第264話 ログアウト

委員長が帰り、立花さんと協力プレイをした後、自身の力について色々と検証する。


委員長が来る前にログアウトすることで、向こうの世界にまだ行けることは既に確認済みだ。


今まではログインすると向こうの世界に行けたけど、今はログアウトすると向こうの世界に行けて、ログインで帰って来られる。


向こうでも変わらず魔法は使えて、ストレージも共有となっていたので、地球の物をこの世界に持ち込むことも、この世界の物を地球に持ち帰ることも可能になった。


ログインとログアウトが逆になっていることを考えると、今までは地球でログイン以外の力が使えないように制限されていたけど、その制限がなくなった状態で入れ替わったということだろうか。


まあ、地球でも力が使えるようになったということ以外に変化は無さそうだし、正直どっちでもいい。



十分に確認出来たところで検証を終え、翌日、幻影で姿を変えて王城に入り、警備が厳重なところでは時間を止めることで通らせてもらい、王の私室に侵入する。


部屋にはフランちゃんの他に、ルージュさんと護衛としてエドガードさんがいた。


「驚かせてごめんね。今日は謝りにきたんだ」

幻影を解き、時間を動かす。


3人には僕が急に現れたように見えただろうから、まずは驚かせたことを謝り、用件を伝える。


「それ以上フラン様に近づくな。おかしな動きをしたら迷わずその首を刎ねる」

ルージュさんが抜いた剣をこちらに向けて警告する。


「もう危害を加える気はないよ。生き返ったとはいえ一度殺したことを謝りにきたんだ。委員長を早めに帰還させるためにはああするしかなかったから。フランちゃんがもう僕の顔も見たくないって言うなら、今すぐに出ていくし、今後近寄らないと約束する」


「私はお兄さんのことを怒ってないです。元々帰還いただく為にこの命を捨てる覚悟で召喚しましたから、そのまま死んでいたとしても恨むことはなかったはずです。ただ、殺されるんだって思った時は、悲しかったです。お姉ちゃんもお兄さんと同じで私が召喚したと聞きました。お姉ちゃんは無事に帰ることが出来ましたか?」


「無事に元の世界に帰れたよ。目的を達成するためとはいえ酷いことをしたとは自覚しているんだ。ごめん。授与式を無茶苦茶にしたことも謝るよ。これ、お詫びのお菓子だから食べてね」

ルージュさんは警戒を解いていないので、エドガードさんに買っておいた高級なチョコレートを渡す。


「一つ聞かせてください。なぜあそこで事を起こしたのですか?あなたなら今こうしてここにいるように、いつでもフラン様を手に掛けることは出来たはずです」

ルージュさんに剣を向けられたまま聞かれる。


「あの場にいた全員がフランちゃんは死んだと思ったよね?一度死んだ者が生き返るというのはインパクトとしては十分だと思うんだ。フランちゃんの民衆からのイメージは正直あまりよくない。まだ幼いことに加えて、悪の親玉である前王の娘なのだから仕方ないけど、それを覆すほどに特別な存在だとアピール出来るかなって。あの後どうなったかは知らないけど、ルージュさんならうまくやってくれると思ってね」

あの場でフランちゃんが生き返るかもしれないと思ったのは、アリオスさんが生き返ったのを見たことのあるレイハルトさんくらいだろう。


「それなら先に一言話してくれてもよかったのではないですか?前もってわかっていれば、もっと冷静に処理することも出来ました」

“もっと“ということは、処理はしてくれたようだ。


「フランちゃんを殺すけど、生き返るから安心してって言っても止めるよね?委員長はあの後大分怒っていたけど、ルージュさんも怒って絶対認めないと思うんだよね。今は少し時間が経っているから落ち着いているだけで、剣を向けたのがその証拠だよ」


「……失言でした。確かに私が一時的にであったとしてもフラン様を殺すことを了承することはなかったと思います」

ルージュさんが剣を下ろす。


「そういうわけだから、誰にも言わずに行動に移すしかなかったんだ。話して協力してくれる人がもしもいたとしても、それはそれで信用出来ないから。剣も下ろしてくれたことだし、おやつでも食べながら雑談でもしようか。さっきのチョコレートってお菓子は後で楽しんでもらうとして、美味しいって評判のケーキを買ってきたんだ。エドガードさんとルージュさんも座って食べよう」

