第262話 愚者
「クオン君、何かした?」
勝敗を決定付ける為に手に入れたカードを数える所で、委員長に怖い顔を向けられる。
「どうかしたの?」
「またクオン君が一瞬ブレたわ」
「そんなこと言われても、僕に心当たりはないからなんとも言えないよ」
「……カードをすり替えたのね。私が手に入れたカードの数字がいくつか小さくなっているわ。ダイヤの6を勝ち取ったのはクオン君じゃなかったっけ?」
委員長が獲得したカードの束を確認しつつ、ダイヤの6を僕に見せる。
「僕が言えることは一つだけだよ」
「なに?」
「イカサマは現場を抑えないと負けにはならない。その時を逃したならイカサマだと気付いても諦めないといけない。そうだったよね?」
「……そうだったわね。クオン君はそう言いつつも正々堂々と勝負すると思ってたわ。勝つことが目的なら他にイカサマをせずとも勝てる勝負はいくらでも提案出来たはずだから。クオン君はこれで勝って満足なの?」
「満足しているように見える?」
あまりにも悔しい気持ちを押し殺し、恥だと分かった上で時間を止めるという禁忌を犯したんだ。
満足なんてしているはずがない。
勝負には負けたと認めた上で、汚い方法で試合には勝たせてもらったんだ。
「とても見えないわね。そうまでして勝ちに執着するなんて、クオン君は何をやろうとしているの?」
「それは委員長が勝ったら話すってことだったよね?結果は僕の勝ちだから話す必要はないよ。委員長に何を頼むかだけど、さっき僕の手札がわかった理由を教えてくれる?本当はあれだけじゃないよね?」
心配して言ってくれている委員長を突き放し、説明を聞いてもやはり無理があるとしか思えない謎の真相を白状させる。
「そういう約束だったから従うわ。それで、クオン君の手札がわかった理由よね。さっき言ったことがほとんどではあるけど、あそこまで絞れたのにはもう一つ決定的な理由があるわ。私だけが有利になるわけじゃないからイカサマとは思っていないけど、もしかしたらクオン君はイカサマだと思うかもしれないようなこと」
「イカサマまがいなことはしてたんだね」
そう言ってくれた方が納得は出来る。
「クオン君がはじめに言ってたけど、このトランプの裏面は全く同じに作られていない。模様はないけど、しわがあったり、変色しているところがあるよね?」
「そうだね。でも、委員長にこのトランプを見せるのは初めてだし、それがわかったところで、カードの裏を見ても表が何かはわからないよね?」
「このトランプだけど、職人さんが1枚の紙に全ての札を描いてから切っていると思うの。だから、こうやってカードを順番通り並べて裏向きにすると、しわがきれいに繋がるでしょ?勝負中にこうやって確認することは出来ないけど、例えば私の手札の3と、山札の1番上のカードの裏面が繋がりそうだと気付ければ、次に山札から場に出るカードが3に近い数字だと先にわかる。さっきの勝負に当てはめて言うなら、場にジョーカーが出た時に、私は次のカードが3だと予想出来て、ジョーカーを強いカードを使ってまで取る必要はないとわかるってこと。クオン君が先に裏向きでセットすれば少しだけ強いカードで勝つことも出来るし、ズルいことはしていたわ。質問の答えとして話すなら、頭の中でジグソーパズルをしていたってことになるのかな。パズルが完成すれば、裏面を見るだけで表の数字がわかるようになる」
「本当にそれが答えなの?」
これはカウンティングと同じで、技術として出来るかどうかの問題であり、イカサマではない。
僕も委員長と同じように裏面から表の数字を予想出来れば良かっただけだ。
与えられた条件は同じであり、委員長には出来て、常人の域から出られなかった僕には無理だというそれだけの話。
しかし、これも信じられる話ではない。
「約束だから嘘は吐いていないわ。この世界に来てから、以前にも増して頭の回転が速くなった気がするのよね。小学生の頃の私はこんな真似は出来なかったと思う」
レベルアップした影響か、それとも魂に強い衝撃を受けた影響か、何にせよ委員長はこの世界に来て人をやめたようだ。
「これは?」
裏向きになっているカードを指差す。
「ダイヤの10ね」
ひっくり返すと、委員長の言った通りダイヤの10だった。
「……すごいね。相当運がよくなければ勝てない勝負に、僕は挑んでいたみたいだ。僕の勝ち筋はイカサマするしかなかったってわけだね」
「ゲームとして楽しめなくなるから、手札から選ぶ時にそこはあまり考えないようにしていたわよ。取り返しのつかなくなる可能性のあるジョーカーの時と、最後にクオン君に話しかけた時だけ。クオン君が覚えているかわからないけど、私は出来るだけクオン君よりも先にカードを出すようにしていたわよ」
ゲームバランスを気にしてのことで悪気はないみたいだけど、手加減されていたようだ。
「無事に元の世界に帰れたら、また相手をしてもらっていいかな?今度はちゃんと勝つから」
「もちろんいいわよ。勝つのは私だけどね」
委員長との勝負を終えた翌日、討伐祭の恩賞授与式が行われる。
まずはフランちゃんから民衆に向かって、後日行われる神事の際に使われる捧げ物が、この討伐祭にて多く集まったことへの感謝と労いの言葉が伝えられる。
その後、ルージュさんの進行で授与式は進められ、会場を謁見の間に移してから恩賞を授かることになった人達の名前が呼ばれていく。
謁見の間には、恩賞を授かることになった人達の他に、ルージュさんと兵士に騎士、それから数日後に行われる神事に呼ばれて前乗りしている他国の重鎮の一部がいる。
「モーガン、前に」
「はい」
ルージュさんに名前を呼ばれ、モーガンはガチガチに緊張しながらフランちゃんの前へと進む。
恩賞を受ける者は先に連絡を受けており、皆正装をして並んでいる。
「サンドドレイクを4体討伐し、神様への捧げ物に大きく貢献した功績に対し、恩賞を授けます」
フランちゃんが皆に聞こえるように大きな声を発し、貨幣の入った袋をモーガンに手渡す。
「ありがとうございます」
モーガンは頭を下げたまま袋を受け取り、元の位置に下がる。
渡される物が違うだけで、同じことが並んでいる人の数だけ進められていく。
「第1騎士団団長レイハルト、前へ」
「はっ!」
並んでいる人も残り2人となり、レイハルトさんが呼ばれる。
「ハイドレイクを含む数多くの魔物を討伐した功績に対し、騎士団に恩賞を授けます」
「騎士団を代表してお受け取りします」
「冒険者クオン、前へ」
レイハルトさんが下がり、僕の名前が呼ばれる。
ルージュさんに頼んで、僕の番は最後にしてもらった。
「個人でヒートドラゴン含む多数のドレイク種を討伐した功績に対し恩賞を授けます」
フランちゃんが金貨の入った袋をこちらに差し出す。
「大事な話があるんだ」
僕はフランちゃんにだけ聞こえるように声を抑えて話しかける。
「どうしたんですか?」
フランちゃんに小さい声で聞かれる。
「僕達が今すぐ帰るにはこうするしか道は残ってないんだ。痛いのは一瞬だから─────ごめんね」
ストレージから石を取り出し、そのまま魔力を圧縮させて、フランちゃんの頭に向かって射出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます