第265話 行方不明

ケーキをみんなで食べた後、ルージュさんに魔物の素材を適当に買い取ってもらってからログインして元の世界に帰る。


向こうの世界のお金は全て円に両替されてしまったけど、これである程度のものはまた、価格を気にせずに買うことが出来る。


委員長からメールが届いていたので返信したところでチャイムが鳴る。


母さんは町内会の人達と遠出をすると言っており、父さんは仕事中で、家には僕しかいないので、仕方なく対応をする。


「久しぶりだね」

玄関のドアを開けると、そこにはいつもの刑事がいた。


本当の刑事かどうかも怪しい、神と繋がっている刑事だ。


「久しぶりです。何かご用ですか?」


「私に用はないのだけれど、君のところに行くようにさっき神託を受けてね。君が私に用でもあるのかと思っていたのだけれど、違うなら何故君のところに行くように神が言ったのか私にもわからないな」


「刑事さんは神の遣いが本職ではなく、刑事が本職なんですよね?神と話すことがあること以外は普通の刑事をやっていると」


「前に説明した通り、私は神に協力することでズルをしている刑事だ。本職は何かと聞かれれば刑事と答えはする」


「一つ聞かせて欲しいのですが、僕のクラスメイト達が行方不明になった時、他の刑事さん達は事件を解決しようとしていましたか?」


「当然、死力を尽くして事件を解決させるために動いていた」

なるほど。結局この刑事も枠の中の人間だったということか。

神と協力関係にあるだけで、この刑事が特別な存在というわけではない。


この返答で何を答えるか決まった。


「刑事さんの管轄かはわかりませんが、明日の昼過ぎくらいにまた行方不明者が多数出るかもしれません。以前と同様に行方不明者が犯罪者として見つかることもあるかもしれませんが、僕は当然犯人ではありませんし、僕に聞いてもいなくなった人が帰ってくることはありません。他を当たるようにしてください。神様が何故ここに来させたのかはわかりませんが、僕の方での心当たりはこれだけです」


「君は事件の真相を知っていると、そういうことかな?」


「知っていますが教えるつもりはありません。もう一つ話をするなら、刑事さんがより多くの犯罪者を捕まえたいと思っているなら、これから起こるであろう同様の行方不明事件に関わるのはやめた方がいいです。頑張ったところで望む結果は得られません。他の事件に時間を割いた方が利口です」


「忠告は受け取らせてもらおう。確認だけど、明日起こるという行方不明の事件を未然に防ぐことは出来ないのかな?」


「僕の知る限りでは無理ですね。どうしても止めたいなら僕ではなくて、神託を降ろしたという神に言った方がいいです」


「情報感謝する」

刑事さんは納得のいかない顔をして帰っていった。


わざわざ神が僕のところに来させたのだから何か意味があったのかもしれないけど、僕に出来た対応はあのくらいだろう。



翌日、委員長からのよくわからないメールは一旦無視して、神事が行われる王都中央広場へと移動する。


広場には関係者以外入れないようになっており、遠距離からの襲撃にも対応出来るように見張りが立てられ、フランちゃんの周りには常に護衛がついている。


「お久しぶりです。アリオスさんも来ていたんですね」

厳重すぎる警備に騎士の姿を真似するだけでは広場の中に通らせてもらえなさそうだったので、昨日と同様に時間を止めて侵入してフランちゃんに近付くと、アリオスさんがいたので声を掛ける。


「……クオンか。一瞬誰かわからなかった」

幻影を被せて実際に存在する騎士になりすましているのに、わからなかったのは一瞬か。さすがだな。


「変装しないと人前に出られない身分になりましたので、この姿で失礼します」


「君が女王陛下を手に掛けたと聞いた時は、あまりのことに理解するまで時間が掛かった」


「昨日王城に侵入してフランちゃんとは和解してます。手配はそのままですけどね」


「捕まえなければならなくなるようなことを言わないでもらえるか?」


「気を付けます。でも、僕が簡単に侵入出来るということは、この後どこかに召喚されるであろう人達も似たことが出来る可能性もあるので、もっと警備は厳重にした方がいいですよ。今も僕を捕えようとしている人は1人もいません」


「確かにその通りだな。忠告をする為にこの警備の中に忍び込んだのか?」


「違いますよ。フランちゃんの晴れ舞台を特等席で見に来ただけです」


「君らしいな。差し支えなければ聞きたいのだが、女王陛下には帰還方法は他にもあると言ったそうだが、あのような暴挙に出たということは、今もこうしてここにいる君が特殊なだけで、君以外の者が帰還するのは困難を極めるのではないか?」

アリオスさんに核心の部分を聞かれる。


「ルージュさんも気付いていると思いますが、フランちゃんには秘密にしてくださいね。結局やることはかわらず、重しになるだけなので」


「やはりそうか。承知した。女王陛下自らがお気付きになるまではその咎を私も背負うことにしよう」


「お願いします」


「君はこの世界に残ったわけだが、これからどうするか何か考えてはいるのか?」


「アリオスさんには以前お話ししたかもしれませんが、僕は前からこの世界と元の生まれた世界を行き来出来ます。気が向いた時に顔を出すくらいで、大体は元の世界で時間を過ごすと思います」


「そうか。今日は王都にいるが、私は大体ザングにいる。用がなくてもたまには顔を見せに来てくれると嬉しく思う」


「わかりました。僕に用がある時は冒険者ギルドに伝言をお願いします。ブーケルを拠点として、アビスという偽名で登録してあります。ランクはずっとDのままになると思います」

あらかじめ登録して、少しだけ活動しておいた架空の冒険者の情報をアリオスさんに伝える。


「了解した」


「こっちの世界に来た時に確認するので返事は遅くなります。全然返事がなくても許してください。それじゃあ失礼しますね」


アリオスさんと別れ、神事が始まるまで時間を潰し、フランちゃんの晴れ舞台を見守った後、大仕事をやりきったフランちゃんに差し入れをしてから元の世界に戻る。


テレビを点けると、東海の高校で1クラス全員が行方不明になったというニュースが緊急速報として流れていた。


僕達がいなくなったこととの関係性が言われていないのは、まだいなくなったという情報しか出ていないからなのか、それとも僕達が行方不明になった事件はすでに無かったこととして処理されたのか。


なんにせよ、無事と言っていいのかわからないけど、ちゃんと召喚されたようだ。



携帯を見ると、委員長から追加でメールと電話も来ていたので、仕方なく電話する。


「連絡が遅れてごめんね。ネットがどうのとか、ゲームがどうのとか、よくわからないメールが来てたけど、なんなの?」


「私も斉藤君みたいにオンラインゲームをやってみようかと思って、どれを買うか斉藤君に聞いた方が早いかなと思って連絡しただけよ。そうメールに書いたはずだけど……」


「あー、本当にそのままの用事なんだ。委員長がゲームをやるって想像がつかなかったから、何か暗号か何かになっているのだと思ったよ」


「私のことをなんだと思っているの?斉藤君を見ててやってみたくなっただけよ」


「そう。もしかしてずっと待ってたの?」


「買い物は後回しにして、とりあえずゲームをやるためのアカウントだけ作ったわ。ニュースで流れている話もしたいし、時間があるなら買い物に付き合ってくれない?」


「特に用事はないから大丈夫だよ。僕も買い替えたいと思ってたしちょうどいいかな。とりあえず駅に集合しようか」


駅に行くと、何故か立花さんもいた。

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