デパートの地下で買ってきたケーキの入った箱を開けて、フランちゃんに見せる。


「うわぁー!!美味しそう!」


「好きなのを一つ選んでいいよ」

食べたいやつを選ぶことが出来るように、全種類買ってきてある。


前に立花さんとケーキを買いに行った時、食べる時よりもどれにしようか選んでいる時の方が幸せそうだったから、店に連れて行くことは出来ないけど、同じ状況は演出してみた。


「それじゃあ………………これ!……やっぱりこれにしようかな……。でも、こっちの方がおいしそう……」

フランちゃんの指が色鮮やかなケーキの上をうろうろする。


「ルージュさん、こっちとこっちの箱に入っているケーキは冷凍して保存出来るそうなので、どうしても味は落ちてしまうそうですが、解凍して後日出してください。他の箱に入ってるケーキも冷凍すればしばらくの間保存は出来るそうですが、おすすめはしないそうです。ダメになる前に側仕えの方にでも配ってください」

店員さんに保存方法を確認したら、残念そうな顔をしつつも教えてくれ、冷凍の可否で箱を分けて入れてくれた。


基本的には今日中に食べて欲しいそうだけど、食べ切れず捨てるくらいなら冷凍して欲しいとのことだ。


「わかりました。製氷室に入れて保管しておきます。フラン様、こちらの箱のお菓子は後日でも食べられますので、こちらのお菓子にされてはどうですか?」

ルージュさんが僕の話を聞いて、フルーツタルトをフランちゃんに勧める。


フランちゃんの指先はクリームたっぷりのチーズケーキとフルーツタルトを行ったり来たりしており、チーズケーキの方は冷凍可能の箱に入っていたからだ。


「うん!これにする」

フランちゃんはルージュさんに言われた通りフルーツタルトを選ぶ。


「お茶の用意をさせますので少しお待ちください」

ルージュさんがケーキを箱ごと持って部屋を出ていく。


「あの、私を殺すことで召喚した人を元の世界に帰したということはわかっていますが、なんでお兄さんはまだこの世界にいるのですか?本当はまだお姉ちゃんも帰れてないのですか?」

フランちゃんに心配そうに聞かれる。


「さっきも言った通りちゃんと帰還出来ているよ。僕がこの世界にいるのは、自由に世界を渡ることが出来るからで、一度委員長と帰還してから、今度は僕の力でこの世界に来ているだけだよ。前にフランちゃんを殺す以外にも帰る方法はあるって言ったでしょ?今回は時間的なこともあってフランちゃんを殺すことにしたわけだけど、他にも帰る方法があるって話は本当だから。誓って嘘は言ってないよ」

実際のところは僕が特殊であり、召喚者を殺す以外の方法はかなりの無理難題ではあるけど、やり続けてもらうことを考えるとそんなことは知らない方がいい。


いや、召喚者が女王で、召喚された者に女王が狙われる可能性があるとわかっている騎士達が護っているのだから、召喚者を殺すことも無理難題だな。


僕や狩谷君みたいな殺人鬼が生まれることを願うべきかもしれない。


「よかったです。それに、予定は変わらず明日神事として召喚を行います。やっぱり私が死なないといつまでも帰れないのだと心配してましたが、少し心が軽くなりました」

フランちゃんの心が軽くなった分、僕の罪悪感が増したわけだけど、それでもフランちゃんが抱えることになる闇の方が遥かに深いので、少しくらいは肩代わりするのは仕方のないことだろう。


「明日は僕も見に行くからがんばってね」


「言いにくいのですが、クオン殿は女王陛下殺害犯として緊急手配されていまして、迂闊に出歩けば捕まることになります。特に明日は神事を行うために女王陛下が表舞台に出ます。昨日のこともありますので、警備は一層厳しくなってます」

エドガードさんが本来当人に話してはいけないことを教えてくれる。


「多くの目があるところで事を起こしたんだから、それは予想していたことだよ。まあ、こうして手配されていなくても簡単には入れないところに侵入出来ているわけだし、なんとかなるよ」

例えフランちゃん個人が許したとしても、あれだけ人がいるところでやったのだから、手配が取り消されることはないだろう。


「……クオン殿を捕えるのは骨が折れそうです」

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