第273話 報告
「この紙に帰還する為のヒントが書いてある。クラスメイトを見捨てるなら手にとって。帰還よりも偶然再会したクラスメイトを選ぶならこの紙は燃やすよ」
死ねば帰れるのではないかと思えることが書いてある資料の一部をコピーした紙を如月さんに見せて選択させる。
「葵ちゃんはもう帰れてて、その紙を私に渡してって頼まれたってことなの?」
「これは僕があるところから貸してもらった本の一部をコピーしたものだから葉月さんは関係ないかな。僕も暇じゃないから、そろそろ決めてもらっていい?一応伝えておくと、葉月さんからは如月さん以外は無視でいいと言われているよ」
正直、僕としては本当にどちらでもいい。
「葵ちゃんは私だけでも帰ることを望んでいるということですよね?」
「まあ、そういうことだね」
「……その紙をください」
如月さんはクラスメイトと別れて帰還することを選んだ。
ここで残ることを選ばない人は神に選ばれることもないんじゃないかな。
「はい。まだ馬車があるだろうし、すぐに移動するからついて来て」
如月さんに紙を渡して、バッグを手に取る。
「移動……?どこに行くんですか?」
「この街を離れたいだけだよ。大事なことだから必ず守ってもらいたいけど、その紙は誰にも見せないように。それから、他のクラスメイトを見つけても関わらないように。もし誰かに気付かれて声を掛けられたら、何か理由を付けてすぐに離れるように。わかった?」
「私は誰とも関わったらダメってことですか?」
「クラスメイトとは関わったらだめだね。その紙にはこのゲームの根本に関わることが書かれている。如月さんは正規の方法でそれを手に入れたわけじゃないから、広めてもらうのは困るんだ。だから何があっても帰還するまでクラスメイトとは関わらないように。それが嫌なら、読む前にその紙を返してくれる?」
「ゲーム……?」
「ゲームっていうのは言葉のあやだから深い意味はないよ」
「そうですか。わかりました。誰にも話しません」
「約束を破ったら後悔することになるから、肝に銘じておいてね」
情報が広まって資質を測る前に皆帰還してしまった場合、5年と待たずにすぐに召喚したほうが良くなる。
そうなった場合、それは情報を漏らした僕と如月さんの責任であり、如月さんが普通の神経をしているなら後悔するだろう。
「わかりました」
「とりあえず馬車に乗ろうか」
「はい」
「はい、スカルタ行きのチケット」
馬車乗り場でチケットを購入して如月さんに渡す。
「ありがとうございます。いくらですか?」
「銀貨8枚だけど、持ってるの?」
持ってないと思っているけど、持っているとしたら結構上手くやれていたという証拠でもある。
こっちに来てまだ一月経ってない頃というのは、ヒールのチート具合と宿賃が要らなかったことを除くと、僕でも銀貨8枚は稼げていない。
「……持ってないです」
やっぱり持ってなかった。
「お金はまあまあ持ってるから気にしなくていいよ。僕は帰るから、後は1人で頑張ってね」
「え!?アビスさんは一緒に行かないんですか?」
「行かないよ。もう一度言っておくけど、約束はちゃんと守るようにね。あ、言い忘れてたけど、その紙は読み終わったらちゃんと燃やして処分してね」
渡した紙には死ねば帰れると直接書いてあるわけではない。
情報を組み上げていくことで死ねば帰れるとわかるだけだ。
僕が関わってはしまったけど、神様達にはこの後如月さんがどうするかで神とするか判断してもらいたい。
「わかりました。ありがとうございました」
如月さんを馬車乗り場に残して、僕は自室へと帰ってくる。
「あ、葉月さん?斉藤だけど、今大丈夫?」
葉月さんに電話をする。
「はい、大丈夫です」
「僕にやれることはやったって報告ね。帰って来れるか、帰って来れるならいつになるのか、後は如月さん次第だから、気長に待ってて」
これ以上何かをするつもりはないので、僕の仕事は済んだという報告だ。
「ありがとうございます。差し支えがなければ詳しく教えてもらえませんか?」
「葉月さんには言えない理由があって、死ねば帰れるよとは伝えてないんだけど、死ねば帰れるんじゃないかと気付くことが出来る情報を渡して来たよ。死ねば帰れるって気付いても、死ぬ勇気が出るかどうかわからないし、帰ってくるのがいつになるかは本当にわからないね」
わざわざ葉月さんには言わないが、死ぬまでの行動がこっちに戻って来た時に反映されることもあの資料には書かれていた。
こっちに戻って来てから委員長が書かれていたことに気付いて、僕も読み直してその事実に気付いたわけだけど、戻ってくる前の委員長が見つけられなかった情報だから、如月さんが見つけるのは無理かなと思っている。
ただ、もしも見つけた場合、死に方も考えないといけなくなり、さらに頭を悩ませることになるだろう。
「そうですか……」
「まあ、何もしなかったよりは早く帰って来れるだろうから、さっきも言ったけど気長にね。抱え込みすぎないように」
「あの、言えないことなら答えなくてもいいんですが、皆さんは全員帰って来てますよね?どうやって帰ってきたんですか?あの時、色々と教えてはくれたんですが、そこだけは斉藤さんのいないところで話すことは出来ないと言われてしまって……」
委員長は僕の所業を言わなかったようだ。
別に言ってもよかったんだけど……。
「少しショックな話が含まれるけど、それでもいいなら話してもいいよ」
「お願いします」
「死んだら帰れるってことを、あっちの世界に行って少し経った時に知ることになったんだ。後は想像出来るかな?僕が見つけた人を殺して回ったんだよ」
「……そうなん…ですね」
電話越しでも、葉月さんが動揺しているのがわかる。
「だから、葉月さんのクラスメイトの誰かが死ねば帰れることに気付いて、クラスメイトに伝えてまわれば全員帰って来れるかもね」
「……由美ちゃんがみんなに伝えるかもしれないってことですか?」
「いや、如月さんには情報を伝える条件として、他のクラスメイトと関わらないように言ったから、如月さんから死ねば帰れることが広まることはないよ。なんでこんな条件を付けたのかを教えるつもりはないから聞かないでね」
「そうなんですね……。わかりました」
「用件はそれだけだから」
「はい、ありがとうございました」
明日、没にした番外編を投稿します。
本編はペース変わらず3日後の12日になります。
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