第272話 特別扱い

「昨日ニーナに会ったから手紙を渡して、返事を預かってきたよ」

翌日の昼休み、立花さんにニーナからの手紙を渡す。


「ありがとう」


「白い方の手紙は翻訳してあるけど、赤い方はニーナから僕は見ないように言われているんだ。内容は知らないけど、読むなら委員長に翻訳してもらって。委員長なら翻訳出来ると思うから」


「わかった。すぐじゃないけど、またお願いしてもいい?」


「もちろんいいよ。書いたら遠慮せずに言ってね」


「うん、ありがとう」



「随分仲がいいみたいで、親友として安心していいのかな」

僕と立花さんのやりとりを見ていたのか、立花さんに手紙を渡して自分の席に戻ったところで、神下さんが僕のところにやって来て小声で言う。


「別に手紙を渡してただけだよ。立花さんからニーナの話は聞いてるでしょ?」


「ニーナさんの話は聞いてるけど、四葉ちゃん以外から向こうの世界の人に手紙を渡してなんて言われても断るでしょ?」


「ニーナは僕もお世話になった友人だからね」


「そう言いつつも、四葉ちゃんを特別扱いしているだけだよね?斉藤君も心境に変化があって学校に来るようになったんだと思うし、四葉ちゃんに対しても少しは心が動いているんじゃないの?」


「残念だけど、神下さんが期待する心情の変化はないかな。前にも言ったけど、立花さんに不満があるわけじゃなくて、誰かを好きになるって感覚がよくわからないんだよね。曲がり角でぶつかってドキッ!?みたいな話があるけど、実際に異性と急にぶつかったとして、痛っ!ってなるだけだよね?」


「……それはそうかもしれないけど、斉藤君の感覚ってなんだか古くない?今時そんなシチュエーション、少女漫画でもないよ」


「例えばの話だよ。違う例えがいいなら、不良に絡まれているのを助けられたとしても、助かったって思うだけで、助けてくれた人を好きにはならないよね?」


「私はそんな事態に陥ったことがないからわからないけど、困っている時に颯爽と助けてくれる王子様みたいな人に憧れみたいなものはあるよ。もしかしたらドキッ!っとなるかも。それから、なんで例えが女の子目線なの?斉藤君が恋心がわからないって話だったよね?」


「男が女の子に惚れるっていうシチュエーションが浮かばなくて……。見た目が良ければそれでいいみたいな」


「それなら四葉ちゃんに斉藤君が惚れないのはおかしいね」


「見た目がいいことは認めてるよ。可愛いなと思う。でも今言ったのは一般的な男の一例であって、僕のことではないから」


「あれだけ健気に斉藤君に尽くしているんだから、惚れる要素は十分にあると思うけどね」


「僕の方に原因があるのはわかってるよ」


「桜井君、ちょっと来てくれる?」

神下さんが何故か桜井君を呼ぶ。


「何か用か?」


「桜井君は平松さんとお付き合いしてるよね?」


「ああ」

周りに隠そうともしていない桜井君は正直に答える。

実際、桜井君が答えなくても周知の事実だ。


「平松さんからアプローチがあったと思うけど、桜井君は平松さんのどこを好きになったの?」

神下さんが答えにくそうな質問をする。


「どうしてそんなことを聞くんだ?」


「斉藤君が異性を好きになる気持ちがわからないって言うから」


「桜井君の話なら前に直接聞いたから知ってるよ」

平松さんを殺そうとした一度目の時になんで桜井君まで委員長の所にいるのかと聞き、その時に話していた。


「あまり周りが引っ掻きまわすのは良くないと思うが……、斉藤は立花さんといて居心地が悪かったりするのか?」

桜井君も立花さんが僕に好意を持っていることには気付いているようだ。

こうなると、僕にその好意が伝わっていないと知らないのは立花さん本人だけなのではないだろうか……?

