第263話 エンディング
「ゲームクリアおめでとう」
フランちゃんの頭に穴を開けた直後、景色が真っ白になり、目の前には最高神様がいた。
謁見の間にはいなかった委員長もいつの間にか隣にいる。
「ありがとうございます。即帰還ではなくここに呼ばれたということは、何かあるんですか?」
「一応注意点を伝えないといけないと思ってね。本来は僕じゃなくてカディールの仕事なんだけど、一度も会ってない神より、僕の方がいいかなって」
カディールというのが、あの世界を管理している神のようだ。
確かにいきなり出てきても、誰だこいつ?となるだけなので、最高神様の方が助かる。
「お気遣いありがとうございます」
「状況がわからないのですが、帰還の条件を満たしたということでしょうか?」
恩賞授与の対象ではなく、謁見の間に入れなかった委員長が最高神様に聞く。
「そうだね。君達を召喚した者が命を落としたから、君達は元の世界へと帰ることになったよ」
「……フランちゃんを殺したの?」
委員長に怖い顔を向けられる。
「殺したけど、すぐに生き返っているはずだよ。蘇生魔法を遅延させて掛けておいたからね」
今、時間が進んでいるのかはわからないけど、進んでいるならもう生き返っているはずだ。
あの場にいたエドガードさんを含めた第1騎士団の騎士達には増産したリカバリーワンドを渡してあるので、一命を取り留めたフランちゃんを回復させてくれているだろう。
「生き返ればいいって話じゃないと思うけど。それに、生き返る確証はあるの?」
「絶対ではないけど、遅延魔法で蘇生魔法が発動するのは確認済みだよ。最高神様、教えてもらえるなら聞きたいのですが、問題なくフランちゃんは生き返りましたか?」
僕としては自分に与えられたスキルをちゃんと理解してこの決断をしている。
ゲームでも遅延魔法を発動した後に戦闘不能になってもちゃんと遅延魔法は発動していたので、これで生き返らないのであれば、流石に神様からの悪意が高すぎると恨むしかない。
「問題なく生き返っているから安心していいよ。先日の件もあるし、彼女には死なれたら困るから、そんな意地悪は考えもしていないよ」
「信じてはいましたが、一安心です。生き返らせるってわかってても委員長は反対したでしょ?だから、恥をかいてでもあの勝負で負けるわけにはいかなかったんだ。道徳的にも倫理的にも最悪なことをしたとはわかっているけど、残された手段から考えると悪くなかったと思っているよ」
「クオン君はいつでも帰れるわけだから、私が帰る為にフランちゃんを殺したってことよね?それで私が喜ぶとでも思ったの?」
委員長の怒りはフランちゃんが無事生き返ったと聞いても収まっていない。
「委員長が帰るためではあるけど、委員長が喜ぶとは思ってないよ。委員長は元の世界に帰りたいって言ったよね?タイミングもいいって言った。だから帰ってもらうことにした。それだけ」
「意味がわからないわ」
「最高神様、もう委員長に秘密を話してもいいですか?」
秘密があると話せている時点で大丈夫なんだろうけど、ちゃんと確認はとる。
「大丈夫だよ」
「委員長も気付いていた通り、死んだら元の世界に帰れるんだ。だから、僕は元の世界に帰りたい人を見つけたら殺して元の世界に帰す事にした」
「そうね。それはわかっているわ」
「これは僕がこのことを知った時に決めたメインクエストなんだよ。元の世界に帰りたい人は殺して元の世界に帰す。そこに殺される人の都合なんて関係ない。それは委員長も同じ。委員長は魂を移し替えられることに嫌悪感があるって言ったから殺すって選択をしたなかっただけで、委員長を喜ばせようなんて初めから考えてない。最高神様がフランちゃんが死んだことを話したからこうして説明しているだけで、委員長にどうやって帰ってきたのか説明する義務も僕にはない。まあ、ちゃんと話すつもりではいたけどね。僕は自分の決めたこのゲームをクリアする為に委員長を元の世界に帰した。それ以上もそれ以下もないんだ」
「それで私が納得するとでも思ってるの?」
「納得させようなんて思ってないよ。委員長が納得して帰りたかったなら、僕が行動に移す前に自分の力でなんとかして帰るしかなかったね。とりあえずもう過ぎたことだから、今は最高神様の話を聞かない?待ってくれているけど、この神様は委員長が思っている以上に偉い神様だよ」
「……わかったわ。時間を取らせてすみませんでした」
委員長が最高神様に謝る。
「別に気が済むまで言い合ってくれてもよかったんだけど、大事な話を始めようか」
「お願いします」
「2人に神の選定の話は不要だと思うから省略するよ。2人とも高い評価をされていて、今すぐに神として世界を創造することも可能だけどどうする?創造神スタートはかなりレアだよ」
やはり委員長も高い評価となっているようだ。
「ありがたいご提案ですが、お断りします。今はこの命を大事に生きたいと思います」
委員長が断る。
「僕も断ります。今すぐに神様になりたいとは思ってません」
僕の答えも当然ノーだ。
「形式的に聞いただけだから次の話に移るよ。神にならないならこの後生まれ育った世界に帰還するわけだけど、死亡以外で帰還した場合、基本的に他の世界で培った力が残ったまま帰還することになる。力を制限することはないけど、悪用した場合にはそれ相応の罰が下ると覚えておいて。それは世界のバランスを崩しかねない力だからね」
やっぱり力を持ったまま帰還できるようだ。
「わかりました。気をつけます」
「最後に、君達が死後神になることは決定しているんだ。神になった後何がしたいのか希望があれば聞いておこうか。リタイアではなくクリアしたご褒美だと思って、遠慮なく言ってくれていいよ」
