第276話 償い

eスポーツ部に入ってから1週間、部室で立花さんとサモナーストーリーをプレイしていたら、先輩方にいちゃいちゃするなと怒られた。


あれは嫉妬だろう。


いちゃいちゃなんてしていないと思うけど、やりたいようにやらせてくれないなら、部室でやる必要もなく、部室に顔を出す理由がなくなった。


毎日参加しなくてもいいと言っていたし、気が向いた時に行けばいいだろう。



「斉藤君、少しいい?」

金曜日の昼休み、スマホでゲームをしていると委員長に話かけられる。


「大丈夫だよ」

委員長と屋上へと繋がる階段の踊り場に移動する。

屋上は常に閉鎖されており、ここに人が来ることは滅多にない。


「悪いけど、一応声が漏れないようにしておいてくれる?」


「もうしてあるよ」

ここに来る時は、向こうの世界の話をする時なので、ここに来た時点で防音のスキルは発動してある。


「ありがとう。如月さんが帰ってこれたのはいい事なんだけど、まだほとんどの人が帰ってこれてないわよね?今どんな状況なのか知っていることがあったら教えてくれない?」

委員長は帰還して1年経った今でも向こうの世界のことを気にしている。


性格的なこともあると思うけど、召喚が続けられることになっている経緯を知っているからだろう。

出来ることといえば、葉月さんのように僕達の誰かを訪ねてきた時に話を聞くくらいで、それ以外に出来ることはないのだから、忘れて自分の人生を謳歌すればいいのにと思う。


「そろそろ委員長も昔のことは忘れてもいいんじゃない?」


「私も関わっているのだから、そんな無責任なことは出来ないわよ。それに、それは今でも向こうの世界に行き来している斉藤君も同じじゃないの?」


「僕が向こうの世界に行っているのは委員長とは違う気持ちからだから、同じではないよ。まあ、委員長が知りたいなら教えるのは別にいいけど、そんなには知らないよ。知り合いから情報をもらった時に確認するくらいで、僕が積極的に探しているわけではないから」

主にレイハルトさんとサラボナさんから情報をもらっている。

騎士団長とギルドマスターという立場なので各地の情報は集まりやすく、向こうの世界の人からすると摩訶不思議なことが起きた時に、僕に伝言を残してくれている。


そのほとんどは解明しきれていない魔法やスキルによる超常現象なので、本当に僕が知っていることは少ない。


「それでも知っていることはあるのよね?私に何が出来るわけでもないけど、知っておきたいから教えて」


「冒険者をしている人が1人、酒場で仕事をしている人が2人、魔法学院に1人、後この人が委員長みたいにクラスメイトを集めていて、集まっているのが9人。知っているのはこの13人だけだよ。確認したのは結構前だから、今現在何をしているのかは知らないけどね」

前に葉月さんに送ってもらったクラス写真を委員長に見せて、背の高い男の人を指さす。


「集まって帰る方法を探しているってことよね?帰って来れそうなの?」


「すぐには難しいんじゃないかな?結局、委員長も帰還方法をいくつか見つけたけど、実現出来たものはなかったでしょ?僕がその内の1つを勝手に実行したわけだけど、その方法をやるにしても、以前に比べて警備が大分厳重になっているからね。自由にフランちゃんの部屋に行き来出来るくらいに信用を得るか、隠密行動を極めないと無理じゃないかな。まあ、フランちゃんを殺す計画を立てればレイハルトさんかルージュさんが討伐してくれるだろうから、結果的には帰れるかもしれないけどね」


「……そうよね」


「狩谷君みたいな思考に至った人もいなさそうだし、このまま寿命を向こうの世界で迎える人もいるかもね」

寿命で死んだ場合は、こっちに戻ってきてまたすぐに死ぬのだろうか……?

まあ、なんにせよその頃には向こうで生きる覚悟も出来ているだろうな。


「そうかもね。他には何か知ってることはないの?」


「委員長が知りたいと思うようなことは知らないかな。フランちゃんが最近お菓子作りにハマっているとか、そんなことを聞きたいわけじゃないでしょ?」


「向こうで知り合った人がどうしているのかも聞きたいけど、求めている答えではないわね」


「あ、前に委員長に作ってもらったお弁当はフランちゃんが美味しかったって言ってたよ。懐かしい味がするとも言ってたかな」


「渡してくれたのね。ありがとう」


「少し背が伸びて、今はこんな感じだよ」

スマホで撮影したフランちゃんを委員長に見せる。


「相変わらず可愛いわね」


「僕からも委員長に聞きたいことがあって、結構前の話だけど、狩谷君達の様子を見に行ったんだよね?」


「クラスメイトってだけではやっぱり会わせてもらえなかったわ」

田中君の時も特例として、事件に貢献するという建前の下会わせてもらっただけだし当然か。


「そうだよね。そういえば生徒会からの誘いを断ったんだって?」


「もうクラス委員でもないんだけどね」


「それでも中学で同じクラスだった人は委員長って呼んでるけどね。なんで生徒会を断ったの?」


「時間を取られるからかな。中学の時は頼まれたら受けてたけど、斉藤君を見習うことにしたわ」


「そうなんだ。僕を見習うっていうのはよくわからないけど、いいんじゃない」


「ねえ、強制するつもりもないし、斉藤君の時間を奪うつもりもないのだけれど、もう1年経ったことだし、斉藤君が帰還に手を貸してもいいんじゃないかなって思うんだけど……。私達の時は、最後の私も1年経たずに帰ってきているから、神としてふさわしいか見極める為の十分な時間はあったとは思わない?」


「委員長がそんな希望的観測的なことを言うなんて珍しいね。僕達の時も本当はもっと神様達は見定めたかったのに、1年も経たずに全員帰還してしまったのかもしれないよ。それに、僕が手を貸すって、また殺して回れってこと?」


「如月さんにやったみたいに、ヒントを与えるくらいはしてもいいんじゃないかな。そのヒントをどう使うかは、神様達もどんな人物なのか見極めるポイントにもなると思うの」


「……ヒントって?結構時間が掛かったけど、如月さんに渡した紙は隠し部屋にあった本のコピーだからね。あれだけの情報を与えられて答えに辿り着いたとしても、なんのプラスにはならないんじゃないかな。今は城の禁書庫に保管してあるから、辿り着けたなら十分な判断材料にはなりそうだけどね」


「そこまでではなくても、ちょっとだけ前に進めるくらいのヒントよ。考えてきたから、これを目に入るところに貼ってきてくれない?」

委員長から10枚程紙を渡される。

コピーしてあるだけで、全て同じだ。


「……暗号?なんて書いてあるの?」

日本語で書かれているけど、そのまま読んでも意味を成していない。


「王国の城を目指すように書いてあるわ。ルージュさんは私達が死ねば帰れることは知っているし、城にはさっき斉藤君が言っていた本も禁書庫に仕舞われている。偶然死なない限り、城に行かないことには始まらないと思うの」

委員長から答えを聞くが、この暗号をどう読み解けば城に行けとなるのかわからない。


ただ、城に行けと書かれているだけなら、本当に少し前進するくらいのヒントだろう。

暗号を解けるかどうかで実力を測ることも出来るので悪くはないと思う。


「本当に内容はそれだけ?僕が暗号を読み解けないことをいいことに、他のことを書いたりしてない?」


「書いてないわよ。暗号自体は、五十音を一つズラして読むだけの簡単なものよ。『か』は『き』と読んで、『お』は『か』と読むの。最初の一文には『きかんをのぞむもの、おうこくのしろにそのかぎあり』と書かれていると解き方が判れば読めるでしょ?」

確かに気付いてしまえばそのように読める。


続きを読んでも、やり過ぎと思えることは書かれていない。

やり過ぎというより、帰還方法はあるから諦めるなという励ましの言葉だ。

帰還を果たした者が書いたこともわかるようになっているので、確かにこれを解読すれば帰還の糸口にはなるかもしれない。


禁書庫に入れなくても、ルージュさんかレイハルトさんに会えれば、一気に帰還に近付くだろう。


「本当にだめなことをしているなら、最高神様かカディールって神様が忠告しにきそうだし、目立ち過ぎないところに貼ってくるのはいいけど、委員長がここまでする理由を教えて。この紙もわざわざ向こうの世界の紙に似たものを用意したんでしょ?」


「この世界から人を連れてくることに反対せず、討伐祭や神事の準備を手伝ったことについては自分が正しいことをしたと思っているけど、結果として向こうの世界に行ってしまった人達に対して悪いことをしたとも思ってるの」


「後悔しているってこと?」


「後悔はしてないわ。後悔はしていないけど、罪悪感は消えないわね。だから、これはただの自己満足よ」


「そっか。他に選択肢がなかったわけだし、気にしなくていいと思うけど、僕もその気持ちがわからなくはないからね。このくらいのことで委員長の気持ちが少しは楽になるなら、いつでも言って。これは家に帰ってから貼りに行ってくるよ」


「お願いね」



放課後、立花さんを家まで送った後、ログアウトして向こうの世界に行く。


委員長に頼まれた件もあるが、毎週金曜日はこっちの世界に来ると決めている。


各地の掲示板の隅に委員長が作ったヒントを隠れて貼った後、今日も城に侵入してフランちゃんのところに行く。


「元気にしてた?」


「はい。元気にしてます」


「今日はルージュさんはいないんだね」

結構な確率でルージュさんはフランちゃんの部屋で仕事をしているが、今日はその姿がない。

部屋にいるのは、騎士を辞めて、女王直属の親衛隊となったエドガードさんだけだ。


「帝国からきた使者の方と話をしています」


「フランちゃんは参加しなくていいの?」


「王の間での執務は終わってます。今はルージュさんが細かい取り決めを調整してくれているところです」


「そうなんだ。ルージュさんがいないなら、今日は豪華なやつをだしちゃおうかな。じゃん!フルーツパフェ」

ストレージから結構なボリュームのパフェを取り出す。


「前に食べたのも美味しかったですが、もっと美味しそうです」

フランちゃんが目をキラキラさせる。


「エドガードさんも一緒にどうぞ。これは口止め料ですからね。ルージュさんには内緒ですよ」


「仕方ないですね。頂きます」


「エドガードさん、夜ご飯はフランちゃんの分は少なめにするように、調理する人に言っておいてくださいね」


「わかっています。これだけでもお腹が膨れそうですから」


「ルージュさんにはこれを貰ったと言っておいてください。箱を開けて置いておきますので」

机の上にクッキーを置いて、箱を開けて数枚中身を抜いておく。


「了解しました」

エドガードさんは苦笑いをしながら答える。



「お兄さん、定期的に来てくださるのはとても嬉しいのですが、本当に私は気にしていませんので、気を使っていただかなくても大丈夫ですよ」

パフェを食べ終てから、フランちゃんに言われる。


僕が殺した人の中でフランちゃんだけは特殊であり、委員長が行方不明になった高校生に罪悪感を覚えているように、僕も後悔はしていないが、フランちゃんに対しては申し訳ないことをしてしまったと思っている。


なので、毎週お土産を持って足げなく通っているわけだけど、殺してしまったことに対する罪滅ぼしで来ているのだとフランちゃんにはバレている。


フランちゃんは本当に気にしていないと思うけど、これからも足を運ぶことになるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る