第266話 不登校

「お待たせ。変な意味はないんだけど、なんで立花さんがいるの?」

委員長と待ち合わせをしたら立花さんも一緒に待っていたので、理由を尋ねる。


「斉藤君と2人きりで買い物するなんて、周りから見たらデートみたいじゃない?個人的に立花さんと話したいこともあったから誘っただけよ。昨日斉藤君から話を聞いたみたいに神下さんにも話を聞いたんだけど、その時に斉藤君と立花さんが同じゲームをやってるって聞いたのよ。ゲーム初心者目線での機器の使い心地も聞きたいから、立花さんの都合がよければその辺りも教えてもらおうかなって」

委員長と2人きりだと、周りの男達から僕が嫉妬の視線を浴び続けるからってことかな?

そうなると、立花さんもいると両手に花だし、状況は悪化するような気がするけど……。


「まあ、とりあえず買いに行こうか。前に立花さんと買いに行っているから、勧めるものは大体同じだけどね。委員長はどんなゲームをやりたいの?レベル差が出ちゃうけど、僕達が今やってるサモナーストーリーを一緒にやる?」


「斉藤君と連絡がつく前に立花さんにも誘われて、アカウントは作ったわ。でも、2人の邪魔をしたくないし、色々と聞くとは思うけど、基本的には別でプレイすることにするわ。たまに一緒にやる感じで」

委員長は立花さんの恋心を邪魔しないスタンスのようだ。


「それなら立花さんが買った物とほとんど同じでいいと思うよ。ただ、立花さんが買った物は結構スペックが高いやつだから、財布と相談してになるかな。そういえば、聞きたいことをリストにするって言ってたけど、あれはどうなったの?」


「神下さんは斉藤君と違ってちゃんと時間を作ってくれたから、必要なくなったわ」


「神下さんにはお礼を言っておかないとね」



「斉藤君は卒業したら投資家を名乗るって言ってたよね?それは斉藤君の自由だけど、学校を休んでまでやりたかったゲームは辞めたわけだし、今学校に来ないのはただのサボりよ。今までもサボりではあるけど、今はただ学校に来ないだけよね?登校したら?」

家電量販店に向かっている途中で、委員長に核心をついたことを言われる。


「……確かに委員長の言う通りではあるね。でも、学校に行ったところで何か意味はあるのかな?社会人になってからお金を稼ぐ必要はなく、死後のレールまで敷かれたのに。それに、今は自由登校みたいなものだよ」


「本当に心に傷を負った人以外はみんな登校しているわよ。それに、斉藤君は世間からは行方不明になったとは思われていないのだから、その免罪符は使えないわ」


「……クラスメイトがいなくなって心に傷を負ったんだよ」


「そう思ってくれる人は果たして何人いるのかしらね。まあ、学校に来るかどうかは斉藤君の意思次第ではあるけど、仕事をしてお金を稼ぐ以外にも学校に行く理由はあると私は思うから、通った方がいいとは言っておくわね。出来れば高校にもね」


「……委員長は学校の勉強に意味があると本気で思っているの?簡単な計算も出来ないと困るとは思うけど、調べればなんでも出てくる時代に、知識を頭に入れる意味があるとは僕には思えないね」


「別に勉強しろなんて言ってないわよ」


「学校で友達を作ってコミニケーション能力を高めろとでも言いたいわけ?」


「それも大事だとは思うけど、もっと根本的なことよ。中卒、しかも中学にもまともに通っていない。イジメにあっていたからでもなく、理由はゲームをする為。斉藤君が思っている以上に、世間の目は厳しいわよ。私は学歴ではなくその人個人を見ようとは思うけど、残念なことに大半の人は斉藤君のことをよく見もせずに離れて行くわ。それは悲しいとは思わない?」


「別にそんな表面的なことしか見れない人が離れていこうとなんとも思わないけど」

なんで委員長はこんなことを言うのだろうか。

言っている委員長自身も、そんな人に嫌われようと何も思わないと思うんだけどなぁ。


「斉藤君の近くにいる人もそういう目で見られることになるのよ?将来好きな人が出来た時、相手の親に挨拶しに行くよね?中卒で引きこもってゲームばかりしていたけど、お金はあるから安心して娘さんをくださいとでも言うつもり?今はゲームしか愛せないのかもしれないけど、将来誰かを好きになるかもしれないのよ」


「………………ああ、そういうことね。学校に行くか考えてみることにするよ。毎日通わなくてもいいだろうし、高校に進学するかも将来のことをもう一度考える」

だから立花さんがいたのかと、今頃になって気付く。

恋人どうこうの前に、僕と関わっていることで、立花さんが周りからよく思われていないのだろう。


僕は気にしなくても、立花さんはそれで苦しんでいると。


「学校で会えることを楽しみにしているわ。お母さんみたいな話をしちゃってごめんね。ゲームの話に戻すけど、お金は少し多めに下ろしてきたけど、立花さんが買った物と同じのを買ったらいくらくらい必要なの?足りるかな?」


「いや、僕のために言ってくれたんだしありがとう。立花さんが買ったのはいくらくらいだったかな……。全部で50万くらいだったかな?ゲーミングpcも買ったから結構したよね?」

立花さんがお金持ちになってたこともあって、機能重視で選んだ結果だ。


「そのくらいだったかな。帰ってからお母さんに無駄遣いだって怒られたけど、高かっただけあって操作性はすごくいいよ」


「そんなにするんだ……。もっと下ろしてこないと全然足りないね」


「アカウントを作ったってことは、委員長はpcは持ってるんだよね?」


「持ってるわよ」


「それなら、ゲームを快適に始めるだけなら5万もしないよ。VR機器が安いものだと画質が悪くて気持ち悪くなる可能性があるからケチらないほうがいいだけで、後は正直委員長の好みだよ。ゲーミングチェアが数万するけど、別に普通の椅子を使ったところで大きな問題はないよ」


「それでも結構するものなのね」


「委員長には色々とお世話になったし僕が払うよ。僕が持っているお金のほとんどは魔王の素材を国に売ったものだし、あそこにいた委員長が貰うのもおかしな話じゃないからね」

委員長の本当の用件はさっきの話で、ゲームを始めるというのは僕を呼び出す口実だろう。


神下さんと話をして横槍を入れることにしたということだろうか。


本当にゲームをするのか知らないけど、立花さんと同じものを買っても、減ったかどうか分からないほどにお金はあるので全然お金を出すのは構わない。


「気持ちだけ受け取っておくわ」

全然構わなかったけど、委員長には断られる。



家電量販店で、僕は必要だったのかというほどに委員長は的確に買い物を終えた。


買ったものを見る限り、本当にゲームはやるようだ。


僕はゲーミングチェアを買い、バレないようにストレージに仕舞って持って帰る。


「買い物に付き合ってくれてありがとう。どこかお店に入って、ニュースの話含めて、これからのことを話しましょう」


「そうだね。それじゃあ……ファミレスよりは個室の方がいいかな。あそこの少し高そうな焼肉屋にでも入ろうか」

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