「先日お世話になりましたので、ゲルレイ様の神殿の近くに僕も神殿を構えてゆっくりしたいです。あの世界のような大変な世界の管理はしたくないです」
嘘偽りない願望を最高神様に伝える。
「うん、可能な限りで考慮しようか」
「私は最高神様の考えに従います」
委員長は特に要望を出さなかった。
「君に合うポジションを用意しておくよ」
「お願いします」
「それじゃあ話はこれだけだから、さっきの話の続きは帰還してからじっくりとね」
最高神様が不穏なことを言いながら手を振る。
正直、もう委員長とあの話はしたくないんだけどな……。
そんなことを考えていると、ログアウトしていないのに自室に帰ってきた。
とりあえず、委員長の方から訪ねてこないなら放置でいいかな。
出来るなら、話すにしても少し時間を置いてからにしたい。
そんな願いは届かず、委員長はすぐに訪ねてくる。
「とりあえず、起きたことをぐだぐだ言った所で望む答えが帰ってこないのはわかったから、別の話をしましょうか。あのまま続けててもストレスが溜まるだけな気がするわ」
委員長は折れてくれたようだ。
正直ありがたい。
「そうしてくれると助かるよ。僕だけ自由に行き来出来たことで、最高神様から僕にだけ特別な条件が付け加えられていたんだ。まずはそれを説明するよ」
委員長に田中君が帰ってきた時のことに加え、殺す相手とは敵対しないといけなかったということも説明する。
帰ってきたからといって、神になっていた時のことは話していいとはならないと思うので、そこだけは秘密のままだ。
「大体思っていた通りね。斉藤君の家に来る前に少し調べたけど、クラスメイトが捕まっているのもそういうことなのね」
「そうだね。委員長の方がどうなっているのかわからないけど、こうして僕の通帳にはありえないくらいの大金が入ってた。最高神様が言ってた通り、僕がクラスメイトを殺したことは善行としてカウントされたのか、僕は捕まってないね。フランちゃんを一時的に死なせたことがどう判断されるかわからなかったけど、この様子だと許されたってことかな」
委員長に桁がバグっている通帳を見せる。
100億を超えるお金なんて中学生が持っていていい額ではない。
委員長を帰すためとはいえ、フランちゃんにしたことは間違いなく善行ではないけど、トータルで見た時に善行ポイントの方が高くて許されたのだと思う。
フランちゃん個人に対してだけでみても、監禁されているのを助け、王国の悪を滅ぼすのに協力し、女王となる手助けもした。
だから、最後の最後に酷いことをしたことをフランちゃんが許してくれていたらいいなと、身勝手なことを思う。
「一生働かなくても、贅沢しながら生きていけるわね」
「そうだね。中学を卒業してからの進路がこれで大体決まったよ」
「やっぱり進学しないんだ」
「必要ないからね。僕は投資家を名乗ることにするよ」
「斉藤君はこれからどうするの?私が使える力に比べて、斉藤君はおかしいと知覚出来る力が多いと思うけど」
「まあ、別に変わらないかな。指から火が出たところで、マジシャンや超能力者として注目を集めたいわけでもないし、ストレージの存在が便利だなって思うくらいだね。あ、これ委員長にあげるよ。バッカスっていうお酒の神様が造ったお酒だって。これを飲むと他の酒が不味く感じるようになるくらいに美味しいお酒だよ。大人になって、他の酒が不味くなってもいいから美味しいお酒が飲みたい!って思うことがあったら飲んでみて」
指先からライターのように火を出した後、樽から瓶に移し替えた神酒を委員長に渡す。
ストレージの中身もそのまま持って帰ってこれている。
消えたのは貨幣だけで、これは日本のお金に換金されたということだろう。
委員長ならこの麻薬のようなお酒をうまく使ってくれると思い渡した。
「……ありがとう。実際力を使うにしても表立って使うことはないわよね。もう少ししたら私達がいなくなった時のように、行方不明者が出たってニュースが流れるはずよね?」
委員長は微妙な顔で神酒を受け取り、神事の話をする。
「時間の流れが同じなら2日後だね」
「斉藤君は特に思うことはないの?」
「知っている人がいなくなったら、その時に考えようかなってくらい。実際に体験したから大変なのはわかるけど、顔も知らない他人だしどうでもいいかな。委員長は何かするつもりなの?」
「何かをする予定はないけど、心にトゲが刺さっているような感覚ね」
「望んでいるかは別として、神になるチャンスをもらっているんだから、拉致られた人はラッキーだと考えるしかないんじゃない?ゴキブリみたいな生き物に生まれ変わってすぐに新聞紙で潰される可能性もあるわけだし、神様になれるチャンスがもらえるっていうのは、実際かなりラッキーなことだと思うけどね」
僕と委員長以外に誰が神になるのか、気になるところだ。
「そうかもしれないわね……。どちらにしても向こうの世界に干渉出来るわけでもないから、頑張ってと願うことくらいしか出来ないわ」
「……そうだね。何か他に話はある?なければそろそろ立花さんとゲーム内で落ち合う時間だから、その準備をしたいんだけど」
「…………連絡先を教えて。聞きたいことをまとめて、先にリストにして送るから」
委員長に呆れた顔をされつつ、連絡先を聞かれる。
「わかったよ。委員長はこれから忙しくなると思うし、また時間がある時に連絡して」
※タイトルが紛らわしいですが、これで最終話ではないです。もう少しお付き合いください
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