ここでその好意に甘えるわけにはいかない。


「わかりました」

フランちゃんは俯き、仕方なくといった様子で返事をする。


「フランちゃんがやらなければならないのは、召喚した人を帰すことではなくて、この国を良くすることだよ。いきなり知らない世界に連れてこられて喜ぶ人はほとんどいないと思う。でも、連れてこられたのがこの世界で良かったと思うかどうかは、女王であるフランちゃんの頑張りで変わるかもしれないことじゃないかな。その為のお願いなら、僕は協力するつもりだよ」


「ありがとうございます。お兄さんは自分の世界の人が連れてこられているというのに、思うところはないんですか?」


「ないよ。同じ世界の人と言っても他人であることには変わらないし、僕はフランちゃんのような人の上に立つような存在でもないからね」


「お兄さんが少し羨ましいです」


「フランちゃんが望むなら、城から連れ出してあげようか?」


「クオンさん!滅多なことを言わないでください」

ここまで黙って耳を傾けていたエドガードさんに言われる。


「僕は本気だよ。だって女王は他の人でも出来ないことはないし、召喚の魔術を発動出来る人が他に見つかれば、フランちゃんはただの子供として生きられるよね?」


「お気持ちだけで大丈夫です。お兄さんのような生き方を羨ましく思う気持ちは嘘ではありませんが、私は私の意思でこの国を良くしたいと思っています」


「そっか。嫌になったらいつでも言ってね。毎日おいしいお菓子が食べられる生活が待ってるから」


「ふふ、ありがとうございます。早速で申し訳ないのですが、一つお願いをしてもいいですか?」


「おやつなら一つまでだよ」


「違います。帝国でよくない動きが見受けられるんです。秘密裏に調査をお願い出来ませんか?実力のある方にお願いするにも、頼める程の方は帝国まで名が知られていますので難しいんです。どうしても警戒されてしまい自由に動くことが出来ません。ルージュさんがどうするべきか頭を悩ませて夜も寝られていません」


「今来ている帝国からの使者っていうのも関係あることなの?」


「はい。不甲斐ないばかりですが、国が不安定な今のうちに領土の拡大を考えているのではと疑っています」


「詳しく話を聞かないと返事は出来ないけど、帝国に行ったこともなかったからいい機会かな。時間がある時に読んでおくから、状況を紙に書いてまとめておいてくれる?」


「わかりました。ありがとうございます」


「今日はこれで帰るから、ルージュさんによろしく伝えておいてね」

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