第271話 発見
書庫でフランちゃんにプリンアラモードをご馳走した後、スカルタにファストトラベルする。
「ギルドマスターのサラボナさんに用があるのですが、時間をとって頂くことは出来ますか?」
冒険者ギルドにて、アビスの姿でギルマスを呼んでもらう。
「ご用件をお伺いします」
「人を探していまして、あまり大きな声で話せる内容ではないので、ギルドマスターに直接お話したいです。アビスが来たと言えば伝わると思います」
スカルタでアビスの方の冒険者ランクはDランクまで上げているので、当然サラボナさんはアビスが僕だと知っている。
「確認してまいります。そのままお待ちください」
受付嬢が戻り、許可をもらったところでギルドマスターの部屋へと入る。
「お久しぶりです。サラボナさん」
部屋に入ったところで幻影を解除して、挨拶する。
「随分と派手にやったみたいね」
「おかげさまで、お尋ね者となってしまいました。以前のように顔パスでこの部屋に入ることも出来ません」
「以前から君が勝手に侵入していただけで、顔パスを許可した覚えはないのだけれどね」
「そうでしたか?何度かは正規の手続きをとったと思いますけど……それなら、これからも今まで通りに入らせてもらいますね」
「それで、人探しだったわよね?それとも、それは口実で他に何か用でもあるのかしら?」
「如月由美という名前なんですが、この顔に見覚えはありますか?」
サラボナさんに似顔絵を見せる。
「……記憶にはないわね」
「見かけることがあれば、アビスの方の冒険者に伝言として残しておいてください。派手に動きたくないので、見かけたらで大丈夫です。お願いします」
「エアリアさん、お久しぶりです」
サラボナさんと別れた後、次はエアリアさんに会いに行く。
冒険者ギルドでエアリアさんを見つけたが、アリアドネの他のメンバーは一緒ではないようだ。
「……誰かしら?会ったことがあるような気はするのだけれど、思い出せないわ。ごめんなさい」
「この姿で会うのは初めてなので仕方ないですよ。クオンです。今はアビスと名乗ってます」
「…………クオンくんなのね。詳しくは知らないけど、懸賞金が掛けられているわよ」
僕が何をしたかまでは公になっていないみたいだ。
「訳あって女王陛下を死の淵に追いやっただけで、別に悪いことはしてません。フランちゃんからも許してもらってますが、襲った事実は消えないので、こうして姿を変えて隠れてます」
「だけって、あれだけの懸賞金が掛けられるわけね。それと、陛下と随分仲が良いみたいね」
「お兄さんと呼ばれるくらいには仲がいいですよ。今日はエアリアさんに聞きたいことと話があって」
「何かしら?」
「この女の人を探してまして、見たことはありますか?」
エアリアさんに似顔絵を見せる。
「……ないわね」
「そうですか。もし見かけたら、ブーケルを拠点にアビスという名で冒険者をしていることになっているので、ギルドに伝言をお願いします」
「わかったわ」
「もう一つの話ですが、ヨツバが元々住んでいた世界に帰りました。手紙を預かっているのでニーナに渡してください。元いた世界に帰るとこっちの世界の文字が書けなくなってしまうので、翻訳してあります」
立花さんが書いた手紙と、内容を翻訳した手紙の2通をエアリアさんに渡す。
「そう……会ってお別れが出来なくて残念ね」
「もう会うことは出来ませんが、僕を通せば手紙のやり取りは出来ると伝えておいてください。翻訳する為に僕が中を見ることにはなりますが……それでもよければと」
「すぐにこの街を離れるの?伝えるのは構わないけど、ニーナも返事を書きたいだろうから、可能なら少し待ってもらえない?」
「他に行くところもあるので、夜に待ち合わせしましょうか。時間を空けておきます」
「それなら、前に行った酒場は覚えてる?」
「覚えてますよ」
「そこで先に飲んでるから、用事が終わってからきてくれればいいわ」
「わかりました」
エアリアさんと飲む約束をした後、今度は魔法学院へと向かい学院長のマリエールさんのところに行き、如月さんを見ていないか確認する。
同じように各地を巡り、関わりがあり、信用出来る人に、時には姿を明かしてクオンとして、時には姿を隠したままアビスとして話を聞き情報を集める。
罪人になっておらず、もっと大々的に捜索が出来ればすぐに見つかりそうだけど、地道に聞いて回るだけでもこれまで行った街は多く、ファストトラベルで選択出来る地点も多い為、予想に反してすぐに如月さんは見つかった。
如月さんがいたのはアクアラスで、僕がカリュブディスを倒して、狩谷君から不意打ちをくらって返り討ちにしたところだ。
今は冒険者崩れの盗賊も討伐され、海路も陸路も問題なく通れるようになっている。
一度自室に帰って葉月さんからクラス写真を送ってもらい確認したところ、如月さんはクラスの友人2人と合流して冒険者活動をすることにしたようだ。
冒険者になっていたことですぐに見つけられたのはいいけど、クラスメイトと一緒というのは良くないな。
1人でも本当は関わりたくないのに、3人というのは流石にやりすぎだ。
とりあえず見つけはしたので、どうするかはまた考えるとしてエアリアさん達のところに行くことにする。
「クオン君……アビス君の方がいいのかな。手紙ありがとうね」
アリアドネのメンバーは全員揃っており、ニーナに手紙のお礼を言われる。
「本当はヨツバを元の世界に帰す前に会えれば良かったんだけど、色々とあって……ごめんね。姿は変えてるし、名前だけで捕まるとは思ってないからどっちでもいいよ」
立花さんはその場の空気に流されて死なせたようなものだ。
桜井君の時みたいにうまく時間を取ることも出来たはずである。
「事情があったなら仕方ないよ。それに、こうして手紙でも話が出来てうれしい」
「そう言ってもらえてよかったよ」
「手紙なんだけど、絶対にクオン君も見ることになるの?ちょっとクオン君には見られたくないことを書いたんだけど……」
ニーナは手紙の入った封筒を2枚僕に見せる。
1枚は僕に見られてもいい内容だけになっているということだろう。
「そうだね、ヨツバはこっちの世界の文字が読めなくなってるから…………いや、僕じゃなくて別の女の人を介していいならやりようはあるかな」
委員長も翻訳は出来るはずだ。
「その人からクオン君に話が漏れることはある?」
「僕に見られたくないっていう内容によるけど、よほどのことじゃなければわざわざ秘密を言いふらすような人ではないよ」
「それじゃあお願いしていい?こっちはクオン君に見られてもいい方だけど、こっちの赤い封筒は開けないでね。その女の人に頼めなかったら捨てていいから」
「わかったよ」
ニーナから白い封筒と赤い封筒を預かる。
「来てもらった用は済んだところで、スカルタで別れてから何をしていたか話してくれないか?話したくないことは話さなくていい。酒の肴として話題を提供してくれという話だ」
「いいですよ。それじゃあ騎士団長になったという話からしましょうか」
「騎士団長が決まったって聞いて、名前を見て驚いたわよ」
話してはいけないことは話さず、国王が処刑されることになったところまでを話しながら料理を口にする。
「誘ってくれてありがとうございました。もう遅いので僕はもう帰りますね」
明日は学校だ。いつまでも楽しんでいるわけにはいかない。
「こちらこそ楽しい時間になった。また時間がある時にゆっくりとな」
「もちろんです。あ、そうだ、これデザートにどうぞ。甘いお菓子です」
ストレージにストックしてあるケーキを人数分取り出してテーブルに並べてからログインして自室に帰る。
如月さんのことは来週末までに考えないとな……
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