気付いていて、タイミングを見計らっているだけかもしれないけど。


「そんなことはないよ。居心地が悪かったらあっちの世界でも一緒に行動なんてしないし、戻って来てからも距離をとるよ」

立花さんと一緒にいるのが苦痛だったのは初めの頃だけだ。


「それが他のクラスの女子でも同じか?」


「……同じではないかな」


「その違いが斉藤が立花さんへ向けている好意だと俺は思う。その好意が友人に向けるものなのか、それとも異性として向けるものなのかは知らないけどな」


「なるほどね。参考になったよ」


「他の男に取られないうちにな」

桜井君は忠告をしてから、平松さんのところへと歩いていった。


「頑張ってね」

神下さんは僕の肩をポンと叩いてから立花さんと中貝さんのところへと歩いて行く。


なんだろう。

告白もされていないのに、答えを出さない僕が優柔不断で悪いみたいな空気になってないかな?



もやもやイベントがありつつも学校生活を送り、また週末がやってくる。


「元団長に言わなければならないことがあります」

いつも通り城に侵入してフランちゃんのところに行くと、ルージュさんに呼ばれる。


「なんですか?」

流石に城に不法侵入し過ぎだという話だろうか。


「フラン様を甘やかせ過ぎないで下さい。フラン様は大変喜ばれておりますが、小さなお体に入る量には限りがあります。元団長のことを公に出来ないこともあって、本来の食事を無理して食べているのですよ?食べないとお体の調子が悪いのかと周りが心配することになりますから」

なんともお母さんみたいな理由で叱られる。


「ルージュさんが用意したことにでもすればいいんじゃないですか?」


「元団長が持ってくるようなキラキラしたお菓子は用意出来ません。隠れて食べて頂くなら、私が用意しても元団長が用意しても変わらないことです」


「わかりました。それならこれをルージュさんに渡しておきます。氷菓子なので、凍らせておいて、フランちゃんが食事を食べてからルージュさんの判断で出してあげてください」

今日はチーズケーキを買ってきていたけど、出すのはやめてルージュさんに僕が食べようと思って買っていたアイスをいくつか渡しておくことにする。


「美味しそう……」

ルージュさんの口からボソッと漏れる。


「ルージュさんも食べていいですからね。話はそれだけですか?僕からも話があるんですけど」


「はい、なんですか?」


「貸して欲しいものがあって……」



「あ、すみません。大丈夫ですか?」

ルージュさんから国で保管しているものを借りた後、一度日本に戻って準備をしてから冒険者ギルドの外で如月さんが来るのを待ち、すれ違い様に不注意を装って足を引っ掛けて如月さんを転倒させ、あたかも心配しているかのように手を差し伸べる。


「いえ、こちらこそすみません。大丈夫です」

手を取った如月さんを立ち上がらせ、バレないように上着のポケットにメモを入れる。


如月さんはメモには気付かず、お辞儀をしてからクラスメイトの元へと駆けていく。



コンコン!


借りていた宿屋の部屋で寛いでいると、ノックの音が響く。


「空いてるよ」

入室の許可を出し、扉が開かれると、そこには如月さんがいた。

クラスメイトの2人はいない。


「……失礼します」

如月さんは怯えながら部屋に入る。


「適当に座って」


「……あの、あなたは誰ですか?さっきぶつかったのはわざとだったんですよね?なんで葵ちゃんのことを知っているんですか?」

如月さんは座らずに質問をする。


「僕はアビス。葉月さんのことを知っているのは、葉月さんに君の話を聞いたからだね。警戒しているみたいだけど、とりあえず答えを聞かせてくれるかな?お仲間と別れるのかどうか。もちろん、ここに来ることは2人には言ってないよね?」

メモには、メモのことは誰にも言わず、元の世界に帰りたいなら1人でここに来ること。

それから、葉月さんの名前を書き、仲間を置いて1人だけ帰る気があるか考えておくように書いておいた。


「話してはないです。答える前に聞いてもいいですか?」


「なに?」


「なんで私だけなんですか?竹林君と天宮さんも帰りたいと思ってます」


「その2人を帰してほしいとは頼まれていないからかな。他にも理由はあるけど、如月さんには関係ないことだから説明する気はないよ。2人もって言うならこの話は無かったことになるだけだし、僕は何も困らないから、別にクラスメイトとここに残る選択をしてもいいよ